箱舟なき未来

サハラ・サーブラ

第1話 着床

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 僕は喜早 穂高(きそう ほたか)、東京学武大附属高校に通う三年生である。

 硬式テニス部の一員として最後の夏の大会を戦い抜いたのちは、燃え尽き症候群に陥っており、何をする気も起きない状態が続いていた。

 そして、このまま受験やら何やら全て忘れ、ぼーっと暮らしたいと思うほどに、気の抜けた日々を送っていたのであった。

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「穂高!数学の宿題やったか?」

 駅から学校までの道、同じクラスで、同じ硬式テニス部に所属する親友の丸岡大粋(だいき)が後方から息を切らして走ってくる。

 僕は寝不足気味の目をこすりながら、

「どうもヤル気が出なくて、問三の区分求積法の問題までしかやってないよ。」

と、向かってきた大粋に対して答えた。


 しかし、大粋はそんな事などお構いなしに、

「じゃあ続き、学校で一緒にやろうぜ!!」と、やけにハイテンションであった。

 僕はそのテンションには付いて行けず、気怠そう顔のまま、

「どうせ一問も解いてないんだろ?」と聞き返した。

「ばれた?笑」

 という正直な言葉に苦笑しつつも、奴のペースに呑まれ、僕は一緒に学校へと向かった。





 学校に着いて教室まで来ると、何やら慌ただしい。アメフト部の奴らに訳を聞いた所、どうやらハーフでイケメンの転校生が来るという事で、女子が騒いでるらしい。

  ―― こんな時期にまた、どうして?

と少し気になったが、男子であるという時点で、転校生自体にはあまり興味が湧いてこない。そして、それはクラスの男子と女子の温度差にも如実に表れている。


「おまえら、転校生を連れてきたぞー。」

 古賀Teacher の無駄にデカい声が教室全体に響き渡り、その後ろにチラッとダークシルバーの短髪が見える。古賀Tの後ろから現れた転校生はどことなく哀愁を漂わせた表情をしており、元気がない。

 ただ、その容姿は噂通りのハーフ・イケメンであり、この学校随一のイケメンである〈阿部 龍侍(あべ りゅうじ)〉にも並ぶ端正な顔立ちである。有名人に例えるならば、さながらアインシュタインの若い頃にそっくりである。


「真壁 幸憲(まかべ さちのり)です。よろしくお願いします。」

 日本語はうまく、名前も日本人そのものだが、どうも持っている雰囲気と名前が合わない。

「真壁は、親の転勤の関係で、名古屋にある国立大学の付属高校から、こちらに転入してきた。卒業までの短い間にはなるが、新たにこのメンバーで良い思い出を作っていこう。」

 古賀Tは相変わらずの熱さが滲み出過ぎていて、こちらがどこか恥ずかしくなる。

 僕はふと視線を感じ、転校生に目線を戻すと、彼はこちらを見つめている。目線を合わそうとすると彼はゆっくりと僕から視線を外し、少し固い表情をして、自分の席へと向かっていった。

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