部活を見に行ったのよ!

 私は箕輪まどか。


 登校拒否一歩手前だ。


 え? お前はそんな繊細な奴じゃないって?


 酷いわ。


 いつもなら激怒するのに、今日は泣いてしまう。


 それほど私は、あの偽物のセレブ女の綾小路さやかに意地悪をされていた。


 陰湿さでは、小公女を上回るかも知れない。


 明るい美少女が、暗い美少女になってしまう。


「ふう」


 私は一人ベランダで溜息を吐いた。


「どうしたの、まどか? 元気ないね」


 親友の近藤明菜が声をかけてくれた。


「ああ、アッキーナ。私、くじけそうよ」


 私は本当に参っていたので、弱気な事を言った。


「綾小路さんの事?」


「ええ」


 明菜は腕組みして、


「あいつ、本当に頭良いわよね。貴女に酷い事を言わずに、他の生徒達に貴女が幽霊を操れるって陰口言ってるんだから。これじゃ、先生に言っても取り合ってもらえないわ」


「うん……」


 わかってくれているのは、彼女と肉屋のリッキーだけ。


 頼みの綱のはずの牧野君は、完全にさやかの虜だし。


「気晴らしに、部活の見学に行かない? まだ入部決めてないんでしょ?」


 明菜が誘ってくれた。


「わかった」


 本当は気乗りしなかったけど、明菜の心遣いに感謝して、行ってみる事にした。


「あ、俺も」


 何故かリッキーもついて来る。相変わらず、コロッケを食べながらね。


 


 明菜が連れて来てくれたのは、体育館。


 そこでは、体操部やバスケ部、卓球部が新入生に練習風景を見学させていた。


「あ、危ない!」


 声がした。ハッとして見ると、悪霊に操られたバスケットボールが、明菜に向かっていた。


「インダラヤソワカ!」


 私はすかさず帝釈天の真言を唱え、ボールを弾き飛ばした。


「きゃあああ!」


 その周辺にいた皆が、その衝撃に驚いて逃げ出した。


「やめてよ、箕輪さん! 幽霊を使って人を驚かすのは!」


 その中には、さやかがいた。こいつ、自分で仕掛けておいて!


 ムカついたが、証拠がない。


「箕輪じゃないよ。箕輪はアッキーナを助けたんだ。変な事言うなよ、綾小路」


 リッキーがコロッケを食べながら反論してくれた。


 嬉しいわ、リッキー。後でコロッケ買いに行くからね。


「そうよ、綾小路さん。まどかに変な噂を流してるの、貴女でしょ? やめなさいよ」


 明菜もガツンと言ってくれた。


「みんな、見た? この二人、箕輪さんに操られているのよ!」


 さやかは怯えたフリをして叫んだ。


 こいつ、どこまで嫌な女なのよ?


 しかも、体育館の一同はすでにさやかの術中で、私を化け物を見るような目で見ている。


「え?」


 操られたみんなは、バスケットボールやピンポン玉を持ち、私を睨んでいる。


「な、何するの?」


「やっつけて!」


 さやかの号令で、一斉にボールが私目掛けて飛んで来た。


「危ない、箕輪!」


 リッキーが命より大事なはずのコロッケを投げ出し、私を庇った。


「うう……」


 リッキーにボールが当たり、彼は倒れてしまった。


「綾小路、あんたねええ!」


 私は怒りを爆発させ、


「オンマリシエイソワカ!」


と摩利支天の真言を唱え、さやかの術を消し飛ばした。


 操られていたみんなはキョトンとして互いを見ている。


「く!」


 さやかは悔しそうな顔をして逃げた。


「リッキー!」


 私は倒れたリッキーに駆け寄った。明菜も駆けて来た。


「大丈夫?」


「うん。良かったよ、箕輪が無事で」


「リッキー」


 私は思わず彼を抱きしめた。


「わ、わ、箕輪、恥ずかしいよ、やめてくれよ」


 リッキーは顔を真っ赤にして言った。


「ありがとう、リッキー」


 いつも素直じゃない私が、久しぶりに素直に言ったお礼だった。


 え? やっと素直じゃないのを自覚したのかって?


 うるさいわね!


 こうして、みんなに本当は綾小路さやかの陰謀だと気づいてもらえた。


「まどかさん、さやかさんをいじめないでよ」


 それでも牧野君だけは操られたままだ。


 でもいいや。今はリッキーがいる。


 私はリッキーにウィンクした。


 またリッキーは真っ赤になった。


 可愛い。本当にありがとね、リッキー。


 愛してはいないけど、好きよ。ウフ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る