第十四話・庭園にて2~BL的気遣いは無用!!~
※BLネタ注意!!
「何だ……、あれは?」
「ぎゃぁああああああああああああああああああああっ!!」
「……え?」
王宮の警備にあたっている兵士、と思わしき姿の若い青年が、シグルドに首をホールドされて引きずられてくる。物凄く酷い猛スピードで!!
「な、何をやってるんだ、シグルド君!!」
「連れてきた」
「何故にぃいい!? 兵士を、あぁ、西棟の見張り役をしている、ランヴェルク君じゃないか。彼を連れて、いや、攫ってくる必要がある!? 拉致っただろう!!」
「うぅ~っ。姫様ぁ~!! 怖かったですぅ~!!」
可哀想に……。余程強引な手段で拉致られた上に、今もその腕に捕らわれたままで相当に怖い思いをしているらしい。だが、誘拐犯の方は真顔を崩さず、突然事に及び出した。
「ぎゃああああああああ!! な、ななななっ、なにするんですかああああああああああっ!!」
「シャルロットの望みを叶える為だ。さっさと脱げ」
「いやぁああああああっ!! ぼ、僕っ、男にひんむかれて喜ぶ趣味なんてありませんからぁあああああああっ!!」
「俺にもそんな趣味はない。だが、俺とお前が揃わなくては、シャルロットがBLを楽しめない。協力しろ」
「何ですかそれぇええええええええっ!!」
女性さながらの悲鳴をあげながら、必死に服を守ろうとするランヴェルク。
だがしかし、シグルドの猛攻は止まらない。
彼の警備兵用の制服を無理矢理に乱しながら……、と、一瞬呆然と度肝を抜かれていたシャルロットがその先の展開に気付き、大慌てで止めに入る。
「やめるんだ!! シグルド君!! 私は望んでない!! 断じて望んでない!! 生BLなどぉおおおお!!」
――ぴたり。
庭園中に響き渡ったシャルロットのアレな大声に、シグルドの動きが止まった。
ランヴェルクから手を放し、立ち上がって一言。
「もう行っていいぞ」
「酷ぉおおおお!! 勝手に拉致っておいて何なんですか、それぇえええええええええ!! うわぁあああんっ!! 姫様ぁああああああああああっ!!」
「おおよしよし。すまないな、ランヴェルク君。私のせいで怖い目に遭わせてしまって」
王宮を守る警備兵としての彼は優秀な腕を持っているが、流石にBL目的で素材にされそうになった恐怖は計り知れなかったらしい。怯えきった子犬のようにシャルロットへと縋ってくるランヴェルク。
勿論、シャルロットに執着心を抱く天使からすれば――。
「痛ぁあああっ!!」
「こらっ!! シグルド君!! 酷い事をするんじゃない!!」
「ふん……っ」
ランヴェルクの背中をブーツの底でグリグリと踏みつけ、忌々しそうに睨みおろしてくるシグルド。
そんな狭量すぎる自分の行動にも、彼はいまだ答えを得ようとはしない。
だが……、まさか。
(どん引きして嫌悪感を抱いたのではなく、私を喜ばせる為にBLの相手を見つけに行くとはなぁ……。ははっ、かなり吃驚したが)
本当に、この天使は純粋過ぎて、困る。
最初は傲慢なだけの、プライド命の天使貴族かと思っていただけに……。
大型犬に懐かれるような日々が始まってから、シグルドの印象がどんどん変わっていく。
傲慢な天使の顔は、恐らく、彼が天界において必要だと判じて身に着けた壁のようなもの。
だが、相手が心を許せる者ならば、剥がれ落ちてゆくもの。
(シグルド君の事は、嫌いじゃない……。どちらかといえば、好きの方に分類出来る存在だ)
だから、……一緒にいたくない。
シャルロットが彼を友人として認め、交流を深めていけば……、いずれ、気付く時がくる。
その先を求められれば、もし、自分がシグルドを受け入れたら、……巻き込んでしまう。
自分の体内で眠っている魔石を狙う者は多い。
それを手に入れる為の一番簡単な方法は、――魔石の所持者との婚姻。
夫という立場に納まれば、魔王の娘であるシャルロットごと手に入れる事が出来る。
そして、大勢の欲深き者達から……、妬まれ、付け狙われる事に。
一生、シャルロットを守る為の盾として、縛り続ける事になるのだ。
(私は……、そういう意味で、誰も好きになったりしないし、受け入れる気も、ない)
なのに、何故だろう。
シグルドが近寄って来ると、中途半端にしか邪険に出来ない。
それどころか……。
「うわぁあああああああああん!! 天使なんか嫌いだぁああああああああああ!!」
「可哀想に……」
何か大事なものを奪われたかのように、乙女走りで去っていく警備兵のランヴェルク。
その姿を見送った後、シャルロットは悪びれずにいるシグルドをじっとりと睨み上げてやった。
「後で、何か詫びの品でも持って謝りに行くんだぞ?」
「……」
「今、心の中で面倒臭いって思っただろう? まったく……。大体だな、BL趣味というのは、現実の男性に押し付けるものではなく、個人でニヤニヤと。――って、うわっ!!」
ずいっと近づけられた、わんこ天使の美しく凛々しい顔。
「な、何だっ!! 何なんだっ!?」
何かを真剣に探り出そうとしているかのような、サファイアの瞳。
シグルドは無言のままシャルロットの顔を覗き込み、……ぺろり。
――左のほっぺを舐められた。
「ぎゃああああああああああっ!」
わんこだからか!? 種族の習性故か!?
ほっぺを舐めただけでは済まず、シャルロットは首筋の辺りをクンクンと嗅がれ、……がばり!
さっきの流れから、どうしてこうなる!?
シグルドにむぎゅむぎゅと抱き締められ、頬擦りまでされ始めてしまったシャルロットは、乙女の鉄拳を繰り出し、わんこ天使を宙高くに吹っ飛ばしてやった。
だが、相手は天界のエリート軍人。けろっとした顔で空から戻ってくる。
「ちっ! しぶといな」
「殴られて喜ぶ趣味はないんだが……、ふっ」
「やめろ!! その、うっとりと危ない趣味に目覚めてる的な顔はぁあああああっ!!」
「シャルロットが与えてくれるものは、俺に新しい刺激や喜びを」
「言わんでいい!!」
やっぱり駄目だ!! この天使に関わっていたら、自分までド変態の目覚めに巻き込まれてしまう!!
テーブル上の本を掻き集め、シャルロットは大急ぎで庭園の休息所を後にし始める。
勿論、その後を忠犬な天使が追ってくるのだが。
「シャルロット、俺が運ぼう」
「手助け無用!! あっ!!」
ひょいっと奪われてしまう数冊の漫画本。
その重みがなくなった代わりに、シグルドが右側から手を伸ばし、シャルロットの手を取った。
ぎゅっと、壊さない程度の優しいぬくもりに包まれる。
「一緒に歩きたい」
「わ、私は……っ」
ニッコリと、わんこ天使が嬉しそうに笑みを向けてくる。
真顔でいる事が多い男なだけに、こういう……、不意打ちのような顔をされると、……困る。
ポッと、自分の顔に変な熱が宿るのを感じたシャルロットは、一瞬だけ乱れた鼓動にも戸惑ってしまう。
受け入れてはいけない。巻き込んではいけない。自分は……、この男を好きになったりは、しない、はず。
そう自分に言い聞かせても、シャルロットが彼の手を払いのける事はなかった。
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