不思議な事件に遭遇したのよ!(後編)
私は箕輪まどか。中学生の美少女霊能者だ。
先日、殺されたはずの女性が実は殺人犯で、その霊体が行方不明になるという事件が起きた。
本来なら、私の尊敬する西園寺蘭子お姉様にお願いするのがいいのだが、蘭子お姉さんは忙しいみたいなので、私が解決黒頭巾する事にした。
そこ! 古いって言わないの! お父さんの持ちギャグなんだから!
最近お父さん、元気ないの。藤田さんが亡くなったせいでね。
ご冥福をお祈り致します。なむー。
そして何より、今回は状況が違う。
元々この一件は、私の絶対彼氏である江原耕司君のお父様である雅功さんが調べていたものだ。
だから私は、すぐに江原ッチに連絡を取り、彼の家にお邪魔した。
え? いい口実ができたな、ですって?
そういう事をここで言わないの! 恥ずかしいじゃない!
江原ッチの家には、初めて来た。
さすが霊能一族だけあって、建物が古風だ。
まるで武家屋敷だ。うん? 忍者屋敷かな?
どうでもいいや。
で、私は道場のような広間に通された。板の間で正座して待つのは辛いけど、隣で一緒に正座している江原ッチの手前、私だけやめる事はできない。
「お待たせして申し訳ないですね、まどかさん」
お父さんが居間に入って来た。その後ろにいる奇麗な女性が、江原ッチのお母さん?
確か、M市の駅前で占い師をしているはず。確かお名前は菜摘さんだ。
あれ? 雅功と菜摘? どこかで聞いたような組合せだけど、気のせいだろう。
私のお母さんも「剣術小町(某漫画とは関係ないわよ!)」と呼ばれた程の美人だけど、江原ッチのお母さんは、女優みたいだ。巫女姿もバッチリ似合ってる。
長い髪をポニーテールにしていて、一部マニアには
「初めまして、まどかさん。息子がお世話になっています」
お母さんは女の私がドキッとするほどの妖艶さで微笑む。
エロ兄貴がいたら、速攻で口説いてるな。
兄貴、未婚既婚の見境がないから。
「は、初めまして。こちらこそ、お世話になっています」
私はチラッと江原ッチを見て応じた。江原ッチも私をチラッと見て微笑む。
お父さんとお母さんは私達と向かい合って正座した。
「例の宗教団体の痕跡がある事件が起こったそうですね」
お父さんが切り出した。私は頷いて、
「はい。お話を聞いておりましたので、すぐに思い当たりました」
あああ。こんな堅い喋り方、きつい……。しかも足の感覚がなくなってる。
「ふむ。もうしばらく様子を見るつもりでしたが、そうもいきませんね」
お父さんは腕組みしてお母さんを見る。
「ええ。私の所に来るお客さんからも、親戚の人や友達が入信して家を出てしまったと聞きました」
お母さんが答える。お父さんは私と江原ッチを見て、
「総本山は富士の樹海に程近い場所にあります。行きますか、まどかさん?」
「はい、もちろん。このままにはしておけません」
私は江原ッチと顔を見合わせてから言った。江原ッチも、
「俺の友達の姉さんも入信して、行方不明なんだ。多分、総本山にいるんだろうけど」
「警察はどう動いているのですか?」
お母さんが私を見て尋ねる。私は、
「兄の話ですと、誘拐とは断定できない上、総本山側が行方不明者はここにはいないと答えているため、何もできない状態のようです」
「教祖は政界や財界にも顔が利くと噂されています。警察も動けないのでしょう」
こういうケースは、私達霊能者にしか解決できない。
私は燃えて来た。
「では、行きましょう」
お父さんとお母さんが立ち上がる。江原ッチもスッと立ち上がった。
しかし、私はある事情で立つ事ができない。
「どうしたの、まどかりん?」
江原ッチが不思議そうな顔で私を見る。
「あ、足が痺れて……」
私が小声で言うと、
「何だ、言ってくれればいいのに」
彼は私をヒョイと抱え上げてくれた。お姫様だっこだ。
「わ、わ!」
私は真っ赤になった。何しろ、お父さんとお母さんの前なのだ。
「申し訳なかったですね、まどかさん。ウチでは普通の事でも、他のご家庭では厳しかったですか」
お父さんがそう言ってくれたが、私は苦笑いして、
「いえ、その、何とか大丈夫です」
と強がりを言ってしまった。
そして、私達は富士山の麓にあるその宗教の総本山に行く事になった。
もちろん、空なんか飛ばないわよ。
そんな事ができる訳ないでしょ!
江原ッチのお父さんは見かけ通りのアウトドア派で、車はそれっぽい奴。
スポーティなタイプ。しかも、服装をすっかり山登りに行くようなものに着替えてる。
お母さんもそれに合わせて着替えて来た。もちろん、江原ッチも。
私だけが制服姿で、まるで家出した美少女のようだ。
え? さりげなく、「美少女」と言うところが嫌らしいですって?
うるさいわね! ほっといてよ!
「まどかりん、着替えに戻る?」
江原ッチが訊いてくれたが、
「私、そういう服持ってないから」
「では、靖子の服をお貸ししましょう」
お母さんが提案してくれた。
「あ、そうだね。靖子のなら、大丈夫だね」
江原ッチが言った。
そして、私は江原ッチの妹の靖子さんのジャージを借りた。
ピンクで可愛いんだけどね。
うーん。これなら、制服の方がいいかも……。
それから数時間後、私達の視界には、富士の樹海が見えて来た。
「あれですね」
お父さんが言う。樹海に埋もれるように、金ピカの塔が見える。
まるで異国の寺院のようだ。
「耕司、結界が張ってあります。破りますよ」
お母さんが言った。
お父さんの強さは、この前ご一緒して見ているが、お母さんは初めて。
「はあ!」
気合と共に、爆発的な勢いで気が放出され、結界が消滅した。
凄い。何だか、この二人だけで大丈夫な気がして来る。
「何人いますか、耕司?」
お母さんが江原ッチに尋ねた。江原ッチは目を瞑って辺りを探っていたが、
「五十人くらいいますね」
「え?」
そんなにいるの? やばくない?
「ではここからは徒歩です」
お父さんは車を停めて降りた。私達も降りる。
「あ」
知らないうちに忍者みたいな装束姿の一団に囲まれた。
「怪我をしたくなければ、このまま帰れ」
そいつらの一人が言った。しかしお父さんはニッと笑って、
「それはこっちのセリフです」
と言ったかと思うと、目にも留まらぬ速さで忍者もどきを倒してしまった。
「ウォーミングアップになったかな」
お父さんは私を見て微笑んだ。
「急ぎますよ」
お父さんが走り出す。お母さんが続く。
「さ、まどかりん」
江原ッチがおんぶの態勢。え?
「二人は速過ぎて追いつけないから、俺がおんぶするよ」
「そ、そう」
恥ずかしかったけど、私は江原ッチの背中に飛びついた。
「あ」
江原ッチが顔を赤らめる。
「どうしたの?」
「あ、うん、まどかりんのその……」
口篭る江原ッチ。
「何でもない!」
そう言って、彼は駆け出した。私を背負っているのに、相当な速さだ。
江原一族は、どちらかと言うと修験者系の霊能者らしい。
先に進んで行くと、何人もの敵が倒れていた。
「お父さん達、仕事早いわね」
「うん。早いのが取り柄」
「岡本信人?」
私のボケに、江原ッチは気づかず、
「誰、それ?」
と言った。やっぱりお父さんのギャグは古過ぎるようだ。
そしてようやく総本山の建物であるあの金ピカ寺院に辿り着いた。
お父さんとお母さんは、すでに門番を倒し、中へと進んだみたいだ。
「もう大丈夫よ、降ろして、江原ッチ」
「う、うん」
何故か前かがみの江原ッチ。どうしたのかしら?
「まどかりん、あのさ、ジャージの下、何も着てないの?」
江原ッチが赤くなって訊いて来た。
「ああ!」
私はドキッとした。ジャージは私の部屋着兼パジャマの場合がある。
横着な私は、家に帰ると締め付けるものを全部外してしまう。
今回もその癖が出てしまった。
今の私は
「ご、ごめん」
何故か謝り、寺院の中へと駆け出す江原ッチ。
「江原ッチ……」
そうか。私の「巨乳」が江原ッチに当たっていたのね。
可愛いんだから、江原ッチったら。
え? 誰が「巨乳」だって? うるさいわね、ホントに!
私はジャージのファスナーを一番上まで上げて、襟を折り返し、江原ッチを追いかけた。
寺院を奥へと進むと、巨大な祭壇の前で、醜い顔で、体重が「トン」で表示した方がいいのではないかと思うくらいの巨体の男が、お父さんとお母さんに追い詰められていた。そいつは、金ピカの袈裟を着ていて、キモさを倍増している。ほとんど妖怪だ。
「さあ、もうあなた一人ですよ。観念しなさい」
お父さんが決めゼリフを言った。するとその妖怪モドキは、
「私はお前ら如きにやられはせぬ。食らえ!」
と叫ぶと、口から何か出した。白い塊だ。
ちょっと!
食事中の人が読んでたらどうするのよ、と言いたくなったが、どうやらそういうモノではないらしい。
「あいつが練り上げた
お父さんとお母さんが教祖から離れた。
教祖の口から出て来た霊体は、巨大化し、鎌倉の南大門にある金剛力士像のような姿になった。
「我らを襲撃した報いを受けよ!」
教祖はそのキモい顔を更にキモくして笑った。オエエ。吐きそう。
「ほうおおお!」
金剛力士像モドキは、手に持った槍のようなものを振り回した。
「く!」
お父さんもお母さんも反撃ができず、防戦一方だ。
「我らの尊さを知れ、愚か者共め!」
教祖が叫ぶ。すでに目が逝ってしまってる。
「まどかりん、俺が気を分けてあげるから、大黒天真言を使って!」
「わかった!」
江原ッチは赤くなりながらも私の肩に両手を置いた。私は江原ッチから受け取った気を感じながら、
「オンマカキャラヤソワカ!」
私の気と江原ッチの気が融合し、ラブラブパワーも加わった超強力な大黒天真言が炸裂した。
多分、蘭子お姉さんのそれを上回ったと思う。
「ぐはああ!」
金剛力士像モドキは消し飛び、その後ろにいた教祖も祭壇まで飛ばされて気を失った。
「やった!」
私は思わず江原ッチと抱き合った。あ、しまった、私、「ノーブラ」!
「ま、まどかりん、当たっている……」
江原ッチが鼻血を吹き出してしまった。
「江原ッチ!」
こうして、私達は、「魂消失事件」の黒幕を倒し、事件は解決した。
教祖は元はある寺の住職だったが、ふとしたきっかけで邪教に手を染めてしまい、人の魂を吸い取ってそれを化け物に変えていたらしい。
死んでしまった人達は生き返れないけど、奴に捕まっていた人達は助け出せた。
「私達も常に自分を律していかないとね」
お父さんの言葉は重みがあった。
私達もいつあの教祖のような状態になってもおかしくないのだ。
気をつけないと。
いつになく、シリアスに終わるまどかだった。
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