瑠希弥さんが東京に帰る日なのよ!

 私は箕輪まどか。中学二年の霊能者だ。


 先日、私のお師匠様である小松崎瑠希弥さんが東京に帰る事を聞かされた。


 私と柳原まりさんと、私の彼の江原耕司君の妹さんの靖子ちゃんは号泣した。


 それほど、瑠希弥さんの話は衝撃的だった。


 でも、瑠希弥さんは、尊敬している西園寺蘭子さんのところに戻るのを延期して、私達を育ててくれたのだ。


 もうこれ以上我が儘は言えない。


 それに、瑠希弥さんの姉弟子の椿直美先生もいる。


 気になるサヨカ会残党対策も心配ない。


 気持ちよく瑠希弥さんを送り出してあげたい。


 そう思った。


 


「どうして私に教えてくれなかったのよ!」


 目の前でそれなりに美少女の綾小路さやかが泣きながら怒鳴っている。


「それなりにって、何よ!」


 そんな状態でもしっかり突っ込んでくれるので、すごくいい子だ。だから大好き。


「え、な、何よ、急に誉めたりして……」


 さやかの弱点は誉められる事のようだ。動揺しているのがおかしい。


 私は江原ッチの邸に来ていた。


 瑠希弥さんが帰るのだ。


 親友の近藤明菜も、彼氏の美輪幸治君と一緒に来ていた。


 明菜は、瑠希弥さんには複雑な思いがあるようだけど、助けてもらった事もあるので、もうわだかまりはないようだ。


 ふと気づくと、何故かエロ兄貴とG県警の本部長も来ていた。


 そうか。瑠希弥さん、霊感課も辞めるからか。


 兄貴は涙ぐんでいる。理由は何となくわかっている。バカ兄貴め。


 まゆ子さんに内緒で来たのだろうか、と思ったら、まゆ子さんは兄貴の背後にまさしく背後霊のように立っていた。


 怖過ぎます、まゆ子さん!


 瑠希弥さんが江原ッチのお父さんの雅功さんとお母さんの菜摘さんに伴われて出て来た。


 椿先生も一緒だ。


「皆さん、今までお世話になりました。皆さんの事は一生忘れません。もちろん、何かあれば、いつでも駆けつけますから」


 瑠希弥さんが涙ぐんで言ったので、私とさやかとまりさん、そして靖子ちゃんはもらい泣きした。


 明菜は声は出さなかったが、涙を流し、美輪君にすがりついている。


 むしろ、すがりつかれている美輪君の方が泣いていたのはちょっと後で問題になりそうだ。


 気になって江原ッチを見ると、すでに瑠希弥さんの手を取り、


「遊びに行ってもいいですか?」


などと訊いていた。何してるのよ、全く! 


「ええ。まどかさん達と来てください」


 瑠希弥さんらしい返しに、江原ッチは撃沈していた。正義は勝つのよ。




 瑠希弥さんはたくさんの花束とお土産、そして私達が書いた手紙を抱えて、車に乗り込んだ。


「お元気で」


 瑠希弥さんはそう言うと、車をスタートさせた。


 笑顔だったけど、目は潤んでいた。


「瑠希弥さーん!」


 私達は車が見えなくなるまで手を振った。


 やがて瑠希弥さんの車は通りの向こうに見えなくなった。


「まどかさん、ボクもお別れなんだ」


 まりさんが突然小声で言った。


「え?」


 また女子達に衝撃が走る。


「どういう事、柳原さん?」


 まだ泣いている美輪君を突き飛ばすようにして、明菜が詰め寄った。


 靖子ちゃんもさやかもジッと柳原さんを見つめている。


 柳原さんは苦笑いして、


「ボクも東京に転校するんだ。短い間だったけど、お世話になりました」


 スッと頭を下げられ、私達は顔を見合わせた。


 まりさん、もしかして本当に瑠希弥さんを追いかけて東京に行くの?


 凄い執念だ。私には真似できない。


「柳原さん、どうしてなの?」


 明菜達に取り囲まれ、まりさんは戸惑っていた。


「霊感課に入ってくれませんか?」


 兄貴はすでに立ち直り、椿先生に交渉している。


「制服も用意してありますよ」


 本部長までノリノリだ。


「はあ、でも、私は学校がありますので……」


 苦笑いする椿先生。ムッとして兄貴を睨みつけるまゆ子さん。


 これからどうなっちゃうんだろう?


 


 いろいろと新展開の予感のまどかだった。

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