いつの間にか時が過ぎ去っていたのよ!

 私は箕輪まどか。中学生の霊能者だ。その自己紹介でいいと思っていた。


 何故なら、ついこの前まで、初詣に行ったところで、邪教集団の復活の会と戦っていたからだ。


 ところが、時の流れとは無情である。


 私達は、いつの間にか高校受験を終え、中学校を卒業し、春休みに入っていたのだ。


 何て事よ!


 人生でも数少ない一大イベントである高校受験が知らないうちに終わっていたの?


 それもこれも、無計画に話を進めるバカ作者のせいだ。


 中三と言えば、一月からが一番大事な時期なのに! 私はどこの高校を受けたのかもわからないわよ!


「何を独り言言ってるんだ、まどか? 薬を飲むのを忘れたのか?」


 どこかで聞いた事のある声が聞こえた。これは確かエロ兄貴の慶一郎の声だ。


「誰がエロ兄貴だ! 失礼な事を言うな!」


 いきなり鼻を摘まれた。


「え?」


 ハッと我に返った。またいつもの癖で、声に出して愚痴を零していたらしい。


 私は今、兄貴が課長を務めるG県警霊感課のフロアに来ているのをすっかり忘れていた。


 エロ兄貴はブツブツ言いながら自分の席に戻っていく。


 それを見ていて、ある事に気づく。


「お兄ちゃん、私は薬なんか飲んでないわよ! どういう意味よ!?」


 兄貴がどさくさ紛れに言った嘘を全力で否定した。可愛い妹を重症患者みたいに言うとは、何と酷い兄貴だろうか。


「課長、そんな事を言ったら、まどかちゃんが可哀想じゃないですか」


 私にコーヒーを淹れてくれた力丸あずささんが素敵な笑顔で言ってくれた。


「冗談ですよ、力丸さん」


 今更ながら思うのだが、私達霊感課の捜査員が不在の時、あずささんは兄貴と二人きりでここにいるのだ。


 ライオンの檻に生肉を背負って入り込んでいるようなものだろう。


 あずささんは、同級生だった力丸卓司君のお姉さんで、兄貴と同級生。力丸家とは何かと縁があるのだ。


 兄貴があずささんにエロい視線を向けないのは、あずささんが同級生の朽木孝太郎さんと付き合っているからだ。


 中学時代、兄貴と孝太郎さん、そしてかつて付き合っていたような記憶が微かに残っている牧野徹君のお兄さんの三人は、女子達の人気を分け合っていたのだ。


 孝太郎さんは兄貴の悪行の数々をたくさん知っており、朽木家は県警の上層部とも親密なので、あずささんにちょっかいを出す勇気が湧かないのだろう。


 少しはエロを自粛できるのか、と感心してしまった。


「でも良かったわ、卓司もまどかちゃん達と同じ高校に入れて。私、心配だったから、卓司の勉強を見てあげたのよ」


 あずささんはホッとした顔でそう言った。なるほど、リッキーも同じ高校という事は、私は共学校に入学したのね。


 G県は大昔は、男女共学は私立校だけだったのだ。


 お父さんの時代より後から、少しずつ共学校が設立されるようになったのだという。


 男も女も、異性がいないとどんどんだらしなくなるから、共学の方がいいと思うまどかである。


 あれ? リッキーと同じ高校なのはどうでもいいとして、私の彼の江原耕司君や、親友の近藤明菜、そして明菜の彼の美輪幸治君はどうなったのだろうか?


「卓司だけ違う高校だったら、どうしようなんて思って、夜も眠れない事があったわ」


 あずささんはコーヒーにドボドボと無数の角砂糖を入れながら嬉しそうだ。多分あの量だと、溶け切っていないと思う。


 あずささんは食事の量も凄いとリッキーに聞いた事がある。


 その上、コーヒーや紅茶を飲む時は、砂糖とミルクをこれでも足りないかというくらい入れている。


 それなのにどうしてスタイル抜群なのか、不思議で仕方がない。


 家系的にも、リッキーだけではなく、ご両親もふくよかな方なのに。


 G県七不思議は大袈裟だが、M市七不思議くらいには該当しそうだ。


 明菜が真剣に秘訣を教えてもらおうとしたが、あずささんは、


「別に何もしていないわよ」


 ニコニコしてそんな事を言っていたな、確か。多分特異体質なのだろう。でも、羨ましい。


 リッキーだけ違う高校という事は、みんな同じ高校に入学したという事よね?


 何故記憶にないのかはこの際訊かない。それがこの話の作者の気の毒なところだから。


「おはようございます」


 そこへ、江原ッチと妹さんの靖子ちゃん、美輪君と明菜、神田原明蘭さんが入って来た。


 明蘭さんは一時は妖気に囚われ、悪の道に行ってしまうかと思われたが、何とか戻って来てくれた。


 母親である明鈴も妖気が抜けたお陰で悪事から抜け出せたようだし、復活の会は完全に崩壊したらしいし、いい事尽くめだ。


 但し、尊敬する西園寺蘭子お姉さん達とは未だに連絡が取れない状態が続いているのだけが気がかり。


「じゃあ、現場へ行こうか」


 兄貴はキリリとした顔で言った。明蘭さんがいるからだろう。


 奥さんのまゆ子さんに言いつけちゃうぞ。それに赤ちゃんももうすぐ産まれるんでしょ? 全く。


「はい」


 一同は声を揃えて応じた。しばらくは穏やかな日が続くといいな。


 


 楽しい高校生活を期待しているまどかだった。


 次回からは、高校一年編よ(ムフ)。

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