お正月は初詣に行くのよ!
私は箕輪まどか。
間違っても「ハリセン○ン」ではない事は、ここで改めて言っておきたい。
ウチのエロ兄貴からの情報によると、憧れの蘭子お姉さんとあの下品な関西弁のおばさんが、同じ温泉旅館にいたそうなのだ。
そこでも幽霊騒ぎがあったらしく、除霊完了後にみんなで宴会で盛り上がったらしい。
でも何故かエロ兄貴のテンションは低かった。
どうやら、関西のパワーに負けてしまい、全く蘭子お姉さんと話ができなかったようだ。
神様はいる。そう確信したエピソードだ。
正義は必ず勝つとも言う。
只、一つだけ心配なのは、エロ兄貴に片思いの里見まゆ子さん。
私が陰ながら応援している、とってもいい人なのだが、蘭子お姉さんからの情報によると、お酒が入ったせいなのか、蘭子お姉さんに「宣戦布告」をしたらしい。
でも、次の日、それを全く覚えていなかったのだとか。
蘭子お姉さんは、エロ兄貴には全然興味がないそうなので、まゆ子さんに教えてあげないとね。
あ、それから、私が余計な事をまゆ子さんに話したのを蘭子お姉さんにやんわりと叱られた。
失敗だ。まさか、まゆ子さんが喋るとは思わなかったもんなァ。
さて。前フリはそれくらいでと。
私は今、仕方なく付き合っている牧野徹君と初詣に出かけていた。
初詣話はもう古い? 今日は成人の日ですって?
うるさいわね。作者がトロイんだから、仕方ないでしょ!
そんな事で、私達は近所にある厄除地蔵があるお寺に行った。
もちろん、お参りをすませたら、そのままデートに行くんだから。
えっ? 仕方なく付き合っているにしては、嬉しそう?
そ、そ、そんな事ないわよ。牧野君は私と付き合えて光栄だって言ってるんだから!
「お賽銭は、五円でいいのよ」
私が言った。すると無学な牧野君は、
「ええ、そんな少しじゃ、神様に願い事聞いてもらえないよ、まどかちゃん」
ちなみに、私達がお参りしているのは厄除地蔵尊で、神様ではない。
牧野君は、学校の成績は私より上だけど、こういう知識は皆無に近いくらいの勉強小僧なのよね。
「いいのよ、マッキー。ご縁がありますようにっていう意味があるの」
「へーっ、そうなんだ。まどかちゃんは、いろいろな事を知ってるね。同級生とは思えないよ」
「えへへ」
などと笑ってみせたが、実は私はお小遣いが少ないので、ケチっただけなのだ。
私達は楽しくお参りをすませ、いよいよ今日のメインイベントに突入しようとしていた。
「あ」
ところがだ。こんなタイミングで、私の特殊能力が発動してしまった。
ターンエンドにしたいくらいだ。
(見えちゃってる……)
私は、地蔵尊から出たところで、お年玉のポチ袋をたくさん抱えた小学校低学年くらいの男の子の霊を見つけてしまった。
「あーあ」
私は無意識のうちにそう言ってしまったらしい。
「ど、どうしたの、まどかちゃん? ぼ、僕、何かいけない事した?」
怯えまくる牧野君。
「もう、そんなとこに何でいるのよ?」
私は鬱陶しさ丸出しで、その霊に話しかけた。何故か慌てふためく牧野君。
「貴方の事じゃないのよ、マッキー」
私はできる限りの笑顔で牧野君に言った。
「姉ちゃん、僕が見えるのか?」
よく見ると、何か時代遅れな感じの子だ。
表現しにくいのだが、要するに「昭和の香り」がする子なのだ。
「こんなとこじゃ話ができないわ。向こうで話そう」
「ああ」
私は、そのふてぶてしい態度の霊を伴い、地蔵尊の裏の竹薮に行った。
牧野君は、泣き出しそうな顔で、
「待ってよ、まどかちゃーん。悪いところは治すから、置いて行かないでー」
とついて来た。
「私に何か用なの?」
「別に姉ちゃんに用があった訳じゃない。僕は、父ちゃんを待ってるんだ」
「父ちゃん?」
この子の事がわかった。この子は、昔ここに父親とお参りに来て、そのまま迷子になり、何が原因かよくわからないが、死んでしまったようだ。
「父ちゃんはもうここには来ないよ」
私は非情な現実を突きつけた。霊にはこれが一番効く。
「そんな事ないよ。父ちゃんは僕がいなくなったから、探しているんだ。絶対来る」
その子の執念が、少し澱んでいる。
いけない。あまりここにいると、悪霊になってしまうかも。
私はもう一度その子の事を探ってみた。
この子はどうして死んでしまったのだろう?
「あ」
私は泣いていた。知らないうちに、両方の目からポロポロと涙をこぼしていた。
あまりにも酷い事を知ってしまったので。
この子は、今から二十年以上前、この地蔵尊に父親と来て、その帰り道に父親に首を絞められて殺されたのだ。
あまりの事に、私は泣いてしまっていた。
この子は何も覚えていない。
そして、そんな事を思い出させる必要もない。
遺体は、竹薮の中に埋められている。
そっちはお兄ちゃんに任せよう。私はこの子を助ける。
「どうしたんだよ、姉ちゃん? 何泣いてるのさ?」
「うるさいわね。ついて来なさい。父ちゃんに会わせてあげるから」
「ホントか?」
その子は目を輝かせて、私の後をついて来た。
牧野君はすでに置いてきぼり状態だったが。
私はもう一度地蔵尊の境内に入った。
「さ、ここよ。ここに父ちゃんがいるでしょ?」
私はその子を伴って、お堂の前に来た。そして、
「オンカカカビサンマエイソワカ」
と地蔵真言を唱えた。
「ああ」
男の子の霊が、光に包まれ始めた。お地蔵様の慈悲の光だ。
「姉ちゃん、ありがとう。父ちゃんが来たよ」
「うん」
私はまた泣いていた。その子の家族は、皆同じ日に亡くなっていた。
無理心中という、何ともやり切れない事件だった。
お地蔵様が、そんな悲劇の家族を、ここで会わせてくれた。
男の子の霊は、お父さんと、そして兄弟と、お母さんの霊に会えて、嬉しそうだ。
「今度生まれる時は、きっと幸せになるんだよ」
私はその家族が天に登って行く姿をずっと見上げていた。
そして、ふと気づくと、牧野君もいなくなっていた。
ああ。何て事だ……。
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