高校一年生編なのよ!

遂に私もJKなのよ!

 私は箕輪まどか。遂に皆さんお待ちかねの女子高生にバージョンアップだ。


 え? 誰も待っていない? お前の貧相な胸に興味があるのは鑑識課の宮川さんだけですって?


 うるさいわね! 牛乳に相談したら、雨後の筍のように成長したって言ったでしょ! 


 信用していないのね? でも、見せたりしないわよ。私はそんな女じゃないんだから。


 どうしてもって言うのなら、夏まで待ってよ。そうしたら、ビキニの水着で悩殺してあげるから。ムフ。


 そこ! バケツ抱えて何してるのよ!?


 


 という訳で、前説はおしまいよ。


 高校に進学が決まった私達は、邪教集団であった復活の会との戦いを終え、お疲れの会をG県警の本部長が開いてくれた。


 本部長は粋な計らいをしてくれて、神田原明蘭さんだけでなく、その母親の明鈴さんも呼んでくれた。


「私が出席していいの?」


 会場となった県警の地下にある霊感課のフロアに来て、明鈴さんが言った。もちろん、以前のように露出の多い服装ではなく、黒のワンピース。袖も手首まで、丈は足首まであるものだ。そのせいで明蘭さんと更によく似て見えた。


「いいんですよ、明鈴さん。貴女は邪悪から解き放たれたんです。もう何も悔いる事はないんです」


 霊感課の課長である我が兄の慶一郎がキリリとした顔で言った。


「素敵」


 明鈴さんは毒気を抜かれたせいか、以前は兄貴を虜にしたのに、今では自分が虜になっている。


「お母さん、課長には奥さんがいるのよ」


 そう言って明鈴さんを窘めている明蘭さんも、ポオッとして兄貴を見ている。


 エロ兄貴め、奥さんのまゆ子さんに言いつけちゃうぞ。


「やっぱり、まどかのお兄さんてかっこいいわね」


 親友の近藤明菜までそんな事を言い出して、彼氏の美輪幸治君をヤキモキさせている。


「課長といつか勝負していいか、まどかちゃん?」


 真剣な表情で質問され、私は苦笑いするしかない。


「お兄さんて早く呼ぶ日が来て欲しいな」


 私の彼の江原耕司君の妹さんである靖子ちゃんまで兄貴にウットリしている。ちょっと問題だな。


「靖子ちゃん、そりゃないよお」


 靖子ちゃんの彼である同級生の力丸卓司君は泣きそうな顔で呟いた。


「たくさん食べてくださいね」


 霊感課の経理担当である力丸あずささんが言った。あずささんはリッキーのお姉さんで、兄貴と同級生だ。


 そして、同じく同級生である朽木孝太郎さんと交際している。


 孝太郎効果なのか、あずささんだけは兄貴に落とされていないようだ。


「まどかりん、お兄さんにくれぐれも靖子にはちょっかい出さないように言ってよね」


 江原ッチまでが心配してそんな事を小声で言った。


「いくらなんでも、靖子ちゃんには何もしないわよ、兄貴も」


 苦笑いパート2をするしかないまどかである。


 ふと気づくと、兄貴は明蘭さんに近づいて話をしていた。明鈴さんがそれを寂しそうに見ているのはちょっと怖い。


「あずささん、孝太郎さんには兄貴の所業を言わないでくださいね」


 私はつい心配になり、あずささんにお願いしてしまった。するとあずささんは、


「孝ちゃんは慶君の事をよく知っているから、全然気にしてないわよ。それより、本部長の目の方を気にした方がいいわ」


 相変わらずの甘党発揮で、ドボドボと角砂糖をコーヒーカップに落としながら言った。


 私はハッとして本部長を見た。そうだ。本部長の前で兄貴がエロ丸出しでは、今後の出世に響き、まゆ子さんの実家との関係もまずい事になってしまう。


 そうなると当然、兄貴はそのしわ寄せを私に向けて来るのだ。非常にまずい。


「あれ?」


 ところが、そんな心配をしたのがバカバカしくなるような光景がそこにはあった。


「明鈴さんには県警の新たな部署に入って欲しいのです」


 真面目な話をしながら、しっかり明鈴さんの服の上からもわかる大きな胸を凝視してる本部長。G県警は大丈夫なのだろうかと思ってしまう。


「ありがとうございます」


 明鈴さんは嫌がるかとも思ったが、本部長の視線に気づく事なく、その目は兄貴に向けられたままだ。


 本部長、可哀想。


「では、場所を変えてお話しましょうか、明蘭さん」


 兄貴は気取って明蘭さんの肩を抱こうとしたが、


「ごめんなさい、課長。私、坂野君を待っていますので」


 そう言って、するりとかわしてしまった。兄貴は唖然としている。少しは反省しなさいよ、エロ兄貴!


「遅くなってすみません」


 するとそこにタイミングを計っていたかのように坂野義男君が入って来た。


「坂野君」


 明蘭さんがその日一番の笑顔で坂野君を迎えた。


 どうやら明蘭さんて、ショタコンらしいのだ。大人の男性ではなくて、坂野君のような男の子が好きらしい。


「どうして坂野なんだろう?」


 江原ッチと美輪君とリッキーが揃ってボソリと呟いたのを私と明菜と靖子ちゃんは聞き逃さなかった。


「あとでゆっくりお話しましょう」


 それぞれの後ろに立ち、できるだけ冷たい口調を心がけて囁いた。


「ひいい!」

 

 江原ッチと美輪君とリッキーは見事な悲鳴の三重奏をあげた。


 ところで話を戻すけど、ショタコンて何?


「食事をしながらでいいので、ちょっと聞いて欲しい」


 本部長が言った。いつの間にか、大真面目な顔でその隣に立つ兄貴。その変わり身の早さを見て出世すると思った。


「大きな戦いも一段落して、霊感課の仕事もこれからはしばらく落ち着くと思う。だが、まだ全てが終わった訳ではない事を思い出して欲しい」


 本部長が言っているのは、以前少しだけ活動を垣間見させたサヨカ会の事だ。


 宗主の鴻池大仙は死に、息子の仙一も力を失った。


 でも、残党がいるのだ。


 そのほとんどは尊敬する西園寺蘭子お姉さん達が退治してくれたのだが、末端の支部の構成員となると全滅したとは言えないのだ。


「これからも霊感課の諸君の活躍に期待しています」


 本部長が敬礼した。兄貴がそれに応じ、そして私達も応じた。


 さて、新生霊感課の活躍は、これからよ。


 期待で胸が膨らむまどかだった。変な突っ込みはしないでよね!

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