ゲームの魔物が現れたのよ!(前編)

 私は箕輪まどか。中学三年の美少女霊能者だ。


 なるほど、それに落ち着くのね。異論はないから、そのままでね。



 先日、復活の会の三代目宗主である神田原明鈴が、実は子供もいる四十女(語弊があるかしら?)だという事がわかった。


 明鈴の娘である明蘭さんは、復活の会とは全く関わりがない人で、しかも明鈴が抵抗する事なく逃亡するほどの実力者だった。


 それに加えて都合が悪いことに、明蘭さんはすごい美人。


 明鈴が呪術を使って自分の若さを保っていたのと比較すると圧倒的に奇麗なのだ。


 そのため、私の彼の江原耕司君と、親友の近藤明菜の彼の美輪幸治君の二人は「ダブルエロコウジ」になってしまうほどデレッとしていた。


 本当に全く、男って奴は!


 ところで、遅くなったけど、語弊って何?


「だけど、明蘭さんは本当に明鈴の娘なんだろうか?」


 通学途中にも関わらず、美輪君が深刻な顔で江原ッチに尋ねる。


 途端に明菜の機嫌が悪くなった。


 それに気づいた江原ッチの妹さんの靖子ちゃんとその彼の力丸卓司君がビクッとした。


 しかし、当の美輪君は明菜の怒りを感じていないらしく、江原ッチと話を続けている。


 明蘭さんは確かに明鈴とは違った雰囲気の人で、エロさは微塵もないし、穏やかな性格だ。


 ちょっと真面目過ぎる感じはするけど、美輪君の言うように明鈴の娘とは思えない。


 顔は怖いくらい似ているのを差し引いてもね。


「そうだなあ。確かに親子にしては、胸の大きさが違い過ぎるな」


 江原ッチは真剣そのものの顔で応じていた。そこかよ! 思わず突っ込みそうになった。


「顔も性格も最高なんだけど、胸だけは母親に負けているのがどうにも納得がいかないんだよな」


 美輪君が更にそんな事を言い出したので、明菜が怒りで震え出した。


「そんなに巨乳が好きなのなら、復活の会に入れば、美輪君!」


 明菜が鬼の形相で美輪君に怒鳴った。


「ひ!」


 美輪君ばかりでなく、江原ッチまでギョッとして明菜を見た。私も驚いたけど。


「いや、そうじゃないんだよ、アッキーナ。誤解だって」


 美輪君は慌てて言い訳をした。明菜はそれでもご機嫌斜めのままで、


「フンだ!」


 ソッポを向くと、スタスタと歩いて行ってしまった。


「ああ、誤解だって、アッキーナ。俺は明鈴の胸が実は偽物なんじゃないかって思っているんだよ」


 美輪君は慌てて明菜を追いかけた。何だ、それ? 


「江原ッチも同じ考えなの?」


 私は南極並みの冷たい視線で江原ッチを見た。すると江原ッチは大きく首を横に振り、


「違うって! 明蘭さんの波動を思い出してみてよ、まどかりん。あの人の波と明鈴の波には共通項がほとんどないんだ。親子にしては、違い過ぎるんだよ」


「そうなの?」


 私は明鈴と明蘭さんの波動をよく覚えていないので、何とも返事ができなかった。するとそこへ、


「箕輪まどかさんですか?」


 一年生の女子二人が声をかけて来た。どちらも可愛い子なので、リッキーと江原ッチがデレッとしかけて、私と靖子ちゃんの闘気を感じて顔を引きつらせた。


「そうだけど。何かご用ですか?」


 私は、些細な誤解から、下級生に怖がられているのは知っている。だからできるだけ穏やかな顔をして微笑んだ。


「じ、実は、クラスの男子達がゲームの魔物に捕まって、行方不明になったんです」


 一人の女子が涙ぐんで言った。


「ゲームの魔物?」


 私は思わず江原ッチと顔を見合わせてしまった。


 声をかけて来た女子の名前は小出美幸さんと桑畑貴理子さん。


 お下げ髪が似合う子達だ。


 学校へ向かいながら、何があったのか話を聞いた。


 


 二人の説明によると、今一年の男子の間で爆発的に流行っているロールプレイングゲームがあるらしい。


「ああ、俺も聞いた事あるよ。竜騎士伝説だろ?」


 江原ッチが小出さんと話したいがために会話に割り込んで来たと思うのは、私の嫉妬だろうか?


「はい。そのゲームにのめり込んでいた男子達が三人、いなくなってしまったんです」


 桑畑さんが泣きそうな顔で言った。いなくなった三人の男子のうちの二人が、どうやら彼女達の付き合っている相手のようだ。


 最近の中一は、と思いかけたが、私は小学生の時、今はアメリカに行ってしまった元彼の牧野徹君と上辺だけだけど付き合っていたから、そんな事は言えない。


 え? 結構本気だっただろう、ですって? う、うるさいわね! 過去の事はどうでもいいのよ!


「その子達の名前を教えてくれる?」


 私は江原ッチと靖子ちゃんに目配せして言った。靖子ちゃんは感応力を高めて探査を始める。


 江原ッチは靖子ちゃんに気を送り、それを補助する。


「上田泰造君と小沢晋也君です」


 小出さんと桑畑さんは口を揃えて答えてくれた。


「あともう一人は?」


 三人いなくなったはずなので、もう一人の名前も訊いた。すると、


「えっと、誰だっけ? 顔は思い出せるんだけど名前がすぐに出て来ない」


 などと、ウチのお父さんみたいな中年発言をしている。どういう事?


「クラスメートなんでしょ? 名前がわからないの?」


 私は不思議に思って小出さんに言った。すると小出さんは桑畑さんと顔を見合わせてから、


「でも、全然話した事ないので、思い出せなくて……」


 バツが悪そうに苦笑いする。何だか妙な感じだ。


「もう一人は、坂野義男君です、まどかお姉さん」


 感応力で探査していた靖子ちゃんが教えてくれた。


「ああ、そうそう、そんな名前でした」


 小出さんと桑畑さんは如何にも思い出したような口ぶりで言ったが、それが嘘だというのはすぐにわかった。


 でも、三人が行方不明なのは事実のようだ。小出さんと桑畑さんのお芝居ではない。


「箕輪先輩になら、わからない事はないって聞いたんです。お願いです、二人、いえ、三人を探してください」


 小出さんと桑畑さんは真剣な表情で私にすがって来た。


 彼女達が自分の彼を心配している気持ちに嘘はない。だが、気になるのは、もう一人の子の事。


 小出さんと桑畑さんにとって、坂野君の安否はどうでもいい事のようなのだ。


 同じクラスメートなのに酷い扱いだ。ちょっと注意してやりたくなったが、今はそれより三人の居所を探すのが先だ。


「少し時間がかかるわ。放課後までにはわかると思うけど」


「よろしくお願いします!」


 小出さんと桑畑さんは深々とお辞儀をすると、サッと駆け去ってしまった。


「まどかりん、只の行方不明じゃないみたいだよ」


 靖子ちゃんを気で補助していた江原ッチが言った。


「お金がかかるの?」


 リッキーが予想通りのボケをかまして来たが、無視する事にした。


 リッキーは項垂れ、靖子ちゃんに慰められている。


「ええ、わかっているわ。小出さんと桑畑さん、坂野君を心配しているどころか、敵意を抱いていたわ」


 私は二人の可愛い女の子の裏の顔を見た気がして、気分が悪かった。


 え? お前と同類だろう、ですって? 私は可愛いけど裏の顔なんてないわよ! 


 全部裏だろう、とか言わないでよね!


 


 とっても嫌な予感がするまどかだった。

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