神田原一族の陰謀なのよ!

 私は箕輪まどか。中学生の霊能者。


 私と取り敢えず親友の綾小路さやかは、復活の会という妙な団体の襲撃に備えるため、私の彼氏の江原耕司君の邸に寝泊りする事になった。


 遂に同棲スタート、と言いたいところだけど、さすがにそうは問屋が卸さないのだった。


 え? 言い回しが古いのは作者が古い人間だからよ! 私のセンスの問題じゃないからね!


 江原ッチは親友の美輪幸治君の家に行かされてしまったのだ。


 まあ、さやかもいるし、クラスの副担任である椿直美先生もいるから、江原ッチはいない方がいいのかも。


 どうしてあんなに女子に目がないのか、不思議で仕方がないけど。


「おはよう、まどか。取り敢えず親友のさやかよ」


 さやかが涙目で私を睨んでいた。


 さやかは人の心の声を聞けるから、さっきの全部聞かれたらしい。


「お、おはよう、さやか。そんな事ないよ。貴女は明菜の次に大事な親友よ」


 私は苦笑いして言い訳した。


「普通、ここにいない子より、ここにいる子を一番て言うと思う」


 さやかは泣きそうな顔で言う。


 さやかは私の親友の近藤明菜にいろいろな意味で対抗心があるようだ。


 私との関係、転校してしまったけど、まだメールのやり取りはしているらしい柳原まりさんとの関係。


「ごめんごめん。許してほしーの」


 私は某三十路グラビアアイドルの真似をして、胸の谷間を作って詫びた。


「谷間、できてないし」


 さやかにあっさり否定され、私は撃沈した。


 私とさやかがいるのは、江原邸の客間。


 十畳以上ある広い部屋で、勉強机も二つ、箪笥や寝具も二組と生活に必要なものは皆揃っている。


 このままここにずっと住んでいたいと思ってしまうほどだ。


「あんたはいずれここの若奥さんでしょ?」


 さやかはニヤリとして言った。


「え?」


 つい、いろいろ妄想してしまい、顔が火照ってしまった。


 妄想を描写すると、中学二年生が主人公なのに十五禁になってしまうので、書けない。


「相変わらずスケベね、まどかって」


 さやかはそう言うと、部屋を出て行ってしまった。


「ちょ、ちょっと、その発言、誤解を招くわよ!」


 私は慌ててさやかを追いかけた。


 


 江原ッチのお母さんの菜摘さんが作ってくれた朝食をいただき、私とさやかは江原ッチの妹さんの靖子ちゃんと共に邸を出た。


「おはよう、まどかりん」


 門を出ると、江原ッチが爽やかな笑顔で立っていた。


「おはよう、まどかちゃん」


 美輪君と明菜も来ている。


「おはよう、耕司君。昨日は抱きしめられてドキッとしたわ」


 さやかは顔を赤らめて江原ッチに挨拶した。


「どういう事でしょうか、江原耕司様?」


 私は江原ッチの背後に立って尋ねた。


「誤解だよお、まどかりん。昨日、さやかさんがつまずいて、俺が助けただけだよ」


 江原ッチは干物になりそうなくらい大量の汗を掻きながら言った。


「そうよ、まどか、あんた嫉妬し過ぎ」


 さやかが言った。うーん、何だか納得しかねるけど……。仕方ない。


「ねえ、綾小路さん、江原君の事、耕司君て呼ばないでよ。美輪君と紛らわしいから」


 明菜の中の言いがかり女王が起動したようだ。闘志満々でさやかを見ている。


「あーら、そう。じゃあ、江原ッチって呼ぶ事にするわ」


 さやかも負けていない。って、それは私だけに許された呼び方よ!


「異議なし」


 明菜はあっさり言った。ああ……。


「江原ッチはやめてよ、さやかさん。それはまどかりんの呼び方だからさ」


 江原ッチがそう言ってくれた時、私はもういつでもお嫁に行けると思ってしまった。


「わかったわよ。じゃあ、江原君でいいかしら?」


 さやかは面倒臭くなったようだ。


「ほらほら、朝から揉めない」


 そこに椿先生が登場した。


「おお!」


 ダブルコウジの目が椿先生に釘付けになる。


 男って奴は、本当に!


「コウジ様、後でお話があります」


 私と明菜は打ち合わせないで見事にハモって言った。


「ひいい!」


 江原ッチと美輪君も見事にハモった。


 


 江原ッチは名残惜しそうにさやかと共に別方向へと歩き出した。


「さあ、行きましょうか」


 椿先生が言い、私達も登校開始だ。


「神田原明正が現れたから、今日から私が同行しますね」


 椿先生が言った。


「はい」


 私達は元気良く応じた。


 やがて肉屋の力丸卓司君も加わり、学校に着いた。


「椿先生がいるから、現れなかったのかしら?」


 私が言うと、


「その可能性はないわね。あいつはそんな臆病者じゃないわ」


 椿先生は微笑んで答えてくれた。


「学校全体に結界を張りましたが、気休めに過ぎないかも知れません。気をつけてください」


 椿先生の言葉で、私は鼓動が高鳴った。


 


 学校に着くと、何故か緊急の朝礼があると言われ、全校生徒が校庭に出た。


「何だろう?」


 私は明菜と列に並びながら呟いた。


 その時、校長先生が台の上に上がった。


「皆さん、おはようございます」


 生徒達がそれに答えて挨拶する。


「今日は大変残念なお話をしなければなりません」


 残念なお話? 何?


 ハッとした。


 校長先生から、あの男の気が出ている。


 そればかりではない。


 先生方全員がすでに洗脳されているのだ。


「箕輪さん、江原さん!」


 椿先生が叫んだ。私はすぐに靖子ちゃんに駆け寄った。


「本校の生徒に犯罪者がいます。それは箕輪まどか、江原靖子です。この二人を処罰しますので、皆さん、協力してください」


 気がついた時には、生徒達は神田原明正の力で洗脳されてしまった後だった。


「靖子ちゃん、摩利支天の真言を唱えて!」


 私は走りながら叫んだ。


「オンマリシエイソワカ」


 私と靖子ちゃんは同時詠唱し、周囲の邪気を祓い除けた。


 しかし、そんなのは焼け石に水だ。


 後から後から生徒達が襲いかかって来る。


 操られているだけの人達だから、攻撃真言は使えない。


「神田原明正、貴方の所業は許さない!」


 椿先生が叫んだ。


「ほほう。どうするつもりかね?」


 校長先生に乗り移った明正はニヤリとして椿先生を見た。


 椿先生は真言で生徒や先生方を押し退けながら、


「貴方は知らない。何故私だけがサヨカ会の襲撃から助かったのかを!」


 次の瞬間、椿先生の気が爆発的に高まった。


 それはあの西園寺蘭子お姉さんの裏蘭子さんに匹敵するものだった。


 いや、もしかするとそれ以上かも知れない。


「何!?」


 明正が焦るのがわかった。


「真言の力はその唱える者の気の量と質に比例するわ! 受けてみなさい、私の真言を!」


 椿先生の栗色の髪が逆立った。


「オンマリシエイソワカ!」


 まさに突風だった。椿先生の真言は校長先生に取り憑いている明正をピンポイントで直撃した。


「ぐあああ!」


 明正の霊は校長先生から離れた。


「逃がさないわ! ナウマクサラバタタギャーテイビヤクサラバボッケイビヤクサラバタタラタセンダマカロシャダケンギャキギャキサラバビギナンウンタラタカンマン !」


 次に先生は不動金縛りの術を使い、明正の霊体の動きを封じた。


 凄い。凄過ぎます、椿先生。


「くうう!」


 明正の霊体は悶絶している。


「貴方にはしばらくそのままでいてもらいます」


 椿先生は更に何かを唱えた。


「ぐわああ!」


 すると明正の霊体はギュウッと小さくなり、


「はい!」


 椿先生が差し出したお札に吸い込まれてしまった。


「仕上げですね」


 椿先生は印を結び、


「オンマリシエイソワカ」


と唱えると、他の先生方や生徒達に取り憑いていた邪気を吹き飛ばしてしまった。


「終わったわ」


 椿先生は微笑んで私と靖子ちゃんを見た。


 さっきまでのあの闘神のような凄まじさは消え、今はまさに菩薩のような顔の椿先生。


 一瞬にして尊敬してしまったまどかだった。

 

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