ゲームセンター捕物帖なのよ!

 私は箕輪まどか。中学生の美少女霊能者だ。


 今私は、私の師匠的存在の小松崎瑠希弥さんと共に、瑠希弥さんの車でM市の外れにあるゲームセンターに向かっている。


 途中で、嬉しそうな顔で待っていた彼氏の江原耕司君を乗せるのをやめようかと思ったが、


「まどかりんの思い過ごしだよお」


と泣いて懇願したので、仕方なく後部座席に乗せてあげた。私の車じゃないんだけどね。


 


 やがて私達は、とても同じM市内とは思えないくらい長閑な風景の広がる場所に来た。


 辺りは見渡す限り田んぼと畑。


 何となく、素晴らしい香りも漂って来る。


「ここね」


 瑠希弥さんは颯爽と車を降りて言った。


 私も助手席から降りて、ゲームセンターの建物を見上げる。


 やかましいほどの宣伝文句に彩られた電飾看板を横目に見て、瑠希弥さんと私は中に進む。


「置いてかないでよお、まどかりーん」


 情けない声を発しながら、江原ッチが駆けて来た。


 


 ゲームセンターの中に入ると、そこには学校帰りの小中生、高校生、果てはスーツ姿のサラリーマンまでいる。


「どこかしら?」


 瑠希弥さんが奥へと歩き出すと、辺りにいたスケベそうな男共が集まり始めた。


「よお、彼女お。俺達遊ばない?」


 その中の一人が言う。すると瑠希弥さんはいきなり、


「インダラヤソワカ」


と帝釈天真言を放った。


「ぎええ!」


 男共は雷撃で失神した。過激過ぎ、瑠希弥さん。


 それを見て、同じ事を考えていたらしい連中が足を止めた。


 うざい連中を一掃できて良かったのかな?


「まどかりんは俺が守るからね」


 江原ッチが私の肩を抱いて言ってくれた。


「ありがとう」


 私はキュンとして江原ッチを見上げる。


 しかし、江原ッチは、瑠希弥さんを見てヘラヘラしていた。


「江原耕司君、後でお話しましょう」


 私は絶対零度の冷たさで言った。


「ひいい!」


 江原ッチは慌てて瑠希弥さんを見るのを止めた。


 ホント、懲りない奴。


「あの向こう?」


 瑠希弥さんは正面に見えるドアを見つめた。


 私も感じる。ドアの向こうに誰かがいる。


 しかも、相当強烈な霊力を持っている奴が。


「行っちゃいますよ!」


 江原ッチがドアを蹴破った。


 そのドアの向こうには大きな机があり、その更に向こうの革張りの椅子に黒いスーツの男が座っていた。


「ようこそ、サヨカ会G県本部へ」


 男は言った。サヨカ会G県本部ですって? どういう事?


「壊滅させたと思ったのかね、箕輪まどかさん? それと小松崎瑠希弥さんだったかな?」


 男はニヤリとして嬉しそうに言う。


「俺は江原耕司だ!」


 名前を呼ばれなかった江原ッチがムッとして叫んだ。


「私は、鴻池こうのいけ仙一せんいち。大仙の息子だ」


 私達は思わず顔を見合わせた。サヨカ会の宗主だった大仙の息子?


「父の敵である君達には、たっぷりと礼をしようと思っていた。よく来てくれたね、罠とも知らずに」


 ギクッとして振り返ると、目も虚ろな連中が入口を塞ぐように集まって来ていた。


「そう怖がる事はないよ。君達はおとりに過ぎない。西園寺蘭子をおびき出すためのね」


 仙一はフッと笑って言った。寒気がする。


「何ですって!?」


 瑠希弥さんの顔色が変わった。蘭子お姉さんの事になると、瑠希弥さんは感情が高ぶる。


「大人しくしてもらうよ」


 仙一は内ポケットからりんを取り出した。仏壇に必ず置かれている仏具だ。


「眠れ」


 仙一が鈴をばちで叩くと、気味の悪い音が鳴り響いた。


 頭の中を蜂が飛んでいるようだ。


「うう……」


 私達はなす術もなく、その場に倒れてしまった。


 あれが、江原ッチのお父さんの雅功さんが言っていた、大仙が持っていた他の術具なのだろうか?


 私の思考はそこで途切れた。


 


 次に私が目を覚ましたのは、薄暗い部屋だった。


 裸電球が一つだけ光っているのが見える。


 私も瑠希弥さんも江原ッチも、手足を縛られ、猿轡さるぐつわを噛まされている。


 ふと見上げると、憎々しい顔で、仙一が私達を見下ろしていた。


「ここはゲームセンターの下に造らせた地下室だ。西園寺蘭子が現れるまで、君達にはここで過ごしてもらう」


 私と瑠希弥さんは、仙一を睨んだ。


 江原ッチはモゾモゾしていて、背中を向けている。


 この緊急時に何してるのよ!?


「では、また後でな」


 仙一はニヤリとし、地下室を出て行ってしまった。


 どうしよう?




 絶体絶命のまどかだった。

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