奇怪な殺人事件が起こったのよ!

 私は箕輪まどか。小学校六年生。美少女霊能者だ。


 実は、あのエロ兄貴が最近帰って来ない。


 心配している訳ではないが、忙しいらしい。


 私の住むG県では、猟奇殺人事件が連続して起こっており、大騒ぎだ。


 狙われているのは、小学生。


 それも可愛い子ばかり。


「その点、お前は心配無用だ」


とエロ兄貴に言われた。


 悔しいけど、全く狙われている様子がない。


 私は霊視で捜査に協力しているが、残念な事に犠牲者の子達は皆犯人の顔を見ていない。


 霊になってからも、その正体がわからないと言うのだ。


 これは謎だった。


 普通、いくら顔を隠そうとも、殺された人には犯人がわかる。


 私が霊視して解決に導いた事件も数知れない。


 今回は特殊だった。


 もしかすると、犯人は霊能者かも知れない。


 そうなると、解決は難しかった。


 県警のおじさん達は現金で、私が霊視しても犯人がわからないと知るとたちまちお払い箱にされた。


 お兄ちゃんは言いにくそうに私にその事を告げた。


「これからどうするのよ? 相手は霊能者かも知れないのよ」


「仕方ないよ。上の方針なんだから」


 そしてエロ兄貴は言った。


「蘭子さんなら解決できるかも知れない」


 酷い。一番酷い言葉だ。実の兄とは思えない。


 でもそうかも知れない。蘭子お姉さんなら、犯人に迫れるかも。


「そうすれば、今度こそ蘭子さんと……」


 エロ兄貴は、捜査の事ではなく、蘭子お姉さんとのアバンチュールを妄想しているだけだった。


 私はこのままでは殺された子達に申し訳ないと思い、もう一度彼女達と話してみる事にした。


 捜査は関係ない。


 これは、人の命の問題なのだ。もちろん、私のプライドの問題でもあるが。


 でも私は今井美樹のファンではない。




 その夜、私は家の地下に造ってもらった祭壇に行き、殺された子の霊を呼び出した。


 まずは、I第一小の桂香織ちゃん。私と同じ六年生だ。写真で見る限りでは、私に勝るとも劣らない美少女だ。


「犯人の顔がわからないのは何故なの?」


 私は神妙な顔で尋ねた。この使い方であってるかな?


「顔がないの。だからわからないのよ」


「顔がない? 他に特徴はないの?」


「身長は二メートルくらいあったわ。凄く大きい人だった」


「二メートル?」


 犯人は何者だ? でか過ぎる。でも、これは参考になる。


「ありがとう。他になにか知ってる事はない?」


「あとは、須坂さんが何か知ってるって言ってたわ」


「須坂月美さん?」


 その子は確か、T第三小の子だ。その子も私に迫るような美少女である。


 早速須坂月美ちゃんを呼び出してみた。


「何か知ってる事があるの?」


 私は月美ちゃんに尋ねた。彼女は長い髪を指にからませながら、


「その人ね、多分人じゃないわ」


「え? 人じゃない?」


「そう。何ていうかなあ、怨念?」


「おんねん? 関西弁?」


「違うわよ。恨みよ。人間の恨みが人の姿になったのかな」


 月美ちゃんも、私には及ばないが、霊感があったらしい。


「そうでなければ、私は殺されたりしないわ。とにかく、いきなり現れたんだから」


 だんだんわかって来た。相手が人でないとなると、お兄ちゃん達がいくら頑張っても無理だ。


「ありがとう。私が必ず犯人を捕まえるわ」


「頑張ってね、まどかちゃん」


 私は地下室を出て、お父さんのパソコンルーム(別名エロビデオ鑑賞部屋)に行った。


 まずは殺された子達に共通点がないか調べた。


 さすがに私と同クラスの美少女達だ。


 様々なコンテストや発表会に出て賞を取っている。


 しかし、不思議と重なる子がいない。


 共通点なし? 見当違いの事をしていたの?


 ブラウザを閉じようとした時、私はある事に気づいた。


 違う。共通する事があった。


 私は危うく見落としそうだったのだ。


 彼女達の共通点ではなく、参加者。


 そう、彼女達が参加したコンテストや発表会にいつも名前があった子。


 宮野 羊子ようこ


 どのコンテストでも、殺された子に負けて、準優勝だ。


 私は寒気がした。もし、私の推理通りなら、とんでもない事件だから。




 私はお兄ちゃんに連絡をとり、その事を話した。


 お兄ちゃんもさすがに信じてくれない。あまりにも信じられない事だから。


 私は決断した。そして、宮野さんのいるS村に行く事にした。




 次の日。土曜にこんな憂鬱な事をしたくないが、香織ちゃんや月美ちゃんに約束したのだから、今更引き下がれない。


 私は、バスを乗り継ぎ、S村に行った。


 この前、蘭子お姉さんと行った村よりは開けているが、私が住んでいるM市よりはずっと田舎だ。


 宮野さんの家は、地元では有名で、すぐにわかった。


「どちら様ですか?」


 驚いた事に、メイドがいた。私はニッコリ笑って、


「箕輪まどかと言います。学校新聞の編集長をしていまして、羊子さんの取材をさせていただこうと思いまして」


「お待ち下さい」


 断られるかと思ったが、以外にもすんなり家に入れてくれた。


 とんでもないお金持ちのようだ。庭に池があり、錦鯉がたくさん泳いでいる。


「こちらへどうぞ」


 私は応接間に通された。この部屋だけで私の部屋の三倍くらいある。


「ようこそ、箕輪さん」


 羊子さんが現れた。確かに可愛い。もちろん、私の敵ではないが。


「学校新聞の取材だなんて、嘘をつかなくてもよろしくてよ」


「え?」


 見抜かれてる。まずいかも。羊子さんはニッと笑って、


「貴女もお仲間に入れて差し上げましょうか?」


「何ですって!?」


 彼女の背後に、巨大な影が現れた。どうやら殺人鬼の本体のようだ。


 いや、本体は羊子さんか。


「やっておしまい」


 羊子さんの顔が変わった。まるで鬼だ。影がスッと私に接近した。


「オンマリシエイソワカ!」


 摩利支天の真言で退ける。


「さすが、霊感少女ね」


「貴女は、自分の欲望を満たすためだけに、こんな事をしているの?」


「それの何が悪いのよ!」


 羊子さんの怒りが増幅し、影が膨張した。


「全部悪いわよ!」


 私は影を私の気で跳ね返した。そして、


「インダラヤソワカ!」


 帝釈天の真言を唱え、影を滅した。


「きゃああ!」


 羊子さんはその影響で倒れた。




 その後、羊子さんからいろいろと話を聞いた。


 彼女は霊感があるらしい。そして、最初は怖がらせるつもりで始めたのだという。


 そのうちに彼女自身が自分の怨念に取り込まれ、逆に操られていたのだ。


 真相を全て知り、彼女は泣き伏してしまった。


 私はいたたまれなくなり、彼女の家を出た。


 彼女は殺人を犯した。でも、罪には問えない。


 それでも彼女は自分のした事を背負っていかなければならない。


 どうしてこんな事に。




 私は後味の悪さに、バカ作者神村律子を恨んだ。

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