たまにはジーンと来るお話なのよ!

 私は箕輪まどか。中学生の霊能者。多くの人が、私の事を「美少女霊能者」と呼ぶ。


 まあ、嘘じゃないけど、「多くの人」の実際の数が問題よね。


 


 という訳で、放課後。


 いきなり放課後かよ、なんて思わないでね。


 これからが本番なんだから。


 私はいつものように絶対彼氏の江原耕司君に会うため、中間地点のコンビニに向かっていた。


 中間地点と聞くと、「バラン星か?」と思う人は、立派なヤマトフリークなんですって。


 どういう意味?


 その道すがら、あからさまに悲しそうなお婆ちゃんを見かけた。


 申し訳ないとは思ったけど、気になったので、お婆ちゃんの心を覗いた。


 お婆ちゃんの旦那さんが入院中で、しかも意識不明の状態が何ヶ月も続いている。


 お婆ちゃん自身、相当疲れていて、精神的にも限界のようだ。


「大丈夫、お婆ちゃん?」


 全くの初対面だったが、声をかけずにいられなかった。


 え? お前にしては珍しいな、ですって?


 どんだけ私の事、冷たい人間て思ってるのよ!?


「ありがとう、お嬢さん。大丈夫よ」


 そう言いながら、お婆ちゃんはヨロヨロして歩いて行く。


 様子がおかしい。


 更に気になり、お婆ちゃんを追いかけ、もう一度心を覗いた。


 お婆ちゃんは、旦那さんが元気な頃、


「もしわしが倒れて意識不明になったら、そのまま逝かせてくれ。延命治療なんてするな」


と言われていたらしい。


 でも、実際に旦那さんが倒れると、約束を思い出す事もなく、何とか意識を取り戻して欲しいと願い、病院で治療をしてもらっている。


 そんなある日、お婆ちゃんの夢に旦那さんが現れた。


 旦那さんは、


「約束を守ってくれ」


と言ったようだ。


 お婆ちゃん心の中の事なので、それが本当に旦那さんの言葉なのかはわからない。


 でも、お婆ちゃんは旦那さんが怒っていると思っている。


 約束を守らなかったので、夢枕に立ったのだと。


 私は、驚かれるのを覚悟で、お婆ちゃんに声をかけた。


「旦那さんとの約束の事が気になるの、お婆ちゃん?」


 お婆ちゃんは目を丸くして私を見た。


 それはそうだろう。


 初対面の人間にそんな事を言われたら、私だって驚く。


「どうしてそれを?」


 私は事情を説明した。怒られるかも知れないと思ったけど、力になりたかったから。


「そう。そんな事ができるの。私もほしいねえ、その力」


 お婆ちゃんは弱弱しく微笑んでそう言った。


「お爺ちゃんの本当の気持ちを知りたいと思わない、お婆ちゃん? お節介かも知れないけど、その方がいいと思うの」


 私は一息で言い切った。お婆ちゃんは一瞬呆気にとられた顔をしたが、


「そうね。お爺さんの気持ち、聞いてみたいね」


と言ってくれた。


「ありがとう、お婆ちゃん」


 私はおばあちゃんについて、病院に行った。


 そこは、以前同級生の岡本まり子さんが入院していたG大付属病院だった。


 まり子さんはあれから間もなく容態が急変して、短い生涯を終えた。


 お通夜もお葬式も出席したけど、悲し過ぎてほとんど覚えていない。


 親友の近藤明菜も、肉屋の力丸卓司君も泣いていた。


 ああ、また涙が出て来た。


「どうしたの、お嬢さん?」


 お婆ちゃんが私の異変に気づいて声をかけてくれた。


「ごめんなさい、何でもない」


 私は微笑んで誤魔化した。




 旦那さんが入院しているのは、まり子さんとは違う病棟だった。


 ナースセンターを通り過ぎる時、妙な感覚に襲われた。


 ふと看護師さん達の方を見ると、老人の霊が立っている。


 しかも、生霊だ。


 老人の霊は、お婆ちゃんに気づき、驚いた顔をしてナースセンターから病室の方へと飛んで行った。


 どうやら、その人がお婆ちゃんの旦那さんのようだ。


 霊体は元気そうだな。っていうか、ナースセンターで何してたのよ?


 私達は病室に入った。そこは個室で、ベッドに寝かされている人は、さっき見かけたお爺さんだった。


 酸素吸入をされていて、いくつもの管が腕や脚に取り付けられている。


 私は、ベッドの脇で自分の様子を見ている旦那さんに声をかけた。


「本当の気持ちを教えてくれない、お爺ちゃん?」


 旦那さんはビックリして、私を見た。


 お婆ちゃんも私が誰もいない空間に向かって話しているので、仰天している。


「わしが見えるのか、嬢ちゃん?」


「ええ。普通の人と同じくらいはっきりとね」


 旦那さんは苦笑いした。


「じゃあ、さっき、ナースセンターにいたのも?」


「ええ、もちろん」


「婆さんには内緒にしてくれ」


 旦那さんは手を合わせて懇願した。私はクスッと笑い、


「はいはい。それより、お婆ちゃんが気にしている事なんだけど?」


 すると旦那さんは頭を掻いて、


「婆さんには、大見得を切って、治療するななんて言ったけど、本当は感謝してるんだよ。だから、無理するなって言いに行ったんだが、婆さんには聞こえなかったみたいだな」


「じゃあ、構わないのね、今のままで?」


「ああ、もちろん。わしも頑張るから、と伝えてくれ。ありがとな、嬢ちゃん」


「うん」


 私はいつの間にか泣いていた。


 旦那さんの気持ちが良くわかって、感動したのだ。


「あの……」


 私が突然泣き出したので、お婆ちゃんが驚いて声をかけた。


「あ、ごめんなさい、お婆ちゃん。お爺ちゃんと話をしました。感謝してるって。わしも頑張るからって言ってました」


「そう」


 お婆ちゃんの目に涙が浮かぶ。


「ありがとう、お嬢さん」


「どういたしまして」


 私達は涙を拭いながら微笑み合った。


 私が感動している頃、江原ッチは必死になって私の携帯にメールしていたが、病院にいた私の携帯は電源オフだった。


 ごめんね、江原ッチ。


 


 今日は気持ちのいい日の、まどかだった。

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