瑠希弥さんに手解きを受けるのよ!

 私は箕輪まどか。中学二年の霊能者だ。


 先日、同級生の柳原まりさん(ボクッ娘)が、あまりの人気ぶりに嫉妬の渦に潰されそうになったのを私のお師匠様である小松崎瑠希弥さんに救われた。


 その時の瑠希弥さんはエロ、あいや、感応力全開で周囲を慈愛の波動で埋め尽くした。


 そのせいで、私の彼氏の江原耕司君、私の親友の近藤明菜の彼氏で江原ッチの親友でもある美輪幸治君、そして、同級生で肉屋の御曹司の力丸卓司君までを巻き込んで、小松崎瑠希弥教ができるのではないかというくらいの魅力爆発だった。


「お姉ちゃん、抱っこしてえ」


 幼稚園児まで魅了してしまい、これは新たな「生物兵器」になるのではないかと危惧したまどかである。


 ところで、生物兵器って何?


 


 そんなある日の下校時。


 今日は江原ッチと下校デートなので、いつものコンビニに向かう。


 改めて指摘しておくが、そこにはアイスを買い占めるお姉さんは現れない。


「え?」


 私はコンビニに入り、意外な人物を見つけた。


 このちょっと憎らしい雰囲気の女、誰だっけ?


「あんたわかっててやってるでしょ!」


 その女は私を睨みつけて言う。ああ、私の心を読めるのはあいつだけ。


「何だ、誰かと思えば、さやかじゃない。どうしたの、こんなところで?」


 そう、そこにいたのは、あの悪役商会の綾小路さやかだった。


「私はいつまでそのキャラなのよ! もう親友でしょ!」


 さやかは顔を赤らめながらそんな事を言った。


「悪い悪い。あんたのイメージ、固定されちゃってさ」


「何よ、便秘女」


 さやかのその一言は、私のガラスのハートを見事に射貫いた。


「あれ、当たってたの?」


 さやかは意外そうな顔で私を見る。もしかして、カマをかけられたの、私?


「三日くらいで心配しなくて大丈夫よ。私は最大一週間て記録あるから」


 さやかはこっそり教えてくれた。何だか、ようやくこいつと友達になれそうな気がした。


「親友じゃなかったの……」


 項垂れるさやか。私は慌てて、


「いやいや、親友だよ。あんたは数少ない私の本当の理解者だよ」


とフォローした。決してツイッターではない。


「ありがとう、まどか」


 さやかは涙ぐんだ顔で私を見た。何だかこいつ、雰囲気変わったな。


「ところで、今日はどうしてここにいるの?」


 私は最初に思った疑問をぶつけた。さやかはニコッとして、


「ここにいれば、あんたが来ると思ったからよ」


「私を待ってたの? どうして?」


 それも意外で不思議だった。するとさやかは、


「この前、瑠希弥さんが柳原さんを助けた時の事を聞いて、もう一度瑠希弥さんに手解きを受けようと思ったのよ」


「そうなんだ」


 たわいのない会話をしているうちに江原ッチが来た。


「まどかりん……」


 何かを話そうとした江原ッチだが、さやかに気づいて言葉を失った。


「こんにちは、江原君」


 さやかはごく普通に挨拶した。


「あのね、江原ッチ」


 私は江原ッチに事の経緯を話した。


「なるほどね」


 私も瑠希弥さんにもう一度教わりたい事があるから、今日のデートを延期してくれるように江原ッチに頼んだ。


「いいよ。今日は僕も参加させてもらうから」


 江原ッチの顔がエロ全開だ。


「断わる」


 私とさやかは全力で言った。江原ッチは泣きそうだ。


「私だって、マッキーがついて来たいって言うのを振り切って来たのよ。瑠希弥さんの講義は、男子禁制なの!」


 さやかは非情にもそう言った。それには私も同意する。


 瑠希弥さんの魅力はもはや最終兵器にも等しいのだ。


 江原ッチはもちろんの事、さやかの彼氏の牧野徹君でも同席はだめよ。


「ううう……」


 私とのデートを延期された上、瑠希弥さんの講義も出入り禁止にされた江原ッチは、肩を落としている。


「江原ッチ、後でお詫びするから。ね?」


 私は小声で江原ッチに言い、ウィンクした。


「う、うん!」


 急に元気になった江原ッチ。唇にリップクリームを塗り始めたぞ。何を期待しているのだろうか?


 


 こうして、私とさやかは江原邸に瑠希弥さんを訪ね、講義をお願いした。


「わかりました。先生の道場をお借りして、講義をしますね」


 瑠希弥さんは笑顔全開で言った。何故かさやかはポオッとしている。


「どうしたの、さやか?」


 私が尋ねると、


「柳原さんが落とされる訳よね。瑠希弥さんて、男も女も関係なく魅力的よ」


 さやかは目がハートマークになっていた。


 こいつ、マッキーから柳原さん、そして更に瑠希弥さんに乗り換えるつもりか?


 節操がないな。


 


 そして、道場。


 以前と同様、私達はTシャツと短パンで瑠希弥さんと向き合っている。


 ふと見ると、さやかの奴、胸が大きくなったような……。


「気づいた? 牛乳に相談したらこうなったのよ(個人的な意見です)。毎日一リットル飲んだら、こんな感じ?」


 さやかは勝ち誇ったように言う。羨ましい。


「ホントに!?」


 私は今日から牛乳を毎日二リットル飲む事にした。え? 便秘を治すのか、ですって? 


 う、うるさいわね! そこから離れなさいよ!


「でも……」


 さやかは瑠希弥さんの胸を見て溜息を吐く。


「あそこまで行くには、一体何リットル飲めばいいのか……」


「そうね……」


 お腹をこわしそうなほど遠い道のりな気がする。


「どうかしましたか?」


 瑠希弥さんはキョトンとした顔で言った。


「何でもありません! よろしくお願いします!」


 私達は雑念を振り払って、瑠希弥さんの講義を受けた。


 相変わらず、気の巡らせ方は疲れる。


 自然に気を巡らせる事ができる瑠希弥さんは本当に凄い。


「私なんかまだまだです。菜摘先生の足下にも及びません」


 瑠希弥さんは苦笑いして言う。


 菜摘先生というのは、江原ッチのお母さん。


 そうか、菜摘先生って、そんなに凄い人なのか。


「気の巡らせ方をマスターすれば、どんな霊にも対処できます。ですから、必ず会得してください」


「はい」


 私とさやかは声を揃えて返事をした。


 瑠希弥さんが頂上かと思ったけど、まだその上には菜摘さんがいる。


 そして、江原ッチのお父さんの雅功さんは更にその上なのだと言う。


 で、雅功さんのお師匠様はまたその上で……。


 気が遠くなりそうなまどかだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る