復活の会のアジトに突入するのよ!

 私は箕輪まどか。中学生の霊能者だ。


 私の彼の江原耕司君のお父さんで、将来の義理のお父さんでもある雅功さんが、遂にあの復活の会のG県内のアジトを見つけた。


 そのため、江原ッチは現在寝泊りしている美輪幸治君の家から、美輪君と共に江原家にやって来た。


 今日は日曜日なので、美輪君の彼女で、私の親友でもある近藤明菜も一緒だ。


「あら、役に立たない人がおよそ一名」


 綾小路さやかが言った。彼女も私の親友になったが、どうも明菜とは合わないみたいだ。


「何よ?」


 明菜も気の強さでは負けていないので、さやかを睨みつける。


「まあまあ」


 美輪君が間に入って明菜を止めた。さやかも、以前美輪君に心惹かれた事があるせいか、それ以上は何も言わなかった。


「違うわよ、まどか」


 さやかは顔を赤らめて私に小声で言った。丸わかりなんですけど。


 そんな些細ないざこざがあって、私達は道場へと行った。


「休日に申し訳ないね、皆さん」


 今日は雅功さんと菜摘さんがいる。そのせいか、椿直美先生は私達と同じく椅子に並んで座った。

 

 何となく寂しそうなのは、私の勘違いだろうか?


「違うわよ、まどかさん」


 今度は椿先生に小声で言われてしまった。


 ここって、人の心の声が聞こえてしまう人が多くてやりにくい。


「あんたがロクな事考えないからよ」


 またさやかに聞かれたようだ。苦笑いするしかない。


「復活の会のアジトの具体的な場所がわかりました」


 雅功さんの言葉にどよめきが起こる。


「どこなのさ?」


 江原ッチが尋ねた。すると雅功さんは私達を見渡して、


「ここで告げると、連中に察知される危険性があるので、皆さんにはお話せず、このまま現場に向かう事にします」


「ええ?」


 衝撃的な話だった。どういう意味だろう?


「決して皆さんを信用していないのではありません。この道場も幾重にも結界を張ってはいますが、完全に連中の盗聴行為を遮断できる訳ではないのです」


 菜摘さんが言い添えた。なるほど、そういう事か。




 現場に向かう事になった時、明菜がいつになく同行を主張した。


「危険だよ、アッキーナ」


 美輪君が明菜を説得した。しかし、明菜は、


「嫌よ! 私だけ仲間はずれにしないで」


と涙ぐんで言ったので、美輪君は困り果てて雅功さんを見た。


 明菜の奴、どうしたんだろう? そんなに進展したの、美輪君と?


「まどかのスケベ」


 さやかが顔を赤くして呟いた。


「え?」


 また聞かれていた。恥ずかしい。さっきの妄想を覗かれたのだとすると、かなり恥ずかしい。


 ふと椿先生を見ると、先生も顔を赤らめて私を見ていた。


 わあ、もっと恥ずかしい……。


「わかりました。同行を許可しますが、絶対に単独行動をしないように」


 雅功さんは微笑んで言った。明菜は嬉しそうに、


「ありがとうございます!」


と頭を下げ、美輪君を見てニコッとした。おお、明菜、こんな可愛い一面もあるんだ。


 私達は、大きめのワンボックスカーに乗り込んだ。窓は全部塞がれており、外からも中からも見えない。


「申し訳ないが、着くまでどこなのか教えられないので、我慢してください」


 雅功さんが運転席に座りながら告げた。菜摘さんは助手席に乗り込んだ。


 そして、ワンボックスカーは走り出した。


 一体どこに行くのだろうか?


 


 随分時間が経った気がする。


 乗る時に携帯を菜摘さんに預けたので、時間がわからない。


 走り出した後、私達が座っている座席と雅功さん達の席との間に黒いガラスがせり上がり、前からも外が見えなくなってしまったのだ。


 もう外がどれくらい明るいのかもわからない。


 中はルームランプのお陰で暗くはなかったが、静かだ。


 私は隣り合わせで座った江原ッチと手を握り合い、見つめ合っていた。


 明菜も美輪君と肩を寄せ合っており、さやかと椿先生は小声で何かを話しているようだ。


 


 どれ程走ったのだろうか、車はどこか山道に入ったらしい。


 舗装されていない道のようで、揺れが激しい。


「大丈夫、まどかりん?」


 江原ッチが私を気遣ってくれた。


「だ、大丈夫」


 酸っぱいものが込み上げて来そうだが、何とか堪えないと。


 もう限界、と思った時、車が停止した。


「着きましたよ」


 ガラスの仕切りが降りて、菜摘さんが言った。


 私は江原ッチと顔を見合わせて微笑んだ。


「ここは?」


 外に出ると、鬱蒼うっそうとした森の中だ。


 只、ワンボックスカーの周囲は何メートルか木がなくなっており、広場のようだ。


 だが、どこにも建物などはなく、見えるのは木と草だけだ。


 こんなところにアジトがあるのだろうか?


 疑問に思って、雅功さんを見ると、


「どこにアジトがあるのさ?」


 先に江原ッチが尋ねてくれた。すると雅功さんは、


「ここにはアジトはない。ここは、復活の会の幹部をおびき寄せるために作った結界の中だよ」


と答えた。え? どういう事?


「おのれ!」


 明菜がそう言って、美輪君から離れた。


「やはりそうでしたか。久しぶりですね、神田原明徹さん」


 雅功さんが言った。私達は仰天して明菜を見た。


「さすが江原雅功だな。見抜いていたのか?」


 明菜の声だが、口調は男だ。雅功さんの言う通り、神田原明徹なのだろう。


「この結界の中では、貴方は逃げる事も、他の人に乗り移る事もできない。貴方の術全てを封じました」


 菜摘さんが言った。いつもと違い、ビクッとしてしまうくらい鋭い目だ。


「そのようだな。私をどうするつもりだ?」


 明徹の霊体がスウッと明菜から抜け出して言った。相変わらず、どんな顔なのかわからないボンヤリしたものだ。


「これ以上悪事を重ねないと誓いなさい。さもなくば……」

 

 雅功さんは意味ありげに言葉を切った。


「さもなくば?」


 明徹が先を促す。雅功さんは、


「お前の魂を砕く」


 その時の雅功さんの顔は本当に怖かった。


 どちらが悪い人なのかわからなくなるくらいだった。


「そんな事をすれば、この娘も死ぬぞ? それくらいの芸当はできる」


 明徹の霊体は恐ろしい事を言った。明菜を殺す? 冗談じゃないわ!


「かまわんさ。それくらいの犠牲は止むを得ない」


 雅功さんは眉一つ動かさないで言った。


「ええ!?」


 その言葉に、私達は更に仰天した。


「待ってくれよ、おじさん! アッキーナを犠牲にするのか!?」


 美輪君が激怒して掴みかかろうとした。


「美輪、落ち着け!」


 江原ッチがそれを必死に止める。私だって、明菜が犠牲になるのは堪えられない。


 でも、雅功さんは本気でそう言っているのではない事はわかった。


「ふ……。貴様ならやりかねんな、稀代の退魔師よ。わかった、誓おう」


 明徹の霊体は答えた。雅功さんはニヤリとして、


「ならば、約束の印を打たせてもらうぞ。破ったら、お前の魂は砕かれる」


と早九字を切った。


「何!?」


 隙を見て逃亡しようとでも思ったのだろうか? 明徹は狼狽えたようだ。


「はあ!」


 雅功さんの身体から強い気が放たれ、明徹の霊体にぶつかった。


「ぐうお!」


 明徹の霊体は悶絶して明菜から離れた。


「アッキーナ!」


 倒れ掛かった明菜を素早く美輪君が支えた。


「おのれ、江原雅功、この恨み、忘れぬぞ」


 明徹の霊体は雅功さんを睨んだらしい。


「ええ、いつでもどうぞ。貴方には負けませんよ」


 雅功さんは微笑んで応じた。


「結界は解きました。さあ、行きなさい」


 明徹の霊体はその途端消えた。


「すげえ……。さすが、父さん!」


 江原ッチは笑顔で雅功さんを見た。


「明菜さんに復活の会の誰かが乗り移っているのは昨日の段階でわかっていたのだが、まさか明徹が来るとは思わなかったよ」


 雅功さんは苦笑いして言った。


「すまなかったね、彼女を危険な目に遭わせて」


 雅功さんは美輪君に頭を下げた。美輪君はバツが悪そうに、


「いえ、アッキーナを救ってくれたのはおじさんですから。謝らないでください」


「ありがとう、美輪君」


 雅功君は爽やかな笑顔で言った。


 ふと気になり、椿先生を見ると、また憧れ以上恋愛未満の視線で雅功さんを見ていた。


「取り敢えず、しばらくは復活の会は大人しくしているだろうが、組織は大きいから、明徹を封じただけではまだ壊滅は無理だろうね」


 雅功さんが言うと、私達は無言で頷いた。


 復活の会、ホントにしつこいんだから。


 


 それにしても、椿先生の事も気になるまどかだった。

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