何故かエロ兄貴が活躍したのよ!

 私は箕輪まどか。超美少女にして、優れた霊能者だ。


 今日は学校はお休み。それにしてもムカつく。


 結局、あの意地悪な同級生である綾小路さやかのせいで、部活の見学もできず、入部の申し込みもできないいままだ。


 ただ、私が悪い子でないのはわかってもらえたんだけど、霊感があるのもはっきりしたので、怖がられているのに変わりはない。


 ま、今までと違って、小学校からの同級生達は普通に接してくれるのでホッとしたけど。


 牧野君(もしかすると元彼だったかも知れない男子)は未だに操られたまま。


 そして、騒ぎの当事者として職員室に呼び出されて、こってり説教された。


 何故かさやかの奴は呼ばれず、私だけが叱られたのだ。


 え? 自業自得? うるさいわね、余計なこと言わないでよ!


 ところで、自業自得って何?


 さやかが難を逃れたのは、あいつの母親がPTAの会長で、校長先生と知り合いだかららしい。


 証拠がないから、文句も言えないけど。




 私は気だるい状態で起き出し、遅めの朝食を採ろうと階段を降りた。


「おはよう、箕輪」


「へ?」


 何故か玄関に肉屋のリッキーがいた。


「わ、な、何よ!?」


 私は慌ててキッチンに逃げ込んだ。パジャマ姿を見られたからだ。


 どうして中にいたの? 今日はみんなお出かけで、鍵がかかっていたはずなのに!


「何であんたがそこにいるのよ、リッキー!?」


 私は顔だけ覗かせて尋ねた。リッキーはヘラヘラ笑って、


「玄関が開いてたからだよ」


 うわ。あのバカ兄貴、また鍵閉め忘れたな!


 可愛い妹が、暴漢に襲われたらどうするのよ?


「と、とにかく、居間にいて。着替えて来るから」


「うん。お邪魔しまーす」


 それにしても、勝手にドアを開けて入って来るなんて、リッキーも図々しいわね。


 私は彼が居間に入るのを確認し、階段を駆け上がった。


「それにしても、何しに来たのかな?」


 私は着替えながら、リッキーの訪問の目的を考えた。


 まさか、デートのお誘い? 


 私は付き合うつもりはないけど、この前誤解を招く事をしてしまったからなあ。


 一度くらいは、いいか。嫌いではないし。


「お待たせ。ところで、何の用?」


 私は居間に入るなりそう言った。するとリッキーは、ニヤリとしてかけていたソファから立ち上がり、


「まあまあ、慌てないで。取り敢えず、座りなよ、箕輪」


「?」


 何だ、こいつ? 様子が変だぞ。警戒しないと。


 私はリッキーを見たままで、向かいのソファに座った。


 何故かリッキーは立ったままだ。


「箕輪に伝えたい事があるんだ」


「何?」


 私はギクッとして尋ねた。リッキーはいきなり私に近づき、


「ずっと好きだったんだ! キスさせろよ!」


「えーっ!?」

 

 もの凄い力で、私はソファに押し倒された。リッキーは体重を利用して私の動きを封じる。


「うーん」


 唇をタコのように突き出し、リッキーが顔を近づける。


「やめて、リッキー! 貴方とはそんな関係にはなれない!」


「関係ないね」


 急にリッキーの顔つきが変わった。もしかして!?


「貴方、操られているのね?」


 でも全く表情が変わらない。さやかめ!


「オンマリシエイソワカ!」


 摩利支天真言を唱えた。


「わあああ!」


 リッキーに取り憑いていた悪霊が消滅し、リッキーは気を失った。


「ぐえええ」


 私はリッキーの身体に押し潰されそうになった。このまま死んだら、もの凄く恥ずかしい!


「おいおい、まどか。こんな時間から、お盛んだな」


 何故かバカ兄貴が居間に入って来て言った。


「バカ言ってないで、こいつどかしてよ!」


「仕方がない」


 兄貴は肩を竦めてリッキーを私の上からどけた。


「何があったんだ?」


 いつもと違い、兄貴が真剣な表情で尋ねる。


 私は気を失ったままの哀れなリッキーを見て、


「ちょっとね」


と理由を説明した。




「なるほど。それは少しやり過ぎだな、その子」


 兄貴は深刻な表情で言った。


「わかった。お兄さんに任せなさい。見事に解決してみせよう」


「はあ?」


 兄貴がおかしくなった。ホントにそう思ってしまった。




 その後、リッキーは目を覚ました。何故私の家にいるのかわからないらしい。


 心優しい私は、あの悪夢のような出来事をリッキーには話さず、彼を送り出した。


 それより心配なのは兄貴だ。一体何をするつもりなのだろう?


 しばらくして兄貴が帰って来たが、何も教えてくれず、


「学校に行けばわかるさ」


とだけ言った。


 


 そして月曜日。


 私は不安な思いを抱きつつ、学校に行った。


「おはよう、箕輪さん」


 さやかがにこやかな笑顔で私に近づいて来た。


「お、おはよう。何か用?」


 警戒心MAXで尋ねる。するとさやかは、


「あらあ、そんなに睨まないでよお。今までごめんなさいね」


「え?」


 私はまだ何か企んでるのかと思い、さやかから離れた。


「知らなかったのよ、貴女が妹さんだって」


「???」


 謎の言葉。何なのよ?




 そして謎が解けた。


 私の兄貴が、さやかのお姉さんと大学の同級生だったのだ。


 あのエロ兄貴、どこまで女性関係を拡大して行くんだ?


 まゆ子さんはどうなるのよ?


 お姉さんはもう結婚して子供までいるらしいのだが、兄貴の事を覚えていて、


「慶君の妹さんと仲良くね」


と言われたのだそうだ。二人はちょっとだけ付き合っていたらしい。


 兄貴はエロだが、別れ際は鮮やかで、今まで付き合っていた女性に怨まれた事はない。


 もちろん、勝手に恋人気取りだった「冬子さん」は別だ。


「その代わり、牧野君の事を諦めてくれたんですってね。ホッとしたわ」


 さやかはそう言うと、自分の教室に歩いて行った。


 ええええ!? あのバカ兄貴、勝手にそんな事を交換条件にしてえ!


 まあ、いいわ。牧野君はもう過去の男だし。



 

 あれ? 涙が止まらない。ううう……。

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