やっぱり私が最強なのよ!
私は西園寺蘭子。霊能者です。
以前、ある事件で仲良くなった(と私は思っているのですが)箕輪まどかちゃんからメールがありました。
前にお仕置きをして鳴りをひそめてた陰陽道の人達が、再び動き出したらしいのです。
しかも今回はまどかちゃんの小学校にお札を貼り、生徒を怖がらせていたのだとか。
この前、私の親友である八木麗華にコテンパンにやられたはずなのに、懲りていないようです。
まどかちゃんは小学校で落ち合いましょうと書いていました。
私も彼女のお兄さんは苦手なので、その方がいいと思い、承諾しました。
まどかちゃんのメールには、追伸として、
「あの関西弁のおばさんには連絡しないで下さい」
と書かれていました。
それは無理でした。そのメールを開いた時、麗華は私の後ろでしっかりそれを読んでしまいましたので。
ああ。憂鬱です。
私と麗華がまどかちゃんの小学校に着いたのは、ちょうど授業が終わる頃でした。
「やっぱ田舎だけあって、辛気臭いのう、建物が。生徒のレベルに合わせとるんかな?」
麗華は大口を開けて笑いながら酷い事を言います。
「げ」
まどかちゃんは私の車に気づいて駆けて来たのですが、麗華に気づいて立ち止まりました。
そして恨めしそうな顔で私を見ました。
「ごめん、まどかちゃん。メールを開いた時、麗華もそばにいたのよ」
「そうですか」
まどかちゃんは怒ってはいないが、がっかりしているようです。
「おい、子供、ようもウチの事、関西のおばはん呼ばわりしてくれたな」
麗華が早速噛み付きました。しかしまどかちゃんも負けてません。
「あーら、それなら、関西の金食い虫の方が良かったですか?」
「むむむ……」
麗華も心当たりがあるのか、何も言い返せません。
「お兄ちゃんは今月金欠なので、デートできないそうですよ」
「……」
麗華は打ちのめされたのか、項垂れています。
「と、とにかく、現場に案内して、まどかちゃん」
「はい」
事前に何も伝えていないので、先生方に拒否されるかと思ったのですが、校長先生も教頭先生もニコニコして出迎えてくれました。
「ようこそいらして下さいました、西園寺先生」
校長先生達も、まどかちゃんから私の事しか聞いていないらしく、麗華を私の付き人だと思ったようです。
「こら、おっさん、ウチも大阪じゃ有名な霊能者や。蘭子の付き人とちゃうで!」
麗華がそう言い放つと、先生方は彼女をその筋の方と勘違いして、逃げてしまいました。
「麗華、脅かしてどうするのよ」
「ウチはホンマの事ゆうただけや」
本当に仕方のない子です。睡眠薬でも飲ませておいてくれば良かったです。
まどかちゃんは呆れ顔で私と麗華を問題のトイレに案内しました。
何故かギャラリーが増え、私達の後をたくさんの男の子がついて来ます。
まどかちゃんて人気があるのね、と思いました。
「ここです」
現場は二階の男子トイレです。
「一番奥の個室にお札が貼られていました」
まどかちゃんは入りにくそうにしています。
男の子がたくさん見ているのに、男子トイレに入るのは恥ずかしいですよね。
「ほお、そうか」
麗華は恥ずかしいという感情を売ってしまったのでしょうか、ズカズカと中に入りました。
「蘭子、来てみい」
「え?」
私も少し躊躇いながら、足を踏み入れました。
「あ」
「どや、あいつらやろ?」
「そうね」
微かにですが、あの時感じたのと同じ波動が残っていました。
「逆探知できる、麗華?」
「難しいけど、やってみるわ」
麗華は九字を切り、印を結びました。
「よし、これでええ。後は待つだけや」
麗華は大股でトイレを出て行きました。私は頭痛がしそうなのを堪えて、トイレを出ました。
「どうでした、蘭子お姉さん?」
まどかちゃんが尋ねて来ました。
「あの時の陰陽師ね。同じ人の波動が残ってたわ」
「そうですか」
麗華は男の子達に囲まれています。
「うおお、巨乳だ!」
麗華の服装は小学校に来ていい格好ではないのに改めて気づきました。
胸が半分くらい見えているのです。恥ずかしい。
「す、すげえ。クラスの女子共とは大違いだ」
こんなものなのですね、小学生の男子って。
「ガハハ、どうや、お姉さんの乳。もっと見たいか?」
麗華は悪乗りしています。あら?
まどかちゃん、男子の一人の子の耳を引っ張って怒っています。
彼のようですね。羨ましいわ。
「お」
男の子達の今にも食いつきそうな勢いを押し留めて、麗華はトイレの中に戻りました。
「蘭子、わかったでえ。けっこう近くや。行こか」
「ええ」
私はまとわり着く男の子達を振り払うようにして、麗華と階段を駆け下りました。
「待って、蘭子お姉さん!」
まどかちゃんが続きます。
「お姉さん、また来てねええ!」
男の子達の熱烈な見送りに、麗華は投げキスをして答えています。
「行くわよ、麗華」
「はいはい」
私達三人は、陰陽師がいる場所へと向かいました。
「ええもんやな、年下も」
麗華はゲラゲラ笑いながら言いました。
「犯罪よ、麗華」
「アホ、今すぐっちゅう話やないわい」
麗華はドスンとシートにもたれました。
「どこなんですか?」
まどかちゃんが興味津々の顔で尋ねます。
「お前にはよう教えん、子供」
麗華は意地悪な笑みを浮かべて言いました。
「貴女に聞いてませんよーだ」
まどかちゃんも負けていません。
「着いたわよ」
「ええ?」
そう、敵さんは、小学校のすぐ近くにいたのです。
「何や、ここは。インチキ臭い神社やな」
麗華の真言でやっつけたので、すっかり組織が小さくなってしまったようです。
「まあええ、さっさと片付けて、夜は慶君とデートや」
麗華はとんでもない事を言って車を降りると、神社の境内に走りました。
「麗華、迂闊よ!」
いくら貧相な神社だとしても、敵の本拠に何の備えもなく飛び込むのは無謀です。
「ひーっ!」
麗華の情けない声が聞こえました。私とまどかちゃんはすぐさま境内に向かいました。
「麗華!」
すると境内の奥から、大きな白蛇を肩にかけた白装束姿の男が現れました。麗華は男に蛇を突きつけられ、後ずさりしています。
「お前達を待っていたよ。私の組織を潰してくれた礼をしたくてね」
男は憎らしい顔で言いました。
「ら、蘭子、ウチ、蛇だけは苦手やねん。助けてえな」
聞いた事がないような弱気な麗華の声。これは大変です。
「私もダメ。爬虫類全般、無理なの」
多分、私は麗華以上に情けない声を出していたと思います。
「わっはっは、どうだ、我が祭神白蛇様の力は。ひれ伏すがいい!」
男は天下でも取ったかのように強がりました。
万事休すかと覚悟しました。
「まあ、可愛い。私、蛇大好き。ねえ、持たせてよ、おじさん」
まどかちゃん! す、凄い。尊敬してしまいます。
すでに私と麗華は固まったように動けなくなっているのですが。
「お、おう」
おじさんは、一番若いまどかちゃんが全然驚いていないので、すっかり計算が狂ったようです。
「お礼にこれあげる、おじさん」
まどかちゃんは、男にカエルを渡しました。
「ひええええええ!」
男はカエルを手に載せられ、絶叫と共に失神してしまいました。
あ、私はカエルもダメです。すみません、限界です。
私も気絶してしまいました。
しばらくして、私は境内の隅で目を覚ましました。
まどかちゃんと麗華が、呉越同舟で小学校からシートを借りて来てくれて、私はその上に寝ていました。大失態です。
「ありがとう、二人共」
「お、おう」
麗華は相変わらず照れ臭そうです。
「どういたしまして。蘭子お姉さんにはお世話になってますから」
まどかちゃんの方が大人の対応です。
「ごめんなさい、カエルも苦手だって知らなくて」
まどかちゃんはおもちゃのカエルを持っていたようです。
「いいのよ。それより、私、おもちゃでもダメなの」
「ああ、ごめんなさい」
まどかちゃんは動かしていたおもちゃをスカートのポケットにしまいました。
「ひひひ、蘭子の弱点見つけたで。今度試そうかな」
麗華は嬉しそうです。
「麗華、もしそんな事したら、絶交よ」
「冗談や、冗談。本気にせんといてえな」
麗華は私が本気で怒ると怖いのはよく知っているので、すぐに謝りました。
「それにしても、まどかちゃん、凄いわ。蛇もカエルも怖くないのね」
私が感心して言うと、
「はい。私はこの世に怖いものはありません」
まどかちゃんは胸を張って答えました。
「これでお兄ちゃんに取り憑いた悪い霊も追い払えます」
彼女は意味ありげに麗華をチラッと見てから言いました。
「ええ、慶君に悪霊が? それならウチが払ったるで。もちろん、タダでな」
何も知らない麗華が嬉しそうに口を挟みました。
貴女がその悪霊なのよ、麗華。
とは、可哀相で言えません。
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