復活人が襲って来たのよ!

 私は箕輪まどか。中学生の霊能者。


 復活の会の神田原明徹達の襲撃に備えるため、私と綾小路さやかは、私の彼の江原耕司君の邸で暮らす事になった。


 残念な事に江原ッチは親友の美輪幸治君の家に移された。


 何故なら、私のクラスの副担任である椿直美先生も一緒に住むからだ。


 椿先生に対してばかりでなく、さやかにまでエロい感情を持っている江原ッチ。


 後でお仕置きしないとね。


 


「おはよう、まどかお姉さん、さやかお姉さん!」


 江原ッチの妹さんの靖子ちゃんは、私達が来た事がとても嬉しいらしく、朝からハイテンションだ。


「おはよう、靖子ちゃん」


 さやかは一人っ子なので、靖子ちゃんが慕ってくれるのがすごく嬉しいらしい。


「私もこんな妹が欲しかったなあ」


 お父さんを亡くしているさやかが言うと、何だか切なくなる。


 そう言えば、さやかの彼で私の元彼の牧野徹君も一人っ子だから、さやかには義理の妹も望めないのか。


 マッキーのご両親にお願いするしかないわね。


 って、朝から何言わせるのよ!?


 


 やがて私達は食堂で朝食をいただいた。


 江原ッチのお母さんの菜摘さんは、奇麗なだけでなく、料理も得意。


 そこまでは我が母と同じなのだが、我が母は江原ッチに色目を使うバカ母なので、本当に菜摘さんとは比べものにならない。


 食事をすませた私達は、邸を出て学校に向かう。


「あれ、まどか、今日はお通じあったの?」


 さやかが小声で訊いて来た。


「な、何言ってるのよ、さやかは!」


 私はクスクス笑いながら行ってしまうさやかに叫んだ。


 さやかは江原ッチと同じ中学校だから、邸を出ると方角が違う。


「おはよう、さやかさん」


 何故か路地の先に江原ッチが待っている。


 ええ? どういう事!?


 私はムッとして江原ッチを睨んだ。


「まどかりん、仕方ないんだよ。親父にさやかさんをガードするように言われてるんだ」


 江原ッチは悲しそうに言った。


「そ、それなら仕方ないわね」


 私は半分納得し、靖子ちゃんと歩き出す。


 気になって振り返ると、江原ッチはさやかと手を繋いでいた。


 あのエロ男! 後で月に代わってお仕置きするんだから!


「どうして私にはガードが付かないのよ」


 不満そうに呟くと、


「まどかちゃんには俺がいるよ」


 美輪君が私の親友の近藤明菜と共に現れた。


「おはよう、まどか、靖子ちゃん」


 明菜は美輪君を睨みつけてから言った。


「おはよう」


 私は明らかに機嫌が悪い明菜に苦笑いした。


「あんたが急にこんな遠くに引っ越すから、私はすごく遠回りして登校なのよ」


 明菜はいつもより一時間も早く起きたらしい。


「でも、明菜は一人で学校に行けばいいじゃない?」


 私は意地悪で行ってみた。すると明菜は、


「わ、私が一人で行こうとすると、美輪君が私を心配して貴女のガードをできなくなるから、仕方なくこっちに来ているのよ」


と答えた。相変わらずの強がりモードだ。明菜らしい。


「まあ、そのお陰で、俺はアッキーナと長く一緒にいられるんだけどね」


 美輪君が爽やかな笑顔で言った。


「やだ、美輪君たら」


 明菜は赤くなって照れている。もう、勝手にしてって感じだ。


 私達は楽しく会話しながら学校へと向かった。


 途中、肉屋の力丸卓司君も加わった。


「靖子ちゃん、コロッケ食べる?」


 朝からそんなボケをかますリッキー。


 よく食べ飽きないと思う。


 その時だった。


「まどか!」


 危険を察知したさやかが後ろから駆けて来た。


 私達の通学路の先に、明らかに様子がおかしい男の人がいる。


 もうすっかり秋の陽気なのにも関わらず、半袖のTシャツとハーフパンツ。


 靴ではなくサンダル。


 しかも大きめの白いマスクを着けて、サングラスをかけている。


「これって、もしかして……」


 私はその男の人から、復活の会の気配を感じた。


「そのようよ」


 私とさやかは明菜と靖子ちゃんを下がらせる。


 幸い、周囲には他の人はいない。


「何なの?」


 リッキーはコロッケを食べながら尋ねた。


「ほらほら、力丸、危ないって」


 美輪君が状況を呑み込んでいないリッキーを引き摺るようにして離れる。


「箕輪まどかと綾小路さやかだな?」


 その男はマスクを着けたままで言った。


「そうだけど、何?」


 さやかはすでに戦闘モードだ。


「我らが教祖様の神田原明徹様に逆らう者には神の裁きを与える」


 男はバッとマスクとサングラスを外した。


 まるであの演歌歌手のような小さい目とおちょぼ口だ。


 笑ってしまいそうになる。


「インダラヤソワカ」


 男はいきなり帝釈天真言を唱えた。


「はい!」


 さやかが気を発動して、男を跳ね飛ばした。


 男はそのまま数メートル吹っ飛び、地面に倒れた。


 そのせいで真言は狙いが外れ、誰もいない地面にぶつかって消えた。


「まどか、やるわよ」


 さやかが私を見る。


「了解」


 私達は印を結び、起き上がる男に、


「オンマリシエイソワカ」


と摩利支天の真言を放った。


「ぐへえ!」


 男は真言の直撃を受け、また倒れた。


「やるな、小娘」


 男の身体から、霊が離れた。


 思った通り、男は一度死んでおり、別の霊が乗り移って動かしていたようだ。


「貴方は!?」


 さやかの顔つきが険しくなった。


「ほう。私を覚えているか、綾小路さやか?」


 男の霊はニヤリとして言った。


「忘れる訳ないでしょ! 父を殺した男の顔を!」


 さやかが叫ぶ。私はギョッとして男の霊を見た。


「そうだな。忘れる訳はないな。まあいい。今日のところは小手調べだ。次はもうちょっと怖い思いをしてもらうぞ」


 男の霊はそう言ってスーッと消えてしまった。


「さやか、あの男は誰?」


 私はさやかに尋ねた。さやかは私を見て、


「神田原明正。明徹の弟よ」


とまさしく吐き捨てるように言った。


「明徹の、弟……?」


 私は神田原一族が大家族のような気がして怖くなった。


「そこを怖がらないでよ! 神田原一族は、全員が幽体離脱を自由自在にこなすのよ。気を抜くと、あんたも乗っ取られるわよ」


 さやかはいつになく真剣な顔で言った。


「そうなんだ」


 お父さんの仇に再会したさやかに対して、私はあまりに無神経過ぎたのかも知れない。


「ごめん、さやか」


 歩き去るさやかに私は詫びた。


「いいのよ。あんたが私を和まそうとして言ったのはわかってるから」


 さやかはそう言うと、元来た道を戻って行く。


「ありがとう、さやか」


 私はさやかにお礼を言ってから、リッキー達と目配せし、学校へと向かった。


 


 復活の会の恐ろしさの片鱗を見た気がするまどかだった。

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