死神さん

雨月 秋

#1 隣に死神が立っていた

 その日は、一昨日からずっと続く雨だった。いつもの朝日は差し込まない。その代わりに、強い雨と風が窓をガタガタと震えさせる。

 朝、目が覚めると、隣に死神が立っていた。骨だけの体にローブを羽織っていて、その手には大きな鎌。本や絵でよく見る死神の姿そのものだった。

「ようやく起きたか」

 歯をカチカチ言わせながら、死神は言った。それに対して私は恐怖なんてものは一切感じなかった。だって、もう分かっていたから。

「お前、昨日から本気で死にたいって思っているだろ」

 その通りだった。私にはもう何も残っていない。昨日全てを失った。夢も希望も、理想も道も、その失ったものにくっついてどこかに行ってしまった。

「やっと、私にも迎えが来たんですね」

 私がそう言うと、一瞬、死神の顔が悲しそうに見えた。でも多分私の気のせい。骸骨じゃ表情は表に出せないから。そして、死神はもう一度その空っぽな口を開いて、

「その前に、お前が死のうと思った理由を聞かせてくれ。お前に何があったのかを」

 と言った。

「すぐには連れて行ってくれないんですね」

「ああ。一応義務なんでな」

 死神は申し訳なさそうに言った。私も少し前までは「義務」と言う魔物に追われる身だったから、気持ちは分かる。

「死神業界にもそういうのあるんですね」

 別に語らない理由はない。死んでしまえば全てはなかったことになる。しかも相手は死神だ。話したところで、今から死ぬ私にも、残された私の知り合い達にも、何の影響もない。もう最終的に死んでしまえるのならどうだってよかった。

「いいですよ」

 そう言って私は、私が死のうと思った理由を、私に何があったのかを語り始めた。

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