今日は久しぶりのデートなのよ!

 私は箕輪まどか。中学生にして霊能者でもある美少女だ。


 でも、コンテストで優勝した事はない。


 ……。


 涙が出そうな事、言わせないでよ。


 


 先日は、泣いてばかりの事件だった。残念な結果だったし。


 


 そして今日は土曜日。


 絶対彼氏の江原耕司君とデートだ。


 この前はトリプルデートだったので、今日こそはと思っている。


 え? 何の事か教えろですって?


 嫌よ。教えてあげない。


「待った、まどかりん?」


 M駅前で待ち合わせ。時間通りに来た江原ッチが、爽やかな笑顔で言う。


「ぜーんぜん。私も今来たとこだよ」


 ホントは一時間も前に来て、近くのコンビニで立ち読みしてたなんて言えない。


「そうなんだ」


 そして私達は電車で隣のT市へ出かけた。


「すっかり秋だね」


 江原ッチが窓の外を見て言った。私は江原ッチを見上げて、


「そうかなあ。私と江原ッチは一年中夏だと思うけど?」


と目をキラキラさせて言ってみた。


「そ、そうかもね」


 江原ッチは私の顔が近いので、照れてるみたいだ。




 やがて電車はT駅に到着した。


 私達は西口から街に繰り出す。今日は二人で映画を見るのだ。それからお買い物も楽しむ予定。


「こっちだよ、まどかりん。俺の手を放さないでね」


 人混みの中で、江原ッチが私の手をギュッと握る。


「うん」


 その力強さにキュンとなり、返事をする。


 その時だった。


「江原ッチ!」


 私は駅前のデパートの屋上の端に立つ高校生のお姉さんを見つけて指差した。


「え?」


 江原ッチもそちらを見た。


「わわ、危ない」


 私達は慌てて駅前の交番に駆け込んだ。


「お、おまわりさん、あのデパートの屋上で、高校生のお姉さんが!」


 私と江原ッチは年配のおまわりさんを引き摺るようにして外に連れ出した。


「どこだね、お嬢さん?」


 おまわりさんは辺りを見渡しながら尋ねる。


「どこって、あそこに!」


 私は屋上を指差す。そこにはまだフラフラしたままの高校生のお姉さんが立っていた。


「どこにもおらんじゃないか。からかわんでくれ」


 おまわりさんはムッとして交番に戻ってしまった。


「ええ?」


 そして、あっと思い当たる。


「霊?」


 江原ッチが言った。私ももう一度屋上の女子高生を見た。


 確かに良く見ると向こうが透けている。


「行ってみよう、まどかりん」


「ええ」


 私達はデパートに入り、屋上を目指した。


 そこはすでにビアガーデンを取り壊している最中で、他の催し物はまだ何日か先らしく、人はほとんどいない。


 いるのは、人目を憚りたいカップルだけ。抱き合ったり、キスしたりしている。


 私と江原ッチは顔を見合わせた。


「な、何だか気まずいね、ここ」


「う、うん」


 私達は互いに顔を赤らめながら、さっき見た女子高生の霊を探した。


「いた!」


 彼女は、少しずつ移動していたらしく、屋上の角に立っていた。


「お姉さん、そんなところで何してるの?」


 私はいきなり声をかけた。霊だから驚いて落ちたりしないだろう。


「ああ? 私の事?」


 近くで見ると、結構奇麗だ。髪は長く、黒い。細身で可憐な感じの人。


 江原ッチの顔がニヤけているのが癪に障る。


「痛!」


 私は彼の腕をつねった。


「このデパートの屋上の周りを三周できると、好きな人と両思いになれるんだよ」


 お姉さんは楽しそうに言った。


 彼女は自分が死んでいる事に気づいていないようだ。


「今二周目なんだ。あと一周なの」


 私は何も言えなくなった。


 彼女は、その両思いになりたい男子を狙っている意地悪なクラスメートに騙されたのだ。


 そして、一周目の途中で転落してしまったのだ。


 しかもその女、その事を黙っていただけでなく、その男子と付き合っている。


 何て女だ! 私は怒りに震えた。


「許せないね、まどかりん」


 江原ッチが仕事人モードになりかけてる。そいつをボコるつもりだ。


 でも私は、


「江原ッチ、それは少し待って」


「え? どうして?」


 江原ッチはキョトンとした。


「じゃあさ、私達がお姉さんを応援してあげる。頑張って!」


「ありがとう。それなら、頑張れるかも!」


 お姉さんは嬉しそうに言った。私は涙が出そうなのを堪えて、


「頑張れ、お姉さん!」


「うん」


 お姉さんはフラフラしながら歩く。


 やがて二周目が終了し、ラスト一周になった。


「頑張って、お姉さん!」


「ファイト!」


 私達は本当に一生懸命彼女を応援した。


 願いが叶う事はないとわかっていたけど。


 辺りにいるカップル達は、私達を不思議そうに眺めている。


 でも気にならなかった。お姉さんの健気さに感動しているから。


 そして、彼女は最後の角を曲がる。


 あともう一息だ。


「もう少しよ、お姉さん!」


 私はまたこみ上げて来た涙を堪え、叫んだ。


 そして、とうとう彼女はゴールした。


「やったあ!」


 私と江原ッチは自分の事のように喜んだ。


「ありがとう」


 彼女は微笑んでいた。そして、


「ホントはみんなわかってたんだ。私がもう死んじゃってる事も、こんな事しても両思いになんてなれない事も」


 私は驚いた。江原ッチも仰天しているようだ。


「でも、これですっきりした。それに、あなた達のような優しい子に最後に会えて嬉しかった」


 彼女は泣いていた。私も思わずもらい泣き。


「ありがとう。もう、逝くね」


 お姉さんは光に包まれた。この世への未練が消えて、あちらの世界に行く事ができるみたいだ。


「さようなら。いつまでも仲良くね」


 お姉さんは笑顔で天に昇り、光と共に消えて行く。


「さようなら」


 私と江原ッチは手を振った。


 そしてお姉さんは消えた。


「よし、あの女をボコる!」


 江原ッチは涙を拭って言った。


「ダメ! そんな事をしたら、お姉さんの気持ちを踏みにじる事になるから!」


 私は江原ッチを引き止めた。


「でもそれじゃあ、俺の気持ちが収まらないよ、まどかりん!」


 何だか江原ッチは熱血していた。キュンとしてしまう。


「じゃあ、これで気持ちを収まらせてあげる」


 私は江原ッチの首に抱きつき、キスをした。


 ほっぺじゃないわよ! 唇によ!


 周りの雰囲気に呑まれたのかも知れない。


 でも、今日は映画を見たら、キスって決めてたから……。


「まどかりん……」


 江原ッチは真っ赤になっていた。


 多分私も負けないくらい顔が赤いだろう。


「どう? 収まった?」


「う、うん」


 何だか、違う気持ちが収まらなくなりそうな江原ッチだったが、


「今日はここまで」


と念を押してあげる。


「じゃあ、続きはいつ?」


「バカ!」


 私はまた江原ッチの腕をつねった。


「痛!」


 


 今日は急展開のまどかだった。ムフ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る