人生最大の驚きその弐なのよ!

 私は箕輪まどか。高校生の霊能者だ。


 あれこれあった一学期がようやく終わり、夏休みに入ったと思ったら、もう終わりそうだってどういう事よ!?


 それもこれも、あの上田親子のせいね。しかも、上田親子達が邪魔したから、随分以前に生まれた兄貴の子供に全然会いに行けなかった。


 その子の名前は「小町」。ちょっと古めかしい名前だけど、日本で指折りの美人の名前だから何も差し支えない。


 え? 誰の事か、ですって? そんなの、自分で調べなさいよ!


 も、も、もちろん、私は知っているわよ、当然じゃない。もう高校生なんだから……。


 すみません、嘘を吐きました……。


 


 私は今、憧れの人である西園寺蘭子お姉さんが運転する車で、兄貴の奥さんであるまゆ子さんの実家に向かっている。


 何故蘭子お姉さんと二人なのかというと、まゆ子さんに頼まれたからなのだ。


 どういう事だろう?


「こうして、まどかちゃんと二人でドライブするなんて、初めて会った時以来かしらね」


 蘭子お姉さんはニコニコしてそう言ってくれたが、私はまゆ子さんが何を考えているのか気になっていて、


「はあ、そうですね」


 気のない返事をしてしまった。


「あれからいろいろあったわね」


「そうですね」


 また気のない返事をしてしまう。でも優しい蘭子お姉さんは微笑んだままだ。


「まどかちゃん、まゆ子さんが何故私を呼んだのか、気になっているのね?」


 里見邸が前方に確認できた時、蘭子お姉さんが真顔になって言った。


 私はギクッとしてしまったが、蘭子お姉さんに隠し事はできない。


「はい。それに、私にとっては姪なのに、随分と長い間、生まれたのを教えてくれなかったのも気になっているんです」


 私が小町が誕生したのを知ったのは、夏休み直前だった。


 母が電話で誰かと話しているところへ帰宅したら、慌てて電話を切られた。


 あまりそういう事はしたくなかったのだけれど、どうにも気になったので電話の相手を探ってみた。


 すると、それはまゆ子さんで、そばに新しく生を受けた誰かがいるのがわかった。


 エロ兄貴が私に子供が生まれたのを隠しているのはまだ仕方がないと思う。


 でも、母までが私に黙っていたのが納得ができなかった。


 家の中で孤立してしまった感じがした私は、普段は決して招き入れない父を部屋に呼び、相談した。


 父は考え過ぎだと言って笑った。そして、自分も小町が生まれたのを昨日知ったところだと言った。


 父が私を慰めるために嘘を吐いているのがわかり、嬉しくて思わず抱きついた。


 父は顔を真っ赤にしてオロオロしていた。


「私が呼ばれたのも、まどかちゃんに情報が伝わらなかったのも、同じ理由よ」


 蘭子お姉さんはまたニコッとして言った。私は何の事かわからず、キョトンとしてしまった。


 


 大きな庭の向こうにある大豪邸の脇にあるそこそこ大きな新築の二階建ての家が、兄貴とまゆ子さんのスイートホームだ。


 蘭子お姉さんは家の前にある駐車スペースに車を駐めた。


「お待ちしてました、蘭子さん、まどかちゃん」


 まゆ子さんが出迎えてくれた。エロ兄貴は蘭子お姉さんが来ると聞き、休みをとろうとしたらしいが、まゆ子さんが裏から手を回して、西表いりおもて島への研修旅行に行かされてしまった。


 何年か前、兄貴がまゆ子さんに使ったのと同じ手だ。まゆ子さん、かなり根に持つタイプなのね。


 私達はそのまま小町が眠っている子供部屋に通された。


「え?」


 その途端、謎が全て解けた。何故私が小町が生まれたのを教えてもらえなかったのか、何故今日蘭子お姉さんが呼ばれたのか。


「小町ちゃんは、生まれながらにして強大な霊能力を持っているようですね」


 蘭子お姉さんがまゆ子さんを微笑んで見る。いや、笑顔で言う言葉じゃない気がするけど……。


『あ、おばちゃん、やっと来てくれたね』

 

 どこかから声が聞こえる。もしかして……?


 私は恐る恐る小町を見た。でも、小町は眠ったままだ。


『さすが、おばちゃんね。気づいてくれた?』


『何でおばちゃんなのよ! お姉ちゃんでしょ!』


 私は妙なところが引っかかってしまい、突っ込んだ。


『だって、パパの妹だから、私にとってはおばちゃんでしょ?』


 正論を言われ、黙るしかないまどかである。兄貴の事をパパとか呼ぶのは気持ち悪いからやめて欲しいが。


『すごいわね、小町ちゃん。眠ったままで会話ができるなんて』


 蘭子お姉さんが割り込んできた。


『うん。まあね。お姉さんもすごい力を持っているのね。仲良くしてね』


 私はおばちゃんで、蘭子お姉さんはお姉さん……。納得がいかない。


『もちろんよ。貴女は私の親友の姪なのだから』


 蘭子お姉さんが私を見てニコッとしてくれた。


 決してそういう趣味はないドノーマルな私だが、その笑顔にはドキドキしてしまった。


『まだまだ未熟な叔母ですが、よろしくお願いします、蘭子お姉さん』


 小町が更にしゃくさわる事を言う。ムカつくが、何も言い返せない。


『そんな事ないわよ。まどかちゃんはもう一人前よ。私の方が教えてもらう事が多いと思うわ』


 謙虚の塊のような蘭子お姉さんの言葉に感動してしまった。


 また戻って来た綾小路さやかや、蘭子お姉さんの親友である八木麗華さんに見習って欲しいくらいだ。


 


 居間に戻り、お茶をいただきながら、まゆ子さんの話を聞いた。 


 それによると、小町の周囲で怪現象が頻発したのだという。


 母乳の出が悪いまゆ子さんが粉ミルクを哺乳瓶で飲ませようとし、ちょっと目を放した隙にいつの間にか小町が飲んでいた事があった。


 またある時は、小町のおむつを取り替えようとしてかかってきた携帯に出ていると、いつの間にかオムツが替えられていた事もあった。


 まゆ子さんのご両親は、悪い霊が取り憑いたのだと考えた。


 これは全然聞かされていなかったのだが、兄貴とまゆ子さんの結婚はご両親が反対していた。


 その理由が私の存在。それを聞かされた時は泣きそうになった。


 兄貴とまゆ子さんは一生懸命ご両親を説得した。


 私に助けられた事がたくさんあると言って。また泣きそうになった。


 そんな事があったせいで、ご両親がまた私の事を持ち出し、騒ぎ出したので、落ち着かせるために兄貴と再び説得したという。


 そして、蘭子お姉さんの話をし、小町を診断してもらう事に同意してもらったそうだ。


「小町ちゃんは大丈夫です。何も心配要りません。ご両親にそうお伝えください」


 蘭子お姉さんは微笑んでまゆ子さんに告げた。


「ありがとうございました」


 まゆ子さんは泣きながら蘭子お姉さんにお礼を言い、


「まどかちゃん、本当にごめんなさい。これからはいつでも小町に会いに来てね。部屋に入って小町が泣かなかったの、蘭子さんとまどかちゃんが初めてだから」


 涙を拭いながらそう言ってくれたので、私はもらい泣きしてしまった。


 ふと見ると、蘭子お姉さんも泣いていた。


 


 いつになくいい話だったと思うまどかだった。

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