辛い別れもあるのよ!
私は箕輪まどか。中学生の霊能者。ちなみに美少女だ。
まあ、いいわ。何も言わない。
今日は久しぶりにエロ兄貴と兄貴の彼女になったらしい里見まゆ子さんと一緒に霊視の仕事。
「お邪魔じゃないですか、まゆ子さん?」
私が車の後部座席で言うと、まゆ子さんは真っ赤になって、
「や、やだ、まどかちゃん、変な事言わないでよ」
「はーい」
私はあまりに愉快だったので、ニヤニヤしながら兄貴を見た。
「かまど、ふざけてると、降りてもらうぞ」
何故か兄貴は不機嫌だ。
この前の処分の事、まだ根に持っているのかと思ったのだが。
違った。今回の霊視の対象は、小学校の裏山で発見された白骨化した死体なのだ。
幸い、白骨死体はすでに県警に運ばれたので、私が見る事はないのだが、問題は死体の推定年齢。
十歳から十二歳。男子。埋められていた土壌の状態から、死後十五年程経っているらしい。
年齢的に兄貴と同じくらいの歳の人なのだ。
兄貴の同級生には一人、行方不明の男の子がいた。
その子は未だにどこにいるのかわからず、ご両親はまだその子の無事を信じているのだと言う。
もし、その白骨死体がその子なら、あまりに悲し過ぎる。
今回発見に至ったのは、ゲリラ豪雨で山の土砂が流失したためだった。
小学校の裏なので、補強工事がすぐに決まり、重機で掘り返していて発見されたのだ。
「その白骨死体、DNA鑑定すれば、すぐにわかるんでしょ?」
私は兄貴に訊いてみた。すると兄貴は悲しそうな顔で、
「ご両親にそんな事頼めるかよ。今でも生きているって信じてるんだぞ」
「そうだね……」
私もしんみりしてしまった。
間もなく、現場に到着した。
同じM市なのだが、学区が違うので、来た事がない小学校だ。
「あ」
学校の裏の道で、早速その子の霊を見つけた。
小学校五年生。名前は……。
涙が出て来た。名前は、
「どうした、まどか?」
急に涙を流した私を見て、兄貴とまゆ子さんが驚いている。
「まさか?」
兄貴が気づいた。そして、
「そうか。航君なのか……」
と言うと、私とまゆ子さんから離れた。兄貴、泣いてた。
「箕輪さん?」
まゆ子さんが兄貴に近づこうとしたので、
「一人にしてあげて、まゆ子さん」
私は涙を拭いながらまゆ子さんを引き止めた。
「そ、そうね」
まゆ子さんも兄貴と私の様子から何かを感じたのか、そう答えた。
私は意を決して航さんに近づく。
航さんも、私に自分の事が見えているのを気づいたようで、私を見ている。
「こんにちは。私、箕輪慶一郎の妹のまどかです」
航さんはニコッとして、
「ああ、慶君の? 知らなかったな、慶君にこんなに可愛い妹さんがいるなんて」
嬉しい事を言われて、これほど悲しくなるのは初めてだ。
航さんは、時の経過を感じていないのだ。
わかっているのは、自分が死んでいるという事。
「航さん、あのね」
私が話を切り出そうとすると、航さんは、
「わかってるよ。僕は殺されたんだ、変なオジさんに。あれから何年経つのかな?」
「十五年です」
私は涙を堪えて答えた。航さんは悲しそうに微笑んで、
「そんなに経ってたんだ……」
私は堪え切れなくなって声を上げて泣いてしまった。
「まどか!」
「まどかちゃん!」
兄貴とまゆ子さんが驚いて私に近づいた。
「慶君?」
航さんが兄貴の顔に昔の面影を見たのか、そう言った。
「はい。私の兄です」
私は何とか嗚咽を抑えて、航さんを見た。私のその言葉に兄貴が反応した。
「航君? いるのか?」
兄貴にはすぐ目の前にいる航さんが見えない。やり切れないだろうな。
「そうか、慶君、夢を叶えたんだね。警察官になったんだ」
兄貴の制服に気づいた航さんは嬉しそうに言った。私は、
「そうです。だから教えて下さい。貴方を殺したのは、誰なんですか?」
と心苦しかったが、尋ねた。
「僕を殺した人は、もう死んじゃったよ。捕まえる事はできないよ」
航さんは淡々と答えた。
「そんな……」
私は唖然とした。
「それより、慶君に伝えてほしいんだ、まどかさん」
航さんは私を見た。私も航さんを見る。
「僕のお父さんとお母さんには僕から伝えるから、慶君は何も心配しないでって」
「はい」
私はまた涙で前が見えなくなっていた。
「じゃあね」
航さんはスーッと消えてしまった。
翌日、航さんのご両親が県警を訪れ、白骨死体の引き取りを申し出た。
お二人は、涙を見せなかったらしい。
航さんに「泣かないで」と言われたのだそうだ。
犯人が捕まえられなかったのは悔しいけど、航さんとご両親がお話できたのは良かった。
今回は、泣きっぱなしのまどかだった。
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