またあいつがしゃしゃり出て来たのよ!
私は箕輪まどか。日本で一番の美少女だ。そして、霊能者でもある。
ふう。
毎回、私のプロフィールがエスカレートしてるんですけど?
そのうち、「宇宙一」とか言わされそうで怖い。
私は今、とっても幸せだ。
何故なら、イケメンの彼ができたから。
もしかすると付き合っていたかも知れない牧野君とは違って、ちょっぴりおバカだけど。
そこがいいのよねえ。
うるさいわね、「メロメロだな、おい」とか、オヤジみたいな事言わないでよ!
苗字は「江原」で、私と同じ関係の人のような気がする。
でも、名前が「耕司」なので、思いっ切り芸人つながりの気もしてしまう。
取り敢えず、親友の近藤明菜にだけは、紹介した。
「いいなあ、まどかは。彼の友達を紹介してよ」
いきなり明菜に懇願されてしまった。
「いいけどさあ」
こういう事で優越感に浸ったのは、生まれて初めてかも知れない。
「お願いよ、まどか」
明菜は何故かかなり本気モードだ。
私に本格的な彼ができて、焦っているのだろうか?
「箕輪」
力丸ミートの跡継ぎである卓司君が声をかけて来た。
「なあに、リッキー?」
ご機嫌な私は、これ以上はできないというくらいの笑顔で応じる。
「お前、男ができたのか?」
まるで父親のようなセリフだ。しかも男って……。
「私に彼ができると、いけないの?」
「え、いや、そんな事は……」
リッキーが私の事を好きなのは知ってる。
でも、恋愛は同情でしてはいけないのだ。
同情するなら、コロッケを買ってあげた方が彼のためだ。
「リッキー、ごめんね」
それでも私は、以前助けられた恩を忘れるほど酷い女ではない。
「貴女には、私の彼の妹を紹介してあげる」
「え、ほ、ホント?」
リッキーは満面の笑みで訊いて来る。うーん。そこは一つ、
「俺は箕輪が好きなんだ!」
と言って欲しかったと思う私は、悪魔だろうか?
そんなこんなで、明菜とリッキーの願いを聞き入れ、私は江原ッチの学校へと向かった。
「世紀の美男美女カップル誕生」
とか騒がれそうな組合せなのだ。江原ッチの中学校では、私は大人気なのだ。
え? 正確な情報が伝わっていない? うるさいわね!
お! 噂をすれば、江原ッチだわ。待ち切れなくて、私に会いに来たのね。
やっぱり可愛いわ。牧野君とは大違い。
「ああ、まどかりん」
笑顔で手を振りながら、私に近づいて来る。
「江原ッチ」
まだ手を繋いだだけだけど、心は通じ合っている。
そのまま、近所の公園でデート。
私は早速、明菜とリッキーの願いを江原ッチに話した。
「ふうん。俺の親友でいいなら、紹介するよ」
「ありがとう、江原ッチ」
私は笑顔全開でお礼を言った。
「妹の方は、あいつの都合もあるだろうから、ちょっと待ってね」
「うん、いいよ」
私達は、周囲を気にしながらも手を繋いだ。
「あ、あのさ」
江原ッチが急に立ち止まって私を見下ろす。
二人は身長差が二十センチ。
もしかして、ファーストキス? ドキドキ。
「俺、まどかりんに隠していた事があるんだ」
「え?」
よもやの二股告白? やめてー!
でも違うようだ。江原ッチは私をジッと見ている。
何だか恥ずかしくなった。
「な、何? 早く言ってよ」
「お、俺さ、その、笑われるかも知れないけど……」
「何?」
言葉に詰まる江原ッチを促す。江原ッチはまた私をジッと見る。
「幽霊が見えるんだ」
「え?」
おおお。まさかの告白。これはちょっと良かったかも知れない。
「俺の死んだ祖父ちゃんが夢に出て来て、『隣町の箕輪まどかさんと付き合いなさい』って言ったんだ」
「ええ?」
私はその意外な展開にビックリした。
「だから、いきなり手紙をまどかりんの家まで持って行ったんだ。間違えちゃったけど」
照れ臭そうに笑う江原ッチ。
「ウチは、霊能者一家なんだ。親父はテレビ出捲りの、バリバリの退魔師だし、お袋はM市の駅前で占いやってるし」
「そうなんだ」
私の家より凄い。私の家は、霊感あるのは私だけ。
「驚いたろ? 嫌いになった?」
「嫌いになんてならないよ」
私がそう言うと、江原ッチは本当に嬉しそうな顔をして、
「良かったあ」
私は気になった事を訊いてみた。
「貴方のお祖父さんは、どうして私と付き合うように言ったの?」
「それはわからないんだ。でも、祖父ちゃんも凄い霊能者だったから、その言葉を信じた」
江原ッチは、真っ直ぐな人だ。惚れ直しちゃう。
「その理由、何となくわかる気がする」
私は意を決して言った。江原ッチはキョトンとした。
「どういう事?」
「私も霊が見えるの」
「え?」
江原ッチは驚いたようだ。そして、
「あ、いや、まどかりん、別に俺に合わせてそんな事言わなくてもいいんだよ」
と言い出した。
「私がウソを吐いてると思ってるの?」
「あ、その、そういうつもりはないけど……」
私は肩を竦めて、
「百聞は一見にしかず、ね」
「え?」
またキョトンとする江原ッチの手を握り、公園を進む。そして、大きな池の畔(ほとり)に来た。
「池の真ん中に、女の人がいるでしょ?」
「え?」
江原ッチは、ようやく私が本当の事を言っているのに気づいたようだ。
「ほ、本当に見えるのか、まどかりん」
「うん」
もしかすると、引かれてしまうかも知れないと危惧したが、それは取越苦労だった。
「良かった。祖父ちゃんの言葉を信じて、正解だった」
江原ッチは、これで完全に私の彼になった気がした。
その後、江原ッチの妹の靖子さんに連絡し、彼女に彼がいない事を確認した上で、リッキーの事を告げた。
すると驚いた事に靖子さんはリッキーの事を知っており、友達からならOKという話になった。
何もかもうまく行くと思った時だった。
「あーら、箕輪さん。デート?」
あの綾小路さやかが、元彼である牧野君と現れたのだ。牧野君は、居た堪れないような顔で俯いた。
「誰?」
江原ッチが小声で尋ねる。
「同級生よ。綾小路さやかさんと、牧野徹君」
「初めまして」
それぞれが会釈した。するとさやかが、
「牧野君は、箕輪さんと小学校時代に付き合っていたのよね」
ととんでもない事を言い出す。私はムッとしたが、
「へえ。奇遇だね。元彼とこんなところで会うなんて」
江原ッチは気にしていないようだ。ホッとした。
「それじゃあ、ご機嫌よう」
どこの貴族だ、というような事を言って、さやかは牧野君と立ち去った。
「何だい、あの女? まどかりんに敵意剥き出しでさ」
江原ッチも感じたみたいだ。さやかの奴、江原ッチが霊能者だってわからなかったようだ。
「私、あいつに牧野君との仲を裂かれたの」
言ってしまってから、私はハッとして江原ッチを見上げる。
「でも、だから俺とまどかりんは出会えたんだよ」
キザなセリフをサラッと言ってのける江原ッチ。カッコいい。
「そうね」
以前の私なら、すぐに突っ込んでいただろうが、今の私はそんな事はしない。
でも不安だ。
さやかは牧野君と付き合えればいいはずなのに、また私に敵意を持っているなんて、どういう事?
油断ができないまどかだった。
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