中学三年生編なのよ!

大人のまどか、只今参上なのよ!

 季節はもう秋。


 バカ作者の遅筆のせいで、本当ならまだ残暑厳しい頃から復活していたはずなのに、もはや衣更えが必要なくらいずれ込んでしまったわ。


 え? スルペタよりムチムチJKの方がみんな好きですって?


 うるさいわね! もう私は十五歳よ! 大人の女なのよ! 花の中三トリオにもなれるんだから!


 十五禁小説だって堂々と読めるんだから! おっと、それはどうでもいい事だ。


 いつまでもないと思うな胸と尻。元ネタは各自で調べてね。


 まあ、お尻はともかく、お胸は急成長よ。牛乳に相談したら、まさしく雨後のたけのこ状態で育ったのよ。


 え? 言うだけならいくらでも言えるですって? フンだ!


 ああ、そうそう、妄想はそれくらいにして、自己紹介ね。


 久しぶりだから、手順を間違えちゃったわ。ごめんなさいね。


 私は箕輪まどか。G県M市の中学校に通うスーパー美少女霊能者だ。


 自分で言うのも妙な話だけど、あまりの可愛さに実際芸能界からスカウトが来た事もあるのだ。


 え? 地元のG○Vからだろう、ですって? 具体的な名称は出さないでよね!


 それにG○Vをバカにしてるでしょ? 許さないわよ、もう!


 まあ、そういう事で、地元の人気アイドルを凌駕するほどなのよね。


 ところで、凌駕って何?


 


「行こうか、まどかりん」


 私の絶対彼氏の江原耕司君が毎朝迎えに来てくれる。それもこれも私が怖いくらいに可愛いからだ。


 そして江原ッチは相変わらずカッコいい。髪は角刈りにしたので、男っぽさがアップした感じだ。


 え? 江原ッチは学区が違う? 作者のボケが始まったのか、ですって?


 確かに作者はボケが進行しているらしいけど(そんな事はありません 作者)、違うわよ。


 江原ッチは、晴れて私達と同じ中学校に転校できたの。


 それはなぜかと言えば、私のお師匠様であった暴力的な巨乳の持ち主の小松崎瑠希弥さんと、二年生の時のクラスの副担任でもあった椿直美先生がG県を去ったので、江原ッチのお母さんにして私の将来のお姑さんになる予定の菜摘さんの許可が出たからなのだ。


 その上、おしゅうとさんになる予定の雅功さんは、あのスーパーお爺ちゃんである名倉英賢様に言われて修行の旅に出ているの。


 だから、私と妹さんの靖子ちゃんを守るように言い付かっての転校なのよ。


「うん、江原ッチ」


 私は長く伸ばした黒髪をポニーテールにし、笑顔で応じる。


「ああん、待ってよ、お兄ちゃん、まどかお姉さん」


 お下げ髪の靖子ちゃんが妹属性の人達が悶絶しそうな可愛いミルキーボイスで言う。


「よう、おはよ、江原」


 しばらく歩くと、江原ッチの親友の美輪幸治君が私の親友の近藤明菜と仲良く手をつないで登場した。


 二人はこちらが恥ずかしくなるくらいにラブラブなバカップルだ。


 美輪君は多めの髪をオールバックにしている。知らない人が見ると怖い子に見えるが、女の子には優しい。


「おはよう、まどか、靖子ちゃん」


 ストレートの髪を肩上で切り揃えた明菜がクールに言った。ツンデレの見本みたいな性格の子だ。


「おはようございます、明菜さん」


「おはよう、明菜」


 私と靖子ちゃんは笑顔で返す。


「おおい、置いてかないでくれよお」


 そこに地面が揺れるのではないかという巨漢が現れた。


 靖子ちゃんの彼氏の力丸卓司君だ。


 この半年で二十キロは太ったようだ。制服のボタンが留められないほどのお腹になっている。


 毎日おやつ代わりにコロッケとメンチカツを食べていればそうなるわよね。


「遅いよ、リッキー」


 口ではそう言いながらも、靖子ちゃんは嬉しそうな顔でリッキーに近づいた。


 彼女、デブ専だという噂だ。


 ところで、デブ専て何?


 そんな訳で、主要メンバーを紹介しながらの登校は何事もなく終わり、


「おはようございます、藤本先生」


 校門の前に立っているまたクラス担任になった大きな顔がトレードマークの藤本先生に挨拶した。


「おはよう」


 最近、藤本先生は暗い。椿直美先生が里帰りしてしまったのが始まりだ。


 亡くなった奥さんの霊も呆れるほど、藤本先生は椿先生に惹かれていたらしい。


 でも、椿先生が学校を去ったのはもう半年以上前。


 それが何故今になって落ち込んでいるのかと言うと……。


 復活早々、藤本先生の話だなんて、キャッチーではないけど、仕方がないわね。


 ところで、キャッチーって何?


 


 三月で学校を去った椿先生。


 男子だけでなく、女子も先生がいなくなってしまったのを悲しんだ。


 椿先生に同僚以上の感情を抱いていた藤本先生の落胆ぶりは目を覆いたくなるほどだった。


 私は藤本先生の奥さんの霊とも交流があるので、藤本先生の事が気になった。


 ところが!


 同情するなら金を出せ。あれ? 何か違う気がするけど、まあいいか。


 新年度が始まり、久しぶりに学校に行くと、満面に笑みを浮かべた気持ち悪い藤本先生がいた。


 その理由を探ってみると、どうやら新任の先生にあるようだ。


 その先生の名前は渡辺雅代。先生一年生のまだピッチピチの可愛い人だ。


 背中まで伸ばしたストレートの髪、黒目がちで反則なほどウルウルしている目。


 その上鬼に金棒的なアヒル唇。もう学校中の男子と男の先生を虜にしてしまった。


 しかも、何たる事か、渡辺先生は私達のクラスの副担任になったのだ。


 明菜は、美輪君と同じクラスになれて密かに喜んでいたのだが、美輪君が渡辺先生にデレデレしているのを知って、


「許さない!」


 いつものように嫉妬剥き出しになってしまった。


「全く、美輪の奴、学習能力がないのかな?」


 江原ッチも私と同じクラス。美輪君を批判しながらも、その目は渡辺先生に釘付けだ。


「江原耕司君、後でお話があります」


「ひいい!」


 新学期早々、そんな展開になり、先が思いやられたのだ。




 そんな中で、特に渡辺先生に入れ揚げていたのが、藤本先生だった。


 仕事上、一緒に行動する事が多かったせいか、渡辺先生も何かと藤本先生を頼ったので、藤本先生の喜びようは凄かった。


 そして、半年経った十月初め。 


 同僚の男の先生達も渡辺先生と藤本先生を公認のカップルと判断したのか、だんだん離れていった。


 男子達もそうだ。


「何か気にならない、まどかりん?」


 昼休みに江原ッチが話しかけて来た。その視線の先には、藤本先生と渡辺先生がいる。


 二人は授業の打ち合わせをしているだけなのだが、カップルがいちゃついているように見えた。


「何が?」


 まだ未練があるのか、このバカは、と思い、江原ッチを睨みつける。


「ち、違うって、まどかりん。俺、渡辺先生から妙な気を感じたんだよ」


 江原ッチは顔を近づけて小声で言った。吐息がかかるほどの急接近に私のハートがビートを速める。


「妙な気?」


 私は胸の高鳴りを押さえて眉をひそめた。そして改めて渡辺先生と藤本先生を見る。


『まどかさん、夫の目を覚ましてください。お願いします』


 その時、私のそばに藤本先生の奥さんの霊が現れた。


「え?」


 私は奥さんが嫉妬からそう言っているのではない事に気づいた。


 渡辺先生が出しているのは、男をダメにしてしまう気。


 ごく稀にそういう気を無意識に発している女性がいる。


 誰とは言えないが、芸能界には多いらしい。


 私は奥さんの霊に頷き、渡辺先生を気を集中して視た。そう、まさしく視たのだ。


「これって……」


 一緒に渡辺先生を視ていた江原ッチは危うく渡辺先生が発している気に吸い込まれかけた。


「強烈だね、まどかりん。渡辺先生、今まで付き合った男を全員ダメにしているよ。しかも、本人は全く自覚してない」


 江原ッチは驚嘆していた。もちろん私もだ。


 渡辺先生のある意味「武勇伝」が見えて来た。


 渡辺先生は、中学一年の時、同じクラスの男子と仲良くなった。


 その男子は渡辺先生の気のせいで勉強を全くしなくなった。


 両親とも高学歴の家だったが、その男子は三年間で成績を急落させ、志望校には程遠い成績になってしまった。


 高校一年の時、渡辺先生は成績は中程度の男子と付き合った。


 その男子は成績を落としただけではなく、渡辺先生に喜んでもらいたいがために現金を手に入れようと恐喝事件を起こし、高校を退学になった。


 大学一年の時、渡辺先生は大企業の御曹司と付き合うようになった。


 御曹司は渡辺先生の虜になり、親のクレジットカードを使って豪遊した。


 それが数ヶ月後に発覚し、彼は渡辺先生と別れさせられた。しかし、渡辺先生は御曹司の両親に謝罪され、手切れ金を渡されている。両親は息子が渡辺先生にしつこく言い寄って付き合い始めたという情報を友人から入手していたのだ。


 どれも当然の事ながら、渡辺先生は悪くない。渡辺先生が意図的にそうした訳ではないからだ。


 だが、何が悪いかと言えば、渡辺先生が自分の特性を自覚していない事だ。


 私と江原ッチは先生に自分の特性を自覚してもらい、藤本先生とは仕事だけの付き合いにしてくれるように説得する事にした。


 


 放課後、私は渡辺先生が職員室を出て来るのを待ち、呼び止めた。


「渡辺先生、ちょっといいですか?」


 渡辺先生は私達を見るとニコッとして、


「何かしら、箕輪さん?」


 その笑顔に落とされそうになった江原ッチの右の二の腕を抓った。


「いてて!」


 私達は渡辺先生と誰もいない教室で話をした。


 まずは私と江原ッチが霊能者で私が以前藤本先生の事を霊視した事があるのを説明し、その上で先生の気の話をするつもりだった。


「知ってるわ。藤本先生から聞いています。箕輪さんに救われたって」


 渡辺先生は相変わらず屈託のない笑顔で言う。また江原ッチがニヘラッとしそうになったのだが、


「あれ?」


 渡辺先生の後ろに先生のご両親の霊が現れた。私と江原ッチは思わず顔を見合わせた。


「何だか様子が変わって来たね、まどかりん」


 江原ッチも気づいたようだ。ご両親の霊が現れた時点で謎が解けた。


 何故渡辺先生が付き合う男の人をダメにしてしまう気を放っていたのか。


 それは渡辺先生が小学生の時に交通事故で亡くなったご両親が守っていたからなのだ。


 渡辺先生は男の人をダメにする気を出していたのではなく、その人の本性を剥き出しにする気を出していた。


 ご両親の渡辺先生を思う気持ちがそうさせていたのである。


『娘は決して男をダメにする女ではありません。藤本先生なら、娘を幸せにしてくださると思いますので、後は娘に任せます』


 ご両親の霊は私達にそう告げて消えた。私と江原ッチはもう一度顔を見合わせてしまった。


「どうしたの、二人共?」


 渡辺先生はキョトンとしてしまった。


『まどかさん、私の早とちりだったのですね。ありがとう。私も後は夫と渡辺先生に任せます』


 藤本先生の奥さんの霊が現れ、それだけ言うと消えてしまった。


「すみません、先生。私達の勘違いだったみたいです。藤本先生とお幸せに」


 私と江原ッチは苦笑いして、更に不思議そうに首を傾げる渡辺先生を残し、教室を出た。


 


 ところが! 更に意外な展開が待ち受けていた。


「皆さんと楽しく過ごした半年を私は決して忘れません」


 今日は渡辺先生とのお別れの日。


 先生は元々産休に入った先生の代理で来ていたのだ。その先生が復職するので、今日でお別れなのである。


 藤本先生は魂の抜け殻のような顔をして教室の片隅に立っていた。


「藤本先生、お世話になりました。またいつか一緒に働きたいです」


 渡辺先生が涙を堪えてそう言ったのを果たして藤本先生は聞いていたのだろうか?


 ガッカリし過ぎよ、藤本先生。永遠に会えなくなった訳じゃないんだから。


「藤本先生、渡辺先生が自分の事をどう思っているのか知らないみたいだよ」


 江原ッチが教えてくれた。


「そうなんですか」


 久しぶりに世界を平和にするお題目を唱えられた。何かいい事ありそうだ。


「だから、渡辺先生が学校に来なくなると、もう永遠に会う事はないと思っているみたいだよ」


「そうなんですか」


 もう一回唱えてみた。江原ッチの目が冷たい。


 藤本先生には、渡辺先生の思いを伝えるかどうか迷った。


 でも余計なお世話だから、私は何も言わない事にした。


 後は自力で頑張ってね、藤本先生。


 


 それなりにクールなまどかだった。

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