第79話
歩人は慌てて階段を降りるが、一方の安奈は慌てる様子も見せず、右手を前にかざした。
その瞬間、勢いよく近付いて来た男達は一瞬にしてドアの外に吹き飛ばされる。
「こういう事なの」
その光景を見て唖然とする歩人に、杏奈はいたずらっぽく笑うと、そのまま玄関に向かっていった。
「杏奈様?」
5人にしがみつかれながらも、家に向かっていたオルハンも、玄関から吹き飛ばされた男達と、後から余裕の表情を浮かべて現れた杏奈に驚きを隠せない。
杏奈が両手の平を上に向けると、それまで無風だったのにも関わらず、急に強い風が吹き荒れ、それはやがて敵を全員巻き込む竜巻に変わっていった。
「これは一体?」
オルハンはその光景を驚いた様子で眺めていた。
「大丈夫ですか、オルハンさん」
「ワシは、大丈夫ですが」
気が付くと男達は家の屋根の高さまで巻き上げられ、しばらくその状態が続いたものの、ゆっくりと降下して着地していった。
多くの者はその時点で戦意を失っていたが、敵のリーダーらしき男だけは、敵意に満ちた眼差しを杏奈とオルハンに向けている。
「杏奈様、お下がりください」
オルハンはそう言って杏奈を制止しようとするが、杏奈は構わずに一歩前に出る。すると男達は後ずさるが、やはりリーダーだけは動こうとしなかった。
「皆さん、お腹空いてないかしら?」
杏奈は優しく微笑みながらそう言うと、男達は明らかに困惑の表情を見せる。
「杏奈様?」
困惑した表情を浮かべていたのは、オルハンも同じであった。
「何のつもりだ?」
「お腹が空くとイライラするでしょう。まずはお腹を満たして、その後で今後の事を話し合うのはどうかしら」
男達は互いに顔を見合しながら考えるが、その内の1人が前に進むと短剣を手に取る。オルハンが慌てて前に出るが、その男は短剣の握りを向けてオルハンに差し出した。
オルハンは一瞬驚きつつも、黙ってそれを受け取る。すると男は仲間の方に向き直る。
「もう良いだろう。こんな事が意味が無い事は皆分かっているはずだ」
その言葉に仲間達は次々と前進するとオルハンに短剣を預けていった。
「さあ、入って入って」
杏奈の案内で、男達は続々と家に入って行く。
「靴は脱いでね」
その言葉にも男たちは素直に従い、その様子を見ていた歩人も困惑の表情を浮かべていた。
「歩人、皆さんをリビングに通してあげて」
「う、うん」
歩人は釈然としない様子で男達を案内する。その様子をレスティナとクロエも階段の影から窺っていたが、2人も状況が分からず困惑していた。
リビングに通された8人は、杏奈の調理中も大人しく待っており、念の為に8人の動きを見れる位置で待機していたオルハンも、すでにそれが必要ない事だと理解する。
やがて、食欲をそそる匂いがしてくると、次々と腹の音が鳴り響いた。
「歩人、寝なくて良いの?」
時計の針は既に午前3時を回っていたが、歩人も杏奈の手伝いをしている。
「うん、手伝いがいた方が母さんも楽だと思うし、僕も知りたい事があるから」
「ありがとう」
やがて料理が次々とテーブルに並べられ、最後の一品を持った杏奈がやって来る。
「さあ、召し上がれ」
その言葉と共に男達は勢いよく手を伸ばし、次々と料理を平らげていく。杏奈はゆっくりリビングの扉を開ける。
「2人は食べないの?」
隠れて様子を見ていたレスティナとクロエに声を掛けると、2人はリビングに入ってきて食卓に着いた。
「さ、オルハンさんも」
「あ、ああ」
オルハンも食卓に着き料理を口に運んだ。
「歩人はいいの?」
「僕は大丈夫」
「それにしても、皆良い食べっぷりね。作った甲斐があるわ」
歩人と杏奈は皆が食べ終わるまで、その光景を眺めていた。やがてそれも終わると皆口々に杏奈への感謝の意を口にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます