ゲームの魔物が現れたのよ!(中編)
私は箕輪まどか。中学三年にして霊能者でもある美少女だ。
私が通う学校の一年生の女子が、私に相談をして来た。
付き合っている男子がゲームの魔物に捕まってしまい、行方不明なので探して欲しいという。
私の彼氏の江原耕司君は、妹の靖子ちゃんに探査をさせて手伝った結果、彼女達の裏の顔を感じた。
私も、三人行方不明なのに自分の彼氏以外は誰なのかわからないような口ぶりの彼女達に憤りを感じたが、取り敢えずまずい状況なのは本当なので、調査をする事にした。
ところで、憤りって何?
一年生の女子と別れて、学校に向かった。
「そう言えば、力丸って、ゲーム詳しかったよな? そんな噂、聞いた事あるか?」
江原ッチが肉屋の御曹司の力丸卓司君に尋ねた。
「聞いた事ないよ。ネットでも見かけた事ないし。嘘じゃないの?」
リッキーは相変わらずコロッケを食べながら応じた。
「嘘だったらいいんだけど、本当に三人共どこにいるのかわからなくなってるのよ」
探査を終えた靖子ちゃんがリッキーに言った。
「そうなんですか」
リッキーが嬉しそうにお題目を唱えてしまった。
ああ! それ、私の台詞、と言いたいが、頭がおかしいと思われるのでやめた。
「三人のうち、女子達の興味が全くなかった坂野義男君が深く関わっているみたいね」
私は顎に手を当てて名探偵っぽく言ってみた。
「俺もそう思う。坂野が何かで二人の男子、あるいは女子を恨んで、何かを仕掛けたと考えるのが順当だよ」
江原ッチが賛成してくれたので、私は大満足だ。
「そうかなあ」
靖子ちゃんは首を傾げた。江原ッチが、
「何だよ、靖子、俺とまどかりんの推理が間違ってるって言いたいのか?」
ムッとした顔で靖子ちゃんに詰め寄る。すると靖子ちゃんはいつものミルキーボイスで、
「そうじゃないよ、お兄ちゃん。坂野君が何かを仕掛けたのは確かだけど、そのせいで三人が行方不明になったというのは、ちょっと違うみたいな気がするんだ」
私に救いを求めるように目を向けた。私は靖子ちゃんの感応力はあの小松崎瑠希弥さんに迫るものがあると思っているので、彼女の勘を信じる事にした。
「そうね。坂野君がそこまでできる力を持っているのであれば、私達にも彼の存在がわかったはずよ。それが今までわからなかったのは、彼の力がそれほどのものではないという事。他の誰かが介入している可能性が高いわね」
私が靖子ちゃんに賛同したので靖子ちゃんはホッとしたが、今度は江原ッチが泣きそうな顔になった。
「まどかりん、そりゃないよお」
別に私は江原ッチを裏切ったつもりはないんだけどなあ。
「とにかく、藤本先生に三人が行方不明なのを話しておかないと」
「そうだね」
江原ッチは私のウィンクで復活した。単純というか、エロいというか……。
それより、親友の明菜と、その彼氏で江原ッチの親友の美輪幸治君の事が気にかかるわ。
私達は玄関が違う靖子ちゃんと別れ、校舎に入った。
玄関を入ると、明菜と美輪君はもうすでに和解しており、心配して損をした気分だ。
相変わらずのバカップルぶりに呆れた。
「それより、随分遅かったけど、何があったの?」
そういう事には勘が鋭い明菜が尋ねて来た。私は一年女子の話をした。
「あ、それ、聞いた事あるぜ。そのゲームを夜中の三時までしていると、魔物が出て来て連れ去られてしまうんだよ」
美輪君が臨場感たっぷりの顔で話してくれたので、明菜が泣きそうになった。
「う、嘘に決まっているよね、美輪君?」
でも美輪君には泣き虫だと思われたくないツンデレ女王の明菜は引きつった顔で美輪君に尋ねた。
「さあ。本当だと思うけどな、俺」
美輪君は無情にもニヤリとして応じた。明菜は震えそうになるのを堪えて、
「美輪君、最低!」
激怒して廊下を歩いて行ってしまう。
「ああ、アッキーナ!」
美輪君は自分がいけないスイッチを押したのに気づき、慌てて明菜を追いかけた。
「バカだな、美輪は」
江原ッチは白い目で美輪君を見ていたが、そういうのを目糞鼻糞を笑うというのだと思うまどかである。
「取り敢えず、放課後また集まって探査をしてみましょう。結論はそれからね」
私はまだコロッケを食べているリッキーを半目で見ながら江原ッチに言った。
「うん、そうだね」
江原ッチはリッキーからメンチカツをもらって困り顔で応じた。
そして、あっと言う間に放課後。
私と江原ッチは靖子ちゃんと合流して人気のない部室棟の裏に行った。
靖子ちゃんの探査のためには、できるだけ人目を避ける必要があるのだ。
そのため、ムッとしている明菜と彼女を宥める美輪君を教室に残して来た。
リッキーは後でコロッケを十個買うと約束して靖子ちゃんに諦めさせた。
「よし、始めようか」
江原ッチが言った。今度は私も靖子ちゃんの補助をした。
集中する気の量が多いほど、感応力が上がるのだ。
「あ、見えて来たよ、お兄ちゃん、まどかお姉さん。三人はまどかお姉さんが卒業した小学校の旧校舎にいるよ」
靖子ちゃんは目を閉じたままでそう言った。
恐らくその場にリッキーがいたら、鼻血を噴き出していたろう。
それくらい靖子ちゃんは色っぽくなっていたのだ。でも、決してエロっぽくなっていたのではない。
「そ、そうか」
江原ッチは靖子ちゃんが感応力を高めているのを心配している。
「世間にはスケベでバカな男共が山ほどいるから」
お前が言うなと言いたかったが、さすがに気の毒で言えなかった。
私が卒業した小学校の旧校舎と言えば、確か時代劇のような言葉を話す人の霊がいたところだ。
私の優れた霊能力で、その人は逝くべき所に行ったから、もうそこにはいないのだが、よりによって、どうしてそんな所にいるのよ、全く。
「とにかく行きましょう」
私は江原ッチと靖子ちゃんを促して、現場に向かった。
小学校なんていつ以来だろう? 同窓会を一回校舎の中でした事があったが、その時以来かな。
「ここがまどかりんが卒業した小学校なんだ」
江原ッチが感動したような素振りで言ったが、その目は確実に下校する高学年女子達に注がれていた。
お前はロリコン伯爵か!? そういうのは、G県警鑑識課の宮川さんだけで十分だ。
「お兄ちゃん、嫌らしい顔してる」
靖子ちゃんが嫌悪の表情で江原ッチに言った。江原ッチはギクッとして、
「な、何言ってるんだよ、靖子。おかしな事を言うなよ」
嫌な汗を大量に流しながら、私の機嫌を伺うように視線を動かして来た。
「江原耕司様、年下が好きでしたら、本日で交際を終了したいと存じますが?」
今までで一番舌を噛みそうな言葉遣いをした。
「ひいい!」
江原ッチはすぐさま土下座をした。
「それだけは勘弁してよお、まどかりん」
優しい私はすぐに許したが、
「まどかお姉さん、もう少し懲らしめないと、お兄ちゃん、反省しないですよ」
いつになく厳しい反応を示した。
「そうね」
私は苦笑いしてしまった。靖子ちゃん、筋金入りのお兄ちゃん子だから、心配なのね。
校長先生には電話で事情を話してあるので、私達は校庭を通って裏手にある旧校舎へと進んだ。
「それにしても、どうしてこんな場所を選んだんだろうな、坂野って奴は……」
江原ッチがそこまで言いかけた時、旧校舎からおぞましい霊気が漂って来た。
私達は顔を見合わせて走り出した。
これは坂野君の力ではない。想像以上の悪霊が関わっているようだ。
鍵がかかっていない玄関の扉を押し開け、下駄箱を越え、私達は奥にある教室へ急ぐ。
『邪魔するな、箕輪まどかと愉快な仲間達!』
気味が悪い声が聞こえた。霊の声だ。
「何だと!?」
名前も言ってもらえなかった事に腹が立った訳ではないだろうが、江原ッチがキッとして天井を見回した。
「お兄ちゃん、そんな声に反応していないで! 急がないと坂野君達が危ないわ!」
靖子ちゃんは感応力を全開にして坂野君達がいる正確な場所を探していた。
「ほら、江原ッチ!」
私は江原ッチの右の耳を摘み、引き摺るようにして靖子ちゃんを追いかけた。
「いていて、痛いよ、まどかりん」
江原ッチは情けない声を出した。
「ここです!」
靖子ちゃんはある教室の前で立ち止まった。
中から一人だったら逃げ出したくなってしまうような霊威を感じる。
「行くよ、まどかりん!」
江原ッチはすっかり戦闘モードに切り替わり、扉を開いた。
「うん」
私は靖子ちゃんと頷き合って江原ッチに続いた。
教室の中は異空間のようになっていた。
三人の男子がゲーム機を持ったままで蜘蛛の糸のようなものに絡まれ、宙に浮いている。
これは一体……?
「よくぞ来た、箕輪まどかと愉快な仲間達」
またその呼び方? バカにされているような気がする。
「姿を見せろ、どこにいるんだ!?」
ヒートアップした江原ッチが怒鳴った。すると教室の後ろの黒板から黒い霧のようなものが滲み出て来たかと思ったら、それはゲームに出て来る魔王のような姿になった。
「何よ、あれ?」
私はギョッとしてしまった。すると靖子ちゃんが、
「坂野君の心が生み出した魔物です。それに何者かが悪霊を取り憑かせたようです」
「え?」
私は思わず魔王モドキを二度見してしまった。
厄介な事になりそうね。
後編に続くまどかだった。
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