超悪霊をやっつけるのよ!
私は箕輪まどか。中学一年生の超美少女にして、霊能者だ。
先日、殺人を楽しんでいる悪霊に逃げられてしまい、とても悔しい思いをした。
でも、相手は霊。捕まえたところで逮捕もできないし、裁判にかけて刑務所に送る事もできない。
どうする事もできないのだ。
しかし、私は何としても、あのムカつく悪霊をぶちのめしたかった。
人の命を何だと思っているんだ!
え? お前にそんな正義感があるとは思わなかった?
失礼ね。私は正義感の塊よ!
誰、今、「脂肪の塊」って言ったのは!?
私の抜群のプロポーションを見てから言って欲しいわ。
え? スリーサイズ? そんな事、教えられないわよ。
セクハラで訴えるわよ!
そんな事で、私は一人部活として、悪霊探しを始めた。
奴の気はこの前感じたので、付近に現れればすぐに探知する自信はある。
でも全く現れる様子がない。
考えてみれば、あいつがまた現れるなんて保証はないのだ。
さらに悔しくなった。
「あーあ」
何かヒントはないかと思い、エロ兄貴に連絡した。
「小遣いならあげないぞ」
私からの連絡だと、必ずその言葉を言う。多分、この兄貴はバカなんだと思う。
「違うよ、お兄ちゃん。この前の悪霊の事件なんだけどさ」
「ああ、お前が犯人を取り逃がした事件か?」
相変わらず酷い事を言う。その前に冬子さんから守ってあげたのを忘れているの?
「その事件の資料、見せてもらえないかな?」
「鑑識にあるから、勝手に見ろ。話は通しておくよ」
「ありがと、お兄ちゃん。大好きよ」
お世辞で言ったのがわかったのか、何のリアクションもなく通話が切れた。
私は早速県警本部に向かった。
蘭子お姉さんのように、真言で高速移動ができるといいんだけど、私にはまだ無理。
県警本部は家から自転車で十五分。それほど遠くないので助かった。
「よう、まどかちゃん。兄貴は出かけてるぞ」
鑑識の最古参である宮川さんが言った。鑑識の制服を着ていなければ、百パーセントヲタクだ。
「知ってます。今日は兄貴に会いに来たんじゃないです」
「じゃあ、オジさんに会いに来たの?」
う。この人、そういう人だったのを忘れてた。
警察関係者はそういう人が多いのだろうか?(*あくまで個人的な意見です)
「あはは、さよなら~」
私は宮川さんから逃げ出した。
そして資料室を探し当てて中に入った。
「いらっしゃい、まどかちゃん」
そこには私のお姉さん候補ナンバーワンの、里見まゆ子さんがいた。
「こんにちは。まゆ子さんがいてくれて、助かりました」
「え? どうして?」
私はドアを閉じながら、
「宮川さんに会ったんですよ」
「ああ」
まゆ子さんも、宮川さんがそういう人なのを知っているようだ。
「はい、これがあの事件の捜査資料よ。何を探すの?」
まゆ子さんはニコニコして、手伝う気満々だ。
「何って、具体的に何かある訳じゃないんですけど」
「そうなの」
まゆ子さんはガッカリしたようだ。でも本当なんだから仕方がない。
「取り敢えず、見せて下さい。何か感じられれば……」
「わかったわ」
一度見た捜査資料。そこから何かわかるとは思えなかった。
しかし、あいつの気を間近で感じて、あいつの考えている事が少しだけわかったような気がするのだ。
気がするだけなんだけど。
いくら何でも、本当に誰でも良かったとは思えないのだ。
「あれ?」
ふと手を止める。
「何かわかった?」
別の資料を見ていたまゆ子さんが顔を上げる。
「まゆ子さん、これ」
私は二人の被害者の資料を指し示した。
「どっちの人も、もうすぐ結婚する予定でした」
「え?」
まゆ子さんの顔が引きつる。「結婚」はNGワードなの?
私、まゆ子さんに殺されちゃう?
「それは誰も気にしていなかったわね。凄いわ、まどかちゃん。さすがね」
「えへへ」
私はすっかり嬉しくなり、他の被害者の資料も調べてみた。
恐ろしくなった。本当に全員が、男女問わず結婚間近だったのだ。
「そんな事が、殺害動機だって言うの!?」
あの温厚なまゆ子さんが大声を出した。
やっぱり「結婚」はNGワードのようだ。以後気をつけよう。
でも確かに酷い。人の幸せを妬むにも程がある。
これであいつの動機はわかった。となれば、罠も仕掛けようがある。
「ねえ、もう一つ共通項があったわ。式場が同じ系列の会社なのよ」
まゆ子さんが震える声で言った。
ムフフ。これで罠を仕掛ける場所も決まった。
「な、何、まどかちゃん?」
私はニヤリとしてまゆ子さんを見た。
まゆ子さんはその私の目に何か恐ろしいものを感じたようだった。
「何で俺がこんな事をしなくちゃならないんだ?」
さっきから助手席のエロ兄貴がうるさい。五月の蝿より鬱陶しい。
「す、すみません、私のせいで……」
運転席のまゆ子さんが申し訳なさそうに言う。
私の作戦は、ずばり、「あつあつカップルを演出して、悪霊を呼び出そう」作戦である。
要するに、兄貴とまゆ子さんにカップルになってもらい、式場に行ってもらうのだ。
そうすれば、あの悪霊が現れるという段取り。
「お兄ちゃんだって嬉しいくせに」
私は後部座席でニヤニヤして言った。すると兄貴は、
「黙れ、かまど!」
とかなりおかんむりである。
「こんな子供でも引っかからないような罠、成功するのか?」
「やってみなければわからないじゃん」
私はちょっとだけムッとして言い返した。すると顔が赤いまゆ子さんが、
「そ、そうですよ。やってみなければわかりませんよ」
「けっ」
兄貴はまゆ子さんにそう言われて、仕方なさそうに黙り込んだ。
間もなく車は式場に到着し、私は車の中で悪霊の登場を待つ事にした。
「ホントに現れた時、お前間違いなく助けてくれるんだろうな?」
ビビりの兄貴が念を押す。
「もちろん。それは心配しないで」
私には秘策があったのだ。
「行きましょう」
すっかり恋人気分のまゆ子さんは、グイグイと兄貴を引っ張って行った。
ついでにこのまま結婚しちゃえばいいのに、なんて思ってしまった。
「え?」
私はあの気配を感じた。
(嘘? もう現れたの?)
奴の居場所を探る。
「え?」
奴は外にいた。あれ、これはどういう事?
気を探って見つけたのは、奴ではなく、おっさんだった。
「あんた、誰!?」
いきなり背後から怒鳴る。おっさんはビクッとしたが、
「おお。お前か、箕輪まどか。久しぶりだな」
といかにも知り合いのような口ぶりで話しかけて来た。
「ごめん、マジで知らないんすけど?」
私の本気の謝罪におっさんはショックを受けていた。
「何だと!? この私を忘れたというのか?」
「うん」
更に止めを刺す私。基本的にオヤジには容赦がない。
「私は陰陽師の安倍利明だ」
名前を言われても、知らないものは知らない。
「全くわからない」
「……」
おっさんは項垂れていたが、
「ならば、知らずに死ね!」
と言うと、あの悪霊を呼び出した。
「あんたが黒幕なの、おっさん?」
「おっさんじゃない! 私はまだ三十一歳だ!」
おっさんは何故か誇らしそうに言った。
「十分おっさんよ!」
中学生の女子にとって、三十代はおっさんである。これは仕方がない。常識だ。
「抜かせ!」
おっさんは激怒したようだ。悪霊が私に向かって来た。
もっと苦戦するかと思ったんだけど、案外簡単に終わりそうだ。
そこ、拍子抜けとか言わないでよ。先に釘刺しとくからね。
「インダラヤソワカ!」
私は帝釈天の真言を唱え、悪霊に雷撃を見舞った。
しかし、悪霊はそれを難なくかわし、更に私に接近した。
「この前の礼をさせてもらうぞ、箕輪まどか!」
おっさんは私が覚えていないと主張しているにも関わらず、まだしつこく言っている。
変態なのだろうか?
「インダラヤソワカ!」
私はもう一度雷撃を放つ。しかし悪霊はそれをかわしてしまう。
「グアオーッ!」
悪霊は雄叫びを上げて、私に突っ込んで来た。
「待ってたわよ、この外道!」
私は制服の下からお札を出した。
この前、蘭子お姉さんからもらった強力なお祓いのお札である。
「フグオーッ!」
悪霊はお札の放つ力でもがき苦しみ始めた。
やがて悪霊は粉々に砕けて霧状になり、消滅した。
「な、何と!」
おっさんは仰天している。私はツカツカとおっさんに近づき、
「ようやく思い出したわ。はい、これあげる」
とカエルを渡した。
「ぎええええっ!」
おっさんはまさしくカエルのような声を発して、そのまま仰向けに倒れてしまった。
こうして、あの事件の犯人は呆気なく倒れた。
おっさんは、ライバルの会社に依頼され、その式場に訪れるカップルの片方を悪霊に襲わせていた。
何故二人共襲わなかったのかと言うと、その理由が怖い。
愛する者が命を落とす事によって、残された者が出す「負のオーラ」が悪霊を活性化させるのだと言う。
何て恐ろしい事を考えるのか?
どうやらおっさんは、ライバル会社の要望以上に、自分の野望を達成するために動いていたようだ。
ライバル会社の重役達を事情聴取したところ、人を殺せとは頼んでいないと言ったそうだ。
怖がらせて帰らせるように頼んだと言う。
おっさんはその状況を悪用し、罪のない人達をたくさん殺し、悪霊を育て、自分の野望を叶えようとしていたのだ。
そんな奴のバカげた望みのために命を失った人達があまりにも可哀想で、私は泣いた。
そして同時に祈った。
迷わず、天国に行けるようにと。
でも重役達も酷い。
人が殺されたのはニュースで知っていたはずなのに、警察に届けなかったのは、許せる事ではない。
彼等は我が身可愛さに口を噤んでいた。
きっと彼等は地獄に堕ちる。そう思った。
いつになくシリアスな話になったので、いつになくセンチメンタルなまどかだった。
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