新年早々、ややこしい除霊なのよ!

 私は箕輪まどか。中学生の霊能者だ。


 私の絶対彼氏の江原耕司君の家に、尊敬する西園寺蘭子お姉さんのお弟子さんである小松崎瑠希弥さんがいる。


 瑠希弥さんは美人で性格が良くて、その上家事全般もこなせる人なので、私は全く太刀打ちできない。


 しかも、霊能力の一種である感応力が強く、蘭子お姉さんをも上回る。


 それに加えて、江原ッチのお母さんの菜摘さんが、瑠希弥さんを指導したので、感応力は更にアップし、今や「官能力」に近い。


 それでも、瑠希弥さんの努力と菜摘さんの教えにより、その力は押さえ込めるようになったようだ。


 その証拠に、今日、江原ッチの家に行ったら、江原ッチは檻の中にはいなかった。


「今日はどうしたんですか、瑠希弥さん?」


 私は江原ッチではなく、瑠希弥さんに呼ばれて来たのだ。


「今日は大学入試センターの依頼で、ある大学に行きます」


「大学入試センター?」


 聞いた事があるようなないような。


「毎年恒例のあれっすね」


 江原ッチが嬉しそうなのは、瑠希弥さんと話せるからではないと信じよう。


「毎年恒例って?」


 私はキョトンとして江原ッチを見た。


「この時期になると、出て来るんだよ」


 江原ッチは、「幽霊のポーズ」をしてみせた。


 今時流行らないよ、それ。


「では、行きますよ」


「はい」


 江原ッチも同行すると知り、私は気が気ではない。


 確かに、以前に比べると瑠希弥さんの感応力は制御されてはいる。


 しかし、私のエロ兄貴ほどではないにしても、江原ッチもどちらかというとそっちの世界の住人だから、まだ不安なのだ。


 そんな事を考えていると、早速江原ッチが瑠希弥さんの車の助手席に乗ろうとしているので、


「貴方は後ろ」


と耳たぶを掴んでどかした。


「あいでで」


 江原ッチは涙ぐんで後部座席に座った。


 スポーツカー仕様なので、後ろは狭いのだ。でも構わない。


 そして、私達は目的地へと出かけた。


 


 車中で、詳しい話を聞いた。


 毎年この時期になると、志望校に合格できずに自殺してしまった受験生の霊が現れ、その年の受験生を惑わせようとするらしい。


 しかも、いくら除霊しても、どこからともなく集まってくるので、毎年恒例になってしまっているらしい。


「原因はわからないの?」


 私は江原ッチに尋ねた。


「今のところはね。どうしてその大学に集まって来るのか、不明なんだ」


「そうなんだ」


 なるほど、ミステリーね。


 


 やがて車は目的の大学に到着した。


 駐車場に、学長と事務長が待っている。


 どっちもその辺のおじいちゃんだ。何となく、品があるのはわかるけど。


「ようこそおいで下さいました、小松崎先生」


 学長が言うと、瑠希弥さんは顔を赤らめて、


「先生だなんてやめて下さい」


と恥ずかしそうだ。私なら喜んじゃうんだけど。


「すでに現れているようですね」


 瑠希弥さんの顔が真剣モードになる。


「はい。こちらです」


 私達は、二人のおじいちゃんについて行った。




 案内されたのは、試験会場になる大きな教室だ。


 収容人員は五百名。ここの他、いくつか会場が用意されるらしい。


「あそこですね」


 瑠希弥さんが、教室の一角の机を見て言った。


 そこには、ドンヨリした気を放ちながら、ブツブツ恨み言を呟く元受験生の霊が座っていた。


 どれほどショックだか知らないけど、自殺はいけないわ。


 みっちり説教してあげようかしら?


「君」


 すると、私が動くより早く、瑠希弥さんが動いた。


「何だよお?」


 その霊は、恨みがましい目で瑠希弥さんを見た。


「どうしてここにいるの?」


 瑠希弥さんは菩薩様のような微笑みで尋ねる。


 江原ッチがニヘラッとしたのがわかる。


 いや、そればかりではない。


 おじいちゃんズもヘラヘラしている。


 恐るべし、瑠希弥さん!


「だ、大学に合格するためだよ」


 元受験生の霊は、顔を赤らめて答えた。


 霊にまで影響するなんて、もう人智を超えているわ、瑠希弥さん。


「でも、貴方はもう死んでしまったの。受験はできないのよ」


「知ってるよ。でも、ここで受験すると、生き返れるんだ」


 妙な事を言う霊だ。どういう事だろう?


 おお! 瑠希弥さんのサーチ機能が全開になった。


 この霊がどうしてそんな事を言ったのか、調査中だ。


 私も試しにサーチしてみたが、途中で挫折した。


 幾重にも張り巡らされた結界のようなもののせいで、その先に進めないのだ。


「こいつは凄いね」


 江原ッチも挑戦したのか、そう言った。


 瑠希弥さんは確実に結界もどきを突破し、先へと進んでいるらしい。


 さすが!


「サヨカ会?」


 瑠希弥さんの呟きに、私と江原ッチはギョッとして顔を見合わせた。


「貴方は騙されているのよ。ここで受験しても合格はできないし、ましてや生き返る事なんてできないわ」


 瑠希弥さんが霊を諭す。霊も瑠希弥さんに真実を見せられたようだ。


「本当だ。どうしてそんな嘘を信じてしまったんだろう……」


 彼は悲しそうだ。


「わかった。ありがとう、美人のお姉さん」


 元受験生の霊は瑠希弥さんに礼を言って、天に昇って行った。


「どういたしまして」


 瑠希弥さんはニコッとした。


「まどかさん、耕司君、この教室の四方にお札が埋め込まれています。探して下さい」


 瑠希弥さんが私達を見て言った。


「はい」


 私と江原ッチは手分けして室内を隈なくサーチする。


 どこかに妙な気の流れがあるのはわかるが、あまりに微かでわからない。


 多分、瑠希弥さんがいなければ、気づく事もなかっただろう。


「ここね」


 瑠希弥さんは黒板の右側で見つけたらしい。摩利支天の真言を唱えた。


「オンマリシエイソワカ」


 ボシュッと音がして、お札が消滅したのがわかる。


「あった!」


 私と江原ッチはほぼ同時にお札を見つけて、


「オンマリシエイソワカ」


と真言を唱え、消滅させた。


 瑠希弥さんは更にもう一箇所を探り当て、消滅させた。


「相当以前に仕掛けられたようです。お心当たりはありませんか?」


 瑠希弥さんが学長に尋ねる。


「私にはわかりません。事務長は?」


 学長が事務長に無茶ぶりした。事務長は慌てている。


「私にもわかりません。ここは改修工事をした事がないですから、恐らく建設した当時でしょう。私もその頃はここにおりませんで」


 二人共、知らないのは本当のようだ。


「わかりました」


 瑠希弥さんはニコッとして言った。


 え? いいの?


 


 私達は、二人のおじいちゃんにたくさんお礼を言われ、大学を出発した。


「瑠希弥さん」


 私は気になったので訊いてみる事にした。


「どうしましたか、まどかさん?」


 瑠希弥さんは前を向いたままで言う。


「サヨカ会が絡んでいるのなら、何か手立てを……」


「心配ないですよ」


「え?」


 私ばかりでなく、江原ッチも驚く。


「あの仕掛けをしたのは、鴻池大仙です。彼はもうこの世にいませんから、大丈夫ですよ」


「そうなんです……ね」


 凄いな、瑠希弥さん。そこまでわかるなんて。


「それより、心配なのは冬子さんです」


「え? 冬子さん?」


 冬子さんは、サヨカ会の残党に独鈷を狙われていた。


 でも、その独鈷は瑠希弥さんが預かり、今は江原ッチのお父さんの雅功さんが保管しているのだ。


 冬子さんはもう、安全だと思うんだけど?


「冬子さんは、私達に危害が及ばないように嘘を吐いたのです。サヨカ会の残党の目的は独鈷ではありません。冬子さん自身なんです」


 瑠希弥さんの言葉に、私と江原ッチは衝撃を受けた。

 

 


 更に不安が高まるまどかだった。

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