牧野君のご両親にご挨拶? そんな大袈裟な事じゃないわよ!
私は箕輪まどか。小学六年生。
多分、四月が来ても、作者の都合で進学しないと思う。
世の中には、小学生でないとダメな人もいるとエロ兄貴が言っていた。
どういう意味なのだろう? 今度ネットで調べてみよう。
そんな訳で……。そこ、どんな訳でとかつまらない突っ込み入れないでよ!
上辺だけ付き合っている牧野君が、私を家に呼んでくれた。
初詣以来、全く学校以外では会ってくれなかったので、ホッとしていたのに。
うん? 日本語が変? 動揺しているのかって? そ、そんな事ないわよ。
牧野君の家は、実はお医者様なのだ。
お父さんは外科医、お母さんは内科医。
更に牧野君のお兄さんは、私のエロ兄貴と小中と同級生で、女の子の人気を二分していたらしい。
そのお兄さんは、現在ある大学病院の研修医をしているのだ。
もしかして、私、玉の輿? やったあ!
でも、玉の輿って何?
などと妄想を繰り広げているうちに、牧野君の家の前に着いた。
でかい。私の家の十倍くらいある。
恐らくお父さんの年収も、ウチのお父さんの十倍くらいあるだろう。
ここにお嫁に来れば、私は親孝行な娘として、箕輪家の歴史に名を刻む事だろう。
「いらっしゃい、まどかちゃん」
そう言って出迎えてくれた牧野君は、顔を引きつらせていた。
どうやら、私はニヤニヤしていたらしい。
「ご招待ありがとう、マッキー」
私はこれ以上はできないというくらいの作り笑いをした。
今日はいつもより短めのスカートに、胸の谷間を強調したVネックのセーターを着ているのだ。
これで牧野君はメロメロで、私の将来はウハウハよ。
「まどかちゃん、そんなに首と足が出ている服装で、寒くない?」
牧野君には、私の勝負服が通じていなかった。まだまだ子供ね。
私は広い玄関を通り抜け、ある部屋に通された。
あら? 何、ここ? 一見診察室にも見えるんだけど?
「いらっしゃい、まどかさん」
白衣を着た男の人が言った。
「僕の父だよ、まどかちゃん」
牧野君が教えてくれた。乳? ああ、お父さんね。ビックリした。
「息子から貴女の症状は聞いています。私の専門は外科ですが、徹のお友達で、しかもお付き合いをしている貴女が、そんな病気に
「はい?」
何の事? 病気? 私、病気なの? えええ?
「いつから幽霊が見えるようになったのですか?」
牧野パパはいたって真面目な顔で尋ねる。そういう事か。
「今も見えていますよ、貴方の後ろに、お婆さんの霊が」
私は冗談でそう言ったのだが、牧野パパは真っ青になった。
「うわああああ! 許して、許して、母さん! 僕が悪かったよおお」
パパはいきなり椅子から床に飛び、土下座した。
「パパ、どうしたの?」
牧野君が驚いてパパに駆け寄った。
「どうしても抜けられなかったんだ、大事な手術で……。ごめんよおおお」
パパは遂に涙を流し出した。うわ、ちょっとまずかったかな。
私は牧野パパがどうしてこんなに怯えているのか、探ってみた。
パパは、大学病院で外科手術をしていた。
ちょうどその時、パパのお母さん、つまり牧野君のお婆ちゃんが発作を起こして、家で倒れた。
パパはそれを知らされたけど、手術中だったので、抜けられなかった。
手術が終わり、家に連絡すると、お母さんは息を引き取った後だった。
牧野パパはそれが元でずっとお母さんの幻に責められているようだ。
でも、本当のお母さんは、全然パパを怨んでいない。
むしろ、立派な息子だと誇りに思っている。
よし、それなら、本人から話してもらって、誤解を解こう。
私はそう思い、部屋の明かりを消した。
「うわあああ!」
今度はパパだけでなく、牧野君まで怯えだした。
うるさい男共ね。
私は霊界から、牧野君のお婆ちゃんの霊を呼び出した。
「義則」
お婆ちゃんの霊が、パパに語りかけた。
「お、お母さん?」
パパは涙に滲む目でお婆ちゃんを見た。
「そうだよ。お前、何を勘違いしてるんだい。私はお前を怨んだりしていないよ」
「え?」
おばあちゃんはニッコリして、
「お前の事は、立派な医者だと思っているよ。患者を救ってこその医療だよ。私が助からなかったのは、お前のせいじゃない。天命さ」
「お母さん……」
お婆ちゃんの霊は微笑んだまま、
「いつも見守っているよ」
と言うと、霊界に帰って行った。
パパだけでなく、牧野君も、私も、泣いていた。
牧野パパは、お母さんを助けられなかったという思いから、霊の存在を完全に否定していた。
だから、私の話を牧野君から聞き、私を治療しようと思ったようだ。
「貴女を助けようと思ったのに、私が助けられてしまった。長い間、ずっと心の中で
パパは笑顔で礼を言ってくれた。
「これからも、徹と仲良くして下さい」
「は、はい」
やった! 玉の輿!
などと思ってはいけない。
今日はそんな嫌らしい事を考えてはいけないのだ。
それでは、あの関西のおばさんと同じだ。
私は清々しい思いで、牧野君の家を出た。
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