人間凶器が多過ぎるのよ!

 私は箕輪まどか。高校生の霊能者だ。


 いよいよ新学期が始まり、かつて共に戦った事がある柳原まりさん、そして綾小路さやかの二人が正式に転校して来て、何とした事か、二人共私と同じ一組になった。


 柳原さんはクラス中の男子をいきなり虜にしてしまったが、全く自覚症状がないのが怖い。


「私は好きな人がいるので」


 笑顔全開で次々に告る男子を撃沈させるまりさんは、私のお師匠様でもあるあの暴力的なスタイルの小松崎瑠希弥さんと肩を並べたのではないかと思ったほどだ。


 告る男子の列に素知らぬ顔をして親友の近藤明菜の彼である美輪幸治君が並んでいたのには呆れてしまった。


「まどかちゃん、アッキーナには内緒にしてね」


 美輪君は会心の土下座でそう言ったが、あの嫉妬の化身のような明菜でも、まりさんが相手なら諦めると言っていたほどだから、どうなのだろうか?


「何だか凄く不愉快なんですけど」


 さやかは、まりさんに撃沈された男子達が行列を作って告って来たのが実は嬉しいくせにそんな強がりを言っている。


「強がりなんかじゃないわよ!」


 心の声が聞こえてしまうさやかはムッとして反論した。そして、


「私の本命は彼だし」


 頬を朱に染めて恥ずかしそうに大久保健君を見る。さやかは大久保君に、


「その可愛い子、何なの?」


 そう言われ、それ以来彼の事が気になっているのだ。案外純情なのね、サーヤは。


「だから、そのサーヤはやめてって言ってるでしょ!」


 更に顔を赤くして怒る。


「無理だろうけど」


 悲しそうな顔をして呟いた。そう、大久保君の心の中には、幼馴染の高橋知子さん(前生徒会副会長)がいるのだ。だから彼はまりさんにすら目もくれない。


 さやかも片思いだけど、大久保君も片思いなのよね。


「だから、その可能性に懸けるのよ!」


 さやかはいつになく真剣モードだ。かつて私の彼だったような気がする牧野徹君と別れて、ずっと一人だったから、焦っているのだろうか?


「焦ってなんかいません!」


 さやかはプリプリして私を睨みつけた。もうやめとこうかな。


「いい加減にしてよね」


 さやかはそう言うと、自分の席に着き、また大久保君を見つめている。


「まどかりん、大久保が気になるの?」


 三組の教室から、私の彼の江原耕司君が来た。江原ッチは、大久保君が私に気があるとまだ疑っているのだ。


 結構嫉妬深かったんだな、江原ッチも。あれ?


「江原耕司様、そうおっしゃいながらも、視線はまりさんに向けられている理由をお聞かせ願えますか?」

 

 明菜直伝の絶対零度攻撃を繰り出すと、


「ひいい!」


 江原ッチだけではなく、美輪君までビクッとしていた。美輪君、まだ見てたのね、まりさんを。


 本当に男って奴は……。溜息しか出ない。


「ああ、いたいた、耕司君。貴方のクラスは三組よ」


 そこへツインテールの吊り目の女の子がニコニコしながら入って来た。


 江原ッチのクラスメートの原田ひかるさんだ。


 彼女も男子には人気がある可愛い子だが、どういう訳か、江原ッチにご執心らしい。


 しばらくぶりなんだけど、ご執心て何?


「あ、ひかるん」


 江原ッチはそう言ってしまってから、バツが悪そうな顔で私を見た。


「あ、貴女が耕司君の彼女の箕輪さんね? 私、耕司君のクラスメートの原田ひかる。よろしくね!」


 原田さんは妙なポーズを決めながら自己紹介した。もう知ってますとは言えないなあ。


「よろしく」


 苦笑いして応じると、江原ッチは原田さんの死角に入って必死に詫びている。「ひかるん」だなんて、まるで恋人同士みたいでしょ、バカめ!


「さ、行きましょ、耕司君」


 原田さんはこれ見よがしに大きな胸を強調しながら江原ッチと腕を組んで、教室を出て行こうとする。


 さすがにカチンと来た私だったが、


『インダラヤソワカ』


 一足先にさやかが帝釈天真言を唱えていた。


「ぐぎゃ!」


 弱めの雷撃が原田さんと江原ッチを直撃した。江原ッチは私が仕掛けたと思ったのか、声を出さずに詫びを続け、倒れかけた原田さんを抱えるようにして出て行った。


「江原の奴、後でじっくり話をしないといけないな」


 美輪君もムッとしていた。二人が争うと血を見そうなので、それは避けて欲しいのだが。


「ありがとう、さやか」


 少しは気が治まった私は、さやかにお礼を言った。


「どう致しまして」


 さやかは微笑んで応じた。


 


 そして、その後は特に問題も起こらず、授業は終わった。


 今度は下校するまりさんと一緒に帰ろうとするバカ男子達で玄関の下駄箱がごった返している。


 全く、どうしようもないわね。


「まどかさん、さやかさん、明菜さん、また明日ね」


 まりさんは私とさやかと明菜に邪心のない笑顔を振りまき、校庭を駆けていく。


「あ!」


 校門の脇には、中学校の後輩である坂野義男君がいた。


「あいつが柳原さんの彼なの?」


 男子達は血の涙を流しそうなくらいガッカリしていた。それにしてもまりさんと坂野君、どんどん交際が進んでいるみたいね。


「お!」


 項垂れている男子達が突然復活した。何だろうと思って、もう一度校門の方を見ると、そこには奇跡のツーショットがあった。


「まどかさん!」


 何と、瑠希弥さんと、神田原明蘭さんが並んで手を振っていたのだ。


「うおお!」


 私と明菜の手前、大人しくしていた江原ッチと美輪君も押さえが効かなくなったのか、雄叫びをあげて二人に向かって走り出した。


 それに続くバカ男子の一団。どうしようもないな。


「お久しぶりです、瑠希弥さん、明蘭さん!」


 江原ッチと美輪君のテンションの高さに私と明菜は呆れてしまい、怒る気力も湧かない。


 バカ男子達は瑠希弥さんと明蘭さんの前に奇麗に二つに分かれて整列した。


「何で男子達、二列に別れているの?」


 明菜はその光景が不思議だったようだが、私とさやかには理由がはっきりわかっていた。


「巨乳派と微乳派ね」


 さやかが言葉に気を遣って呟いた。


 人間凶器のような人達がたくさん集まって、また気を揉んでしまいそうなまどかだった。

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