進学塾の遅れて来た怪談なのよ!(後編)

 私は箕輪まどか。高校生の霊能者。


 久しぶりにG県警霊感課に依頼が入った。


 依頼主はG県最大の予備校であるGゼミの校長先生だった。


 今年は例年になく受講生が増加し、収まり切らなくなったため、長い間使用されていなかった別館を使う事になった。


 するとその別館で怪現象が起こり出したのだという。


 急遽現場に赴いた私達は、怪現象の原因が校長先生にあると推理した。


 そこで、ツンデレの星である綾小路さやかが校長先生に詰め寄った。


「あんたね!」


 私の素晴らしいまでの前回のあらすじを聞き、サーヤが怒った。


「だから、そのサーヤはやめて!」


 さやかはムッとして私を睨みつけた。


「大久保君もサーヤって呼んでいたよ」


 私がニヤリとすると、


「嘘吐いてもわかるわよ」


 更にムッとされてしまった。大久保君とは、さやかが密かに片思いしているクラスメートだ。


「そうじゃないわよ!」


 さやかは更に切れた。絶好調だ。


「……」


 遂に白い目で見られたので、やめとこうかな。


「校長先生、思い当たる事があるんですね? 話してください」


 霊感課の課長である我が兄慶一郎が某少佐のように通常の三倍の凛々しさで言った。


 どうしてなのだろうと思ったら、心配して見に来ている職員の中に美人がいたからだった。


 兄貴の「美人レーダー」は超高性能だ。ホントにどうしようもない……。

 

 校長先生は観念したような顔をして溜息を吐くと、説明してくれた。


 


 校長先生は元々別の予備校の講師だった。


 しつこいようだが、「今でしょ」と言っていた人ではない。


 今から三十年前、Gゼミの創業者である初代校長がヘッドハンティングしたのだそうだ。


 校長先生、昔は凄腕の講師だったのだ。


 校長先生が転職したのを皮切りに次々に講師がGゼミに転職した。


 そのお陰でGゼミは県で一番の予備校となり、東大や京大にも合格者を出す有名進学塾に成長した。


 それと反比例するように元いた進学塾は寂れ、最後は潰れてしまったらしい。


「そうなんですか」


 ここぞとばかりに世界を救うお題目を唱えた。みんなの白い目にも負けないまどかである。


 そう言えば、今更なんだけど、ヘッドハンティングって何?

 

 その後、一緒に転職して来た講師の皆さんは更に他の予備校に移った方や、初代校長と反りが合わずに辞めた人がほとんどで、今は校長先生しか残っていないそうだ。


「これを見てください」


 校長先生はスーツの内ポケットから封筒を取り出し、兄貴に渡した。


「拝見します」


 兄貴は中から便箋を取り出して読んだ。


 驚くべき内容だった。


 その潰れた進学塾の経営者からの呪いの言葉が記されていたのだ。


「お前の人生を破壊し尽くす」


 その文字は赤かった。書いた人の血だ。震えてしまいそうなくらいの怨念が宿っている。


「まどか!」


 さやかが叫んだ。私は彼の江原耕司君とその妹さんの靖子ちゃんに目配せし、校長先生に取り憑こうとした呪い対して、


「オンマリシエイソワカ」


 浄化真言である摩利支天真言を唱えた。


 バシュウッと音がして、呪いが浄化され、張りつめた空気が解きほぐされた。


 ホッとしていると、


『まだ終わっていませんよ、まどかさん』


 霊感課に本部長と残っている小松崎瑠希弥さんと神田原明蘭さんの声が聞こえた。


「そんな!」


 気がついた時は完全に囲まれていた。


 Gゼミは駅の東側にあるのだが、方角は鬼門なのだ。


 Gゼミの更に北東にあるビル、そして駅、更には東西南北の方角から一斉に強力な呪いと悪霊達が大挙して押し寄せてきていた。


「私達が来るのを待っていたという事?」


 さやかがキッとして言った。


「みんな、七福神の力を解放して!」


 私は咄嗟に叫んだ。今こそここ数ヶ月特訓をして来た成果を試す時なのだ。


「はあ!」


 私は大黒天の力を解放し、江原ッチは寿老人の力、親友の近藤明菜は福禄寿の力、その彼氏の美輪幸治君は毘沙門天の力、を解放した。


「リッキー!」


 靖子ちゃんは彼氏である力丸卓司君の背中をポンと叩き、自分は弁財天の力、そしてリッキーからは布袋尊の力を解放した。


「坂野君!」


 気功少女である柳原まりさんはすっかり仲良くなっている坂野義男君の中の恵比寿天の力を呼び出すのを手伝った。


『さやかさん、七福神の力で防ぎ切れない悪霊を浄化してください』


 瑠希弥さんの声がさやかに告げた。


「はい!」


 危うく不貞腐れそうだったさやかがニコッとして印を結ぶ。


「な、何が起こってるんだよ?」


 事情が呑み込めていない兄貴は校長先生と辺りを見回していた。


 じっくり見てしまうと気持ちが悪くなるくらいの数の悪霊と呪いが迫る中、七福神の力が一つに合わさり、Gゼミを押し包みそうな悪意を弾き飛ばした。


 ほとんどの悪霊は七福神の力で浄化したが、幾つかがそれを突破して来た。


「そうはさせないわ! オンマケイシバラヤソワカ!」


 何とさやかはあの西園寺蘭子お姉さんの裏バージョンさんが得意だった究極の破壊真言である自在天真言を唱えた。


 その途端、悪霊達は粉微塵に粉砕され、同時に浄化されてしまった。何、今の?


 私は思わずさやかを見た。さやかは得意そうな顔で、


「どう? これが名倉英賢様直伝の真言の融合よ。摩利支天真言を自在天真言に内包させたの」


 嫌味の一つも言えないくらい私は打ちのめされていた。


 それは江原ッチも靖子ちゃんも一緒だった。


 


 まだ事件は解決した訳ではない。


 敵はもうGゼミに仕掛けて来る事はないと思うが、根はまだ断てていないのだ。


「サヨカ会残党の気を感じました」


 霊感課に戻ると、瑠希弥さんに言われた。一気に私達は緊張した。


「ですが、上田親子の気は感じませんでした。恐らくあの二人は富士山麓にいます」


 明蘭さんが凛々しい顔で言ったので、江原ッチと美輪君とバカ兄貴がデレッとした。


 今はそれどころじゃないから、お説教は後だ。


「上田親子は鴻池大仙が成し遂げられなかった事を受け継ぐつもりのようです」


 瑠希弥さんが言った。


「となれば、間違いなく彼等がいるのはあの大仙が本部を構えていた場所」


 明蘭さんが言った。まだ生々しく覚えている。


 みんなで必死の思いで戦ったあのおぞましい建物があったところだ。


「今、西園寺先生と八木先生が調査に行かれています」


 瑠希弥さんは少し心配そうな顔をしている。


 麗華さんはともかく、蘭子お姉さんはまだ病み上がりなのだ。


 まあ、この前の再会した時の勢いを見る限り、取越苦労かも知れないけど。


「あの場所には関東一帯を破壊できるくらいの気の流れがあるのです」


 明蘭さんの言葉にまりさんがピクンとした。


「富士の気脈を利用するつもりであれば、断固阻止するのみです」


 まりさんの気が高まり、危うく霊感課のフロアが吹き飛んでしまいそうになった。


 


 いよいよ最終回が近いのかと妙な事を心配してしまうまどかだった。

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