オズは彼女の魔法使い

よつや

序章

 奇跡を生み出す力には、常に輝きが伴う。

 人が願い、望むモノには必ず希望という名の光を纏う魂が宿るからだ。

 遠いはるか昔から、人々はその想いを具現化し、現実のモノへと変える術を見出していた。この世界においては今では当たり前のように使われる力――すなわち魂を糧とし、奇跡を起こす<魔法>として。

 かつてこう言った者がいる。<魔法>とは、奇跡を願う者の輝きそのものである、と。


 ♦ ♦ ♦


 空を仰ぎながら、少女は不思議に思っていた。

 漆黒の夜空には一面、無数の星たちが燦然と煌き、青白く輝く巨大な月が少女と、彼女が腰まで浸かる湖を照らし出している。

 来る日も来る日も、少女はここで日課のように祈りを捧げていた。その瞳には変わらず、こうして天候さえ良ければいつもと同じ景色を映している。誰よりも強く願いを込めているはずなのに。


 それなのに、どうしてだろう――。


 濡れた髪から雫が肌を伝い、水面へと吸い込まれていく。湖に入ってからすでにかなりの時が経っているにも関わらず、少女は未だその場から動かずにいた。

 結局、何も変わりはしない。

 頭上では、そう嘲笑うかのように、月とその従者たちが一層強く輝きはじめる。そして、そんなはずはないと、心に言い聞かせてはいるのだがやはり悲しく、悔しさが込み上げてくるのもいつものことであった。

 先ほどとは異なり、わずかに滲む光。ギュッと、胸元にぶら下がる石を握りしめる。


 ふとその時、後方で異音がした。

 少女は驚いて振り返り、森の方へ目をやった。

 気のせいではない。確かに森の木々が折れる音が聞こえたのだ。そして続けざま、地面を揺るがすほどの轟音――それも尋常ではなく大きな音を。そのせいだろうか、カラスたちが鳴き声をあげ、空に羽ばたいていく様が見て取れた。

 たちまち少女の顔に不安と緊張が過る。

 昼間でさえ静寂に包まれた死の森に、それもこの、草や木すらも眠るとされる時刻に一体誰が。


 まさか――


 自分の境遇を鑑みれば、すぐに最悪の事態が想像できた。だとすれば、すぐにこの場から離れなければならない。


「…………」


 が、そんな考えとは裏腹に、少女の身体は勝手に動き出していた。もちろん湖から上がる為ではあるが、しかしどうしてか、彼女は異音のした森の方角へ向かおうとしていた。

 生来の好奇心の強さがそうさせたのかもしれない。恐怖より、興味が勝り行動してきたのはこれが初めてではないのだ。

 ともすれば、何かに導かれるかのように。


 少女の首から下げられた石が胸元で光を湛える。少女の瞳と同じ色をした、奇跡を生む石――。

 空から、無数の輝きが降り注いでいた。

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