小倉冬子さんが久々の登場なのよ!

 私は箕輪まどか。中学生の霊能者。


 この前、私の絶対彼氏の江原耕司君とデートの待ち合わせをしたファミレスで奇怪な事件に遭遇した。


 生霊がファミレスの従業員のお姉さんに取り憑いたのだ。


 しかも、悪い事にその生霊の正体はあのサヨカ会のメンバーだったのだ。


 嫌な予感がした。


 


 そして、たちまち年が明けた。


 思い返してみると、去年の初詣は牧野徹君と行った。


 近所の地蔵尊に行って、父親に殺された男の子の霊と出会ったんだっけ。


 遠い昔の出来事のようだ。


 今年は江原ッチと初詣。


 しかも、去年とは違う所に行く。


 江原ッチが毎年行っている神社だそうだ。


 私はウキウキしながら彼の家に行った。


 するとそこには、いつものメンバーがいた。


 機嫌が悪そうな親友の近藤明菜。


 その明菜にいろいろと話しかけて宥めている明菜の彼の美輪幸治君。


 新年早々コロッケを食べながらニヤニヤしている同級生の力丸卓司君。


 明菜が機嫌が悪いのは、呼んでもいないリッキーが来ていたからだ。


「しかたないよ、アッキーナ。力丸は、靖子ちゃんと付き合ってるんだからさ」


 美輪君は必死だ。しかし明菜はムスッとしたまま。


 明菜ったら、本当に子供なんだから。


「お待たせ、リッキー」


 靖子ちゃんが現れると、リッキーのニヤけ度が更にアップした。


「でへへ、おめでとう、靖子ちゃん。今年もよろしくね」


「うん」


 靖子ちゃんは笑顔全開で応じた。


 どうしてこんな可愛い子の交際相手が、よりによってリッキーなのか、本当に不思議。


「まどかりん、お待たせ」


 やっと江原ッチが現れた。


 みんなが顔を会わせたのは久しぶりだ。


 和やかに会話が弾むと思った時だった。


「皆さん、明けましておめでとうございます」


 そこへ小松崎瑠希弥さんが現れた。


 途端に、江原ッチも美輪君もリッキーも、私達を無視して瑠希弥さんを見る。


「明けましておめでとうございます。瑠希弥さん」


 三人のバカ男共は、練習したのかと言いたいくらい見事なハモりで挨拶した。


 また明菜の機嫌が悪くなる。


 靖子ちゃんはリッキーの腕をつねっているが、リッキーは気づかないくらい瑠希弥さんに夢中だ。


「私は菜摘先生との修行がありますので、ここで」


 瑠希弥さんは笑顔のまま家の中に行ってしまった。


 私と明菜と靖子ちゃんはホッと溜息を吐いた。


「あーあ」


 三バカ男共は大きな声で溜息を吐いた。後でお説教ね。


「ほら、早く行きましょう」


 私は江原ッチの腕をぐいと引いて歩き出す。


「あわわ、まどかりん、そんなに引っ張らないでよ」


 江原ッチは転びそうになりながら言った。


 


 私達はようやく初詣へと出かける事ができた。


 それにしても、今年こそ良い年にしたい。


 去年はいろいろあり過ぎたから。


 でもダメなんだろうな。


 作者の性格が悪過ぎるから。


 あの人、可愛い子が大嫌いみたいだし。


「この角を曲がると、鳥居が見えて来るよ」


 江原ッチが言った。


 基本的に歩くのが苦手な私とリッキーは思わずホッとした。


「まどかちゃん、久しぶりね」


 そんな声が聞こえた。江原ッチがビクッとする。


 明菜も何かトラウマを思い出したように震え出す。


「大丈夫だよ、アッキーナ。何があっても俺が君を守る」


 美輪君が明菜を優しく抱きしめる。


 あれあれ、ドサクサに紛れてっていう奴?


「冬子さん、無事だったんですね?」


 そう。あのサヨカ会との闘い以来姿を見せなかった小倉冬子さんが現れたのだ。


「ええ。今年もよろしくね、まどかちゃん」


 冬子さんは微笑んだらしい。


 相変わらず、表情に乏しいのは変わりないが、少しだけ明るくなったようだ。


 髪も肩上までで、顔を半分隠していた部分も切ったようだ。


 冬子さんは、身だしなみに気をつければ、結構綺麗な人なのだ。


 ちょっと怖いのは確かだけど。


「話があるのだけれど、その前に初詣をすませましょうか」


「はい」


 冬子さんも合流して、私達は神社で初詣をすませた。


 


 明菜と美輪君は更にこれからデートらしい。


 明菜はトラウマを乗り越えられなかったらしく、最後まで冬子さんを見なかった。


「じゃあね」


 美輪君に支えられて、明菜は去って行った。


「僕らもデートに行くので」


 リッキーが鼻の下を伸ばして言う。


「じゃあね、お兄ちゃん、まどかお姉さん」


 靖子ちゃんはニコニコしてリッキーと去って行く。


 私達は境内の端に行った。


「サヨカ会の宗主の鴻池大仙には、子供がいたらしいわ」


 冬子さんが切り出した。


 私はその話に思わず江原ッチと顔を見合わせた。


「その子供の配下が、私が持っている独鈷を狙っているらしいの」


 この前の戦いで、冬子さんは大仙が持っていた独鈷を手に入れ、封じられた自分の記憶を取り戻すはずだった。


 でも冬子さんは、私達との記憶をリセットするのを拒否して、封じられた記憶は独鈷の中なのだ。


 そればかりではない。


 その独鈷は、よこしまな奴が持つと、とんでもない武器になる。


 大仙は霊能者ではなかったが、死霊を操り、多くの人の命を奪った。


「霊能者でない者が持っても、あれほどの力を発揮できるものなら、霊能者が悪用しようとすれば、もっと大変な事になるわ」


 冬子さんは相変わらずの無表情で話す。


「蘭子お姉さん達に話した方がいいかしら?」


 私は言ってみた。すると冬子さんはゆっくりと首を横に振り、


「いいえ。蘭子さん達には言わない方がいいわ。それに連中は蘭子さん達の居場所を探しているの。私達が連絡すれば、気づかれてしまうわ」


「でも、この前、私と瑠希弥さんで山形に行きましたよ。もう知られているのではないですか?」


 私はドキドキしながら尋ねた。すると冬子さんは、


「サヨカ会の残党が動き出したのは、十二月の末。だからまだ気づいていないわ」


「そうなんですか」


「瑠希弥さんには言ってもいいですか?」


「ええ。彼女には力を貸して欲しいの。それに江原ご夫妻にも」


 冬子さんが江原ッチを見た。何故か江原ッチは顔を赤らめた。


 こいつ、女性だと見境ないのか?


「また連絡するわ、まどかちゃん」


「はい」


 冬子さんは浮遊するように歩き、去って行った。


「さてと。俺達もデートに行こうか、まどかりん」


 いつもなら、そう言われればすぐに応じた私だが、今日は違う。


「デートはまた後で。今は瑠希弥さんと話をしないと」


「あ、そうだね。瑠希弥さんと話をしないといけないよね。俺、何考えてるんだろうなあ」


 妙に嬉しそうなのが気にかかるが、まあ、いいでしょ。


 


 またいろいろと問題山積な一年になりそうなまどかだった。

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