二の森学園監禁部!
@mayamayamaaya
○○しないと出れない部屋(ネタバレになるだろ?)
眠りという長い意識の断絶を抜けると、白の部屋であった。意識の全てが白くなった。隣で少女が眠っていた。
きょろきょろと首を振ってみたが部屋の大きさも、現実も変わらない。おおよそ十メートル四方の床面積に高さもそのくらいだろうか。出口のような場所も一箇所しかない。
んんっ、と隣から聞こえた身じろぎに僕は視線を投げた。同じ学校の制服に身を包んでいる。
黒く、長い髪が床に広がり、死んだように眠る少女は雪細工のうさぎみたいにいつの間にか消えそうな希薄さだ。
「……大丈夫、ですか?」
念のため、首筋で脈を取る。耳を近づけ、呼吸音を確認。
生きている。
ほっと一息ついて、離れようとすると少女の目が開く。
「へ……」
「へ?」
「変態っ!」
バッタのように飛んで距離を取る少女。清楚そうな見た目と裏腹に意外とアクティブな性格なのかもしれない。けれど、この空間だ。逃げようとしてもすぐに行き止まりになってしまう。敢えて距離を詰めないでいると部屋の隅っこから声が飛ぶ。
「い、い、今、私にいやらしいことをするつもりだったでしょ! 私には分かるわ! 貴方、今私にいやらしいことをするつもりだったでしょ!」
どうやら、思い込みは激しいらしい。
「ぴんぽんぱんぽん! おはようございます、二の森学園監禁部です。相田翔太さん、福宮郁さん。ようこそ、ピーしないと出れない部屋へ!」
「ルールは簡単。この部屋からは何かをしないと出ることができず、お二人にはその何かを推理していただき実際にしていただくことになります。ヒントは三十分に一度、質問を受け付けます。イエスかノーで答えられるものをお願いします。それでは第一問お願いします」
適当ぶっこいた口頭アナウンスが部屋に響く。二の森学園は、通っている学校でもある。けれど、監禁部というのは実際に聞いたこともなければ、その物騒さに薄ら寒いものを感じざるを得ない。
「ちょっと待ちなさい! いきなり何なのよ! 説明しなさいよ!」
「……それは二人でないとできないことですか?」
「ちょっと貴方何勝手な!」
「ふむ、この場では、いい質問ですね。答えはイエス。この部屋から出るには二人で何かをしないといけません。それでは三十分後、また会いましょー!」
「あっ、ちょっと待ちなさいふざけんな! こんな……こんな、こんなことして許されると思ってんのー!」
なんでこちらをちらちらと見るんですかね?
「えーっと、とりあえず協力しましょう」
「なっ、なんで貴方なんかと協力しないといけないんですか! というか、大切な質問のひとつを勝手に消費しないでください!」
「えー……」
その物言いに些か以上の理不尽さを感じずにはいられなかったが、それを口に出してしまうとかなり面倒事になるだろう。黙っておいた。
「これからは私がっ! 私がっ! 私がっ! 質問を考えますから!」
「はあ、まあ、よろしくお願いします?」
「何ですか! そのやる気のなさは!」
「えー……?」
恐ろしいほどの理不尽さを噛み締めながら、とりあえず頷いておく。しらーっと、疑わしい感じに横目が飛んできたが、無視。
「さあ、相田翔太! 貴方は私が変なことをしないようにしっかりと見張っておきなさい!」
「えー……」
何度目かの理不尽を感じつつ、
「返事はっ!?」
「さーいえすさー!」
適当に返事をぶっこいておいた。
んで、三十分後。
「さあ、第二問よ。それは、お互いの肉体接触が必要なものかしら?」
「いい質問ですね」
完全にドヤ顔で質問をぶつける福宮さん。二人でやって、肉体接触が必要ならば、随分としぼり込める。
「答えはイエス。二人の肉体接触は必須です」
ぶつっ、と通信が切れてまたぽつんと取り残され――
「さて、色々と試してみましょう?」
「はい? えっ、ちょっと、いや、待って何か目が怖いです」
とりあえず、全身触られた。
「ふむふむ、いい顔をしているわね」
「あっ、ちょっと腕の筋肉が硬い……」
「胸! 胸! きょ、胸筋!」
「うわゎゎわ、脚、細い……しっかりしている……」
「ふへ、ふへへへへ、ぐふふふふふへへへへへ」
「…………」
一連の台詞が一体誰のものか、敢えてここでは明記しないことにした。
一応、まあ、彼女の名誉のために。あっ、言っちゃった。
続いて、三十分後。
「ぴんぽんぱんぽーん、今回は質問はなし。代わりに補給のお時間だよ!」
「というか、これもう完全に緊張感ないな」
二人して固まっていた部屋の隅っこの、ちょうど反対方向。陽気な、緊張感を根こそぎ奪うアナウンスに従って確認してみればドデカイ、ホールのショートケーキが置かれていた。
「なにこれ」
「さあ? 食べてってことじゃない?」
「というかヒントの方が欲しいんだけど?」
「まあまあ食べましょ食べましょ」
「えー……」
当然、ご丁寧なことに用意されているのはケーキだけなので手づかみで食べることになるんだけど。
「んー、味としてはそこそこかしら?」
いや、躊躇なく素手で行くなよ。イメージが崩れるじゃないか。
「…………」
「どうかした? 貴方もちゃんと食べないと大きくなれないわよ?」
「おかんか」
「だ、だ、誰が貴方の面倒を見てあげてるって!?」
「いや、そこまで言ってない」
「誰が貴方に『はい、あーん』をしてあげるって!?」
「そこまでいくともう完全にボケになってるから!」
まあ、実際、お腹が空いてくる頃なのは間違いなかったので同じく手づかみでケーキを食べた。
「……普通」
「私の方がもっとうまく作れるわ」
「本当にこれ、何なんでしょうね」
「定番のイベントがそろそろ来るでしょうから、そこからが勝負ね」
「ああ、トイレ」
「ちょっ! いきなりそんな下ネタやめてちょうだい!」
「いや、こっちの方がむしろ先に……」
「な、ならいいけど」
「いいんだ……」
「あら、ほっぺにクリームついてるわよ?」
ペロリ、と舌が頬を撫でる。
「ほがっ!? い、いきなり――」
「ぴんぽんぱんぱーん! おめでとうございます! クリア! クリアでございまーす!」
またもや不謹慎……いや、ギャグ時空だから違うか、陽気なアナウンスと共にクリア報告。どうやら、舌で舐めるとか、そういうのがクリア条件だったのだろう。
「ちょっと待ちなさいよ! 私はまだまだ全然楽しんでないわ!」
「や、もう出口のドア開けたんでさっさと出て行ってもらえます? はぁ……」
「溜め息!?」
「じゃ、お疲れ様でーす」
「軽っ!?」
そんなこんなで、よくわからない茶番は終わりを迎えたのであった。
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