生活指導室に初めて入ったのよ!
私は箕輪まどか。超絶美少女にして、最強の霊能者。更に成績優秀な、スーパー中学生である。
言ってて、自分で恥ずかしいわ。いつの間にそんなに大袈裟なプロフィールになったのよ?
最近は、学校生活には何も支障がない。
あの犬猿の仲だった綾小路さやかも、私が牧野君を諦めたというウチのエロ兄貴の誤情報によって、すっかり大人しくなり、私に仕掛けてくる事はない。
次第に私は、周囲から怖がられる存在から、好かれる存在に変貌しつつあった。
うう。難しい言葉で話すと、舌噛みそう。
こんな可愛い女の子が、好かれないはずがないのだ。
え? そういう事は、自分で言わないのが普通ですって?
うるさいわね。余計なお世話よ!
「箕輪、ちょっといいか?」
「は?」
私は廊下を歩いていて、突然生活指導担当の藤本先生に声をかけられた。
四十代の体育の先生で、女子達の間では「セクハラエロ教師」で有名だ。
それにしても、スカートの丈は短くしてないし、髪も校則違反じゃないのに。
やっぱり、セクハラ目的? 私が可愛過ぎるから?
「話があるんだ。中に入ってくれ」
私は、普段決して足を踏み入れる事がない生活指導室に招き入れられた。
「な、何でしょうか?」
背中を見せると危険だと思い、すぐに藤本先生を見る。
「まあ、座ってくれ。話は長くなると思うから」
「はい」
私は言われるがままにパイプ椅子に座った。
藤本先生はいつもと違い、テンションが低い。どうしたのだろう?
それが作戦? 騙されないわよ、エロ先生!
「そんなに緊張しなくていいよ。別にお前を咎めるために呼び止めたんじゃないから」
藤本先生は、力なく微笑み、私の前にパイプ椅子を持って来て座った。
「はい?」
私はますますわからなくなった。それにしても、ちょっと顔が近いんすけど。
ああ、先生の顔がでかいだけか。どこかで聞いたギャグとか言わないでよ。
「実は、ここ何日か、死んだ女房が学校の行き帰りに現れるんだ」
「え?」
そっちの話? 何だ、驚かさないでよ。
「お前、幽霊が見えるんだろ? 女房に理由を聞いて欲しいんだ。どうして急に出て来るようになったのか」
「はあ」
私は先生の後ろに、奥さんの霊がいるのに気づいた。不意に現れたのだ。
「今聞いてもいいですか?」
私の言葉に、先生はギクッとした。
「い、いるのか、ここに?」
先生は、酷く慌てたように周囲を見始める。
「奥さんが亡くなったのは、もう十年前なんですね」
「そんな事もわかるのか?」
藤本先生は驚いて目を見開いた。私を誰だと思ってるのよ、先生?
「もちろんです。そして、どうして奥さんが現れたのかもわかりました」
私は奥さんの霊から先生に視線を移して言った。
「お、俺をまだ怨んでいるのか?」
先生がそう言ったのには理由がある。
奥さんは十年前、交通事故で亡くなっている。
出先で車が故障した藤本先生が、迎えに来てくれるように頼み、そこへ向かう途中での事故だ。
確かにその時、先生は奥さんのご両親に随分と罵られた。
先生は何も言い返さなかった。
そして、奥さんのご両親は、そのまま先生との関係を絶ち、今日まで行き来がないままなのだ。
藤本先生と奥さんには子供がいなかったため、連絡さえもなくなった。
「奥さんは先生を怨んでなんかいませんよ。ご両親との関係が途絶えているのを悲しんでます」
「……!」
藤本先生の顔色が変わった。
「でも、何で今更……。十年も途絶えたままなのに……」
「わかりませんか、先生? 十年経てば、人は老いるんですよ」
私は奥さんの思いをそのまま先生に伝えた。
「ご両親が、奥さんの弟さんとの同居を弟さんの奥さんに拒まれて、困っているんです。助けて欲しいと言ってます」
「……」
あの藤本先生が泣いている。デジカメで撮りたいくらいだが、私もそれほどバカではない。
「会いに行ってあげて下さい」
私はそう言い残すと、生活指導室を出た。
我ながらいい事をしたと思う。心が満足感で溢れた。
そして翌日、
「箕輪まどかは藤本と付き合っている」
という、とんでもないデマが飛びかったのは、本当にムカついた。
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