新学期が始まったのよ!

 私は箕輪まどか。中学生の霊能者だ。


 楽しかった冬休みも終わり、今日から学校が始まる。


 毎日会っていた絶対彼氏の江原耕司君とも、これからは会える時間が少なくなる。


 心配だ。


 この前、小倉冬子さんが現れて、サヨカ会の残党が冬子さんが持っている独鈷を狙っていると言っていた。


 その事が心配なのではない。


 心配なのは江原ッチだ。


 江原ッチの家には、あの小松崎瑠希弥さんがいる。


 瑠希弥さんには、私は何一つ勝てる要素がない。


 その瑠希弥さんに、江原ッチは惹かれている。


 もちろん、私を裏切るつもりはないって言ってくれているけど、この前も冬子さんに、


「瑠希弥さんに力を貸して欲しい」


と言われ、江原ッチは随分喜んでいた。


 公然と瑠希弥さんに接触する事ができるからだ。


 一計を案じた私は、江原ッチのお母さんの菜摘さんに連絡した。


「わかりました。瑠希弥さんには私から話をします。耕司は近づかせませんから」


 菜摘さんの言葉に私はホッとすると同時に悪い事をしたとも思った。


「耕司は修行が足らないのです。本来であれば、瑠希弥さんの感応力を撥ね除けるのが当たり前なのです。ですから、まどかさんが気に止む事はありませんよ」


「はい」


 菜摘さんのその言葉に私はいくらか気持ちが楽になった。


「それから、くれぐれも瑠希弥さんを嫌いにならないで下さいね」


「そ、そんな事絶対にないですから」


 私はギクッとした。


 瑠希弥さんの事を嫌いにはならないが、苦手になりかけていたからだ。


 瑠希弥さんは何も悪くないのに。


 私は深く反省した。


 


 学校帰りにコンビニで待ち合わせして、江原ッチと下校デートした。


 江原ッチは、菜摘さんに強く言われたせいで、結構落ち込んでいた。


「ごめん、まどかりん。俺が中途半端なせいで、迷惑かけて」


「そんな事ないよ。私こそ、嫉妬深くてごめん」


 私は詫びる江原ッチに驚いて、詫び返した。


「でもさ、嫉妬されるって、いいよね」


 ヘラヘラしながら言う江原ッチはちょっとだけ気持ち悪い。


「それだけ、まどかりんが、俺の事を好きだって事だもんね」


「や、やだ……」


 そんな事を言われると思っていなかったので、私は思い切り恥ずかしくなった。


 ふと前を見た。するとそこには瑠希弥さんがいた。


 買い物の帰りらしい。瑠希弥さんも当然の事ながら、私達に気づいていた。


「お帰りなさい、まどかさん、耕司君」


「只今、瑠希弥さん」


 江原ッチはニヤけそうな顔を引き締めて応じた。


 何だかそれがおかしくなった。


 しかも、瑠希弥さん、只今最強モードだ。


 長い髪をポニーテールにして、可愛いエプロンを着て、エコバッグを提げている。


 江原ッチばかりでなく、道行く男性陣が皆、瑠希弥さんの魅力にやられていた。


 新婚さんみたいな雰囲気だ。


 私は思わず心配になり、江原ッチの家まで行く事にした。


 ついでに瑠希弥さんにこの前の話をした。


「そうなんですか」


 瑠希弥さんも、あの時かなり痛めつけられたので、顔が深刻になる。


 瑠希弥さん自身、あまり思い出したくないのかも知れない。


「わかりました。私がG県に来たのは、あなた達を守るように西園寺先生に言われたからです」


 瑠希弥さんは真剣な表情で私達を見た。


「ありがとうございます」


 私は嬉しくなって瑠希弥さんに言った。


「冬子さんに直接会って、お話がしたいですね。連絡先、わかりますか?」


 そう訊かれてハッとする。


 あれ? 冬子さん、携帯とか持ってるんだっけ?


 それより何より、私、連絡先知らない。


 そして更に思い出す。


 あれ、まだ有効なのかな?


 私は鞄の奥に沈み込んでいたあるアイテムを取り出した。


 オカリナ。


 ずっと以前、冬子さんに、


「私を呼びたい時に吹いて」


と渡されたものだ。


「それは?」


 瑠希弥さんが不思議そうな顔で尋ねる。江原ッチはギクッとしている。


「冬子さんに連絡を取れるアイテムです」


 私は苦笑いして、それを吹いた。


「ホントに呼べるの?」


 瑠希弥さんは半信半疑のようだ。それが当たり前の反応だろう。


「呼んだ、まどかちゃん?」


 冬子さんが現れた。瑠希弥さんは驚愕している。江原ッチは思わず私の陰に隠れた。


「冬子さん、瑠希弥さんが話をしたいそうです」


「ああ、そうなの」


 また冬子さんは笑ったらしい。


 そして、冬子さんと瑠希弥さんは、近くの公園で話をした。


「この独鈷は、貴女が持っていて。その方が安全よ」


 冬子さんが言った。瑠希弥さんは頷き、冬子さんから独鈷を受け取った。


「この独鈷は、よこしまな心を持っている者が手にすると、たちまちその者を悪の権化に変えてしまうわ。貴女なら、大丈夫」


「邪な心をねえ」


 私は思わず江原ッチを見た。江原ッチはピクンとして、


「な、何、まどかりん?」


と酷く狼狽えた。思い当たるのか、やっぱり。


「それから、これが私の携帯の番号とメルアド。登録しておいて」


 冬子さんはメモ用紙を私にくれた。


「じゃあ、またね」 


 そう言って、冬子さんはスーッといなくなってしまった。


「これをサヨカ会の残党が狙っているのね」


 瑠希弥さんが独鈷をジッと見つめる。


 また何か良からぬ事が起こるのだろうか?


 


 新学期早々、大きな問題を抱えるまどかだった。

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