第一話・君との出会い
「ん~……。お~い、お兄さん、生きてるか~い?」
旅の途中で通りがかった、とある山中。
シャルロットは歩き読書をしている最中に、所謂『生き倒れ』に瀕している男を見つけた。
――いや、思いっきりその背中部分を踏み付けてしまった。
せっかく面白いシーンを読んでいたのに、まったく……。静かに本を閉じ、足をどかす。
「……ふむ」
何やら、男らしい身体つきの上に綺麗な顔をしているが……、どこもかしも傷だらけ。
「……こっちも、真っ赤だな~」
人間じゃない。横向きに倒れているその背中から生えている……、紅に染まった翼らしきもの。
それに……、
「珍しい混血だな~。わんこか?」
男の黒銀髪の中から生えている、へにゃんと垂れた二つの獣耳。
お尻からも同じ色のふさふさ尻尾が生えており、男が二つの種族の血を引いている事を証明している。
「綺麗と可愛いが一緒って、お得だな~。だけど」
シャルロットは翼に触れ、紅を指先に掬い取った。……間違いない、この匂い、血だ。
「はぁ~……、嫌だなぁ。こういう生臭いの苦手なのに」
だが、放っておけば死んでしまうかもしれないこの男を放って立ち去る気にもなれない。
自分は善人ではないが、かといって、悪人に染まっているわけでもない。
一応、人並みの同情心というものくらいは持ち合わせている。
「まぁ、助けるだけならいっか」
どう見ても厄介な物件さんだが、傷の治療をして立ち去れば問題はない。
シャルロットは男の身体に両手を当て、瞼を閉じて詠唱を開始した。
「……うっ」
「はいはい、我慢我慢~。君には辛いだろうけど……、ちゃんと耐えるんだぞ~」
元は純白の美しい翼だったのだろうそれを見ながら、シャルロットは発動させた治癒の術によって男を癒し続ける。……普通の術者が使うものと違って、自分の術とそれに宿っている力が、彼にとって毒であるとも知りながら。
「……誰、だ」
治療の最中、苦しそうに呼吸をしていた男が、その瞼を開いた。
混濁としている意識の中での目覚めだ。別段支障はないが……。
男の力強い意志の力を感じるサファイアの瞳を直視した瞬間、シャルロットの胸に凄まじい衝撃が起こった。
「ちょっ、ちょっと君っ!! ストップ!! ストップ!! 私は敵じゃない!! と、通りすがりの、え~と、え~と、た、旅人だ!! 君が怪我をしているようだから、手当をっ」
……って、自分の治療が男にとって苦痛を伴わせるものである以上、信じろというのは無理な話か。
だが、この苦痛を耐えてくれれば、傷を癒す事が出来る。
男は手負いの獣さながらにシャルロットを睨みつけていたが、徐々に自分の傷が塞がっていく事に気付いたのか、やがて意識を失ってしまった。……た、助かった!!
「う~ん……、この子、相当強い力を持ってるんだなぁ。危うく支配されるところだった。危ない危ない」
人間以外の異種族、例えば、この男の属している種族の中でも強大な力を有している者は、他者を見ただけで自分の従属に堕とす事が出来る場合がある。
恐らく、この男はシャルロットを敵かもしれないと思い込み、その力を発動させようとした。
その強制力に押し負ける前に留まってくれて良かった……。
「まったく、治療中に仕掛けるなんて卑怯じゃないか。可愛くない奴だな、君は」
普通に対峙していたのならば、勿論簡単に押し負ける事はなかっただろうが……。
まぁいい。さっさと治療をして逃げよう。
シャルロットは男の傷を全て塞ぎ終えると、サービスで体力が早く回復する術と翼の汚れまで綺麗にしてやり、木陰に蹴り飛ばして結界を張り、それからニンマリとやり切った笑顔でその場を去って行った。
あの男を心配したからじゃない。自分のやった事を無駄にされたくないからだ。
――だが、シャルロットは知らない。
この人助けが、自分の運命を面倒な事態に発展させてしまうフラグだった、と。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます