第19話 消失
気がつくと目の前にあるガラスの向こうには眼下に街明かりが広がっている。
ここは高層ビルの最上階といった所か。
電気は全て消され下界の街の明かりが僅かに差し込んでいる。
結界を張らなくても影さえ消せばミウは現れることが出来ないと言う事なのだろう。
両腕には手錠が嵌められ天井から宙吊りにされている。
手首には手錠で出来た傷が治らずに血が滲み出しては消えていく。
どうやらご丁寧に銀で作られているらしい。
ミウの言葉が蘇る。
銀で傷つくと治りが遅く銀を傷付ける事も出来ない。
これでホワイトアッシュの杭でも胸に打ち込まれれば確実に灰になるのだろう。
辺りの様子を伺うとあの男が冷たい目で俺を監視している。
ディーノ・オルコかあの人の好きそうな名前だ。
俺の事を見渡せる左よりのガラスに腕を組んでもたれている。
そして右の方にはエレベーターがあるようだ。
しばらくするとモーターの音がしてエレベーターが上がってきて美雨先輩の父親と側近だろうか数人のスーツ姿の男を従えて現れた。
「さて、どうやって消えてもらうかな」
「そう簡単にいくかな」
「いかせるさ。わし等はヴァンパイアの事を知り尽くしているからな。それに貴様に消えてもらわないと困るのでな」
「闇の世界を知り尽くしていても表の世界じゃ役に立たないぜ。まぁ、あんたらのやっている事に口出しはしないよ。悪い事じゃない、震災の時も率先して炊き出しをしていたもんな」
「何故、そんな事を」
「知っているか? 俺も裏の人間なんでね。噂ぐらいは知っている。一人娘の為に表に這い出す為に融資をしてくれる所を探し回っていたんだろ」
「そこまで知っているのなら生かしておく訳にもいかないな。そもそも生かしておくと言う言葉自体間違っているがな」
「それを、後ろにいる自分の娘に言えるか? まぁ、もう言ったも同然だがな」
着物姿の男が振り返ると人狼の姿の霞に連れられて、ぺリドットの様な瞳から涙をこぼすミウの姿があった。
男は明らかに動揺していた。
「な、何故お前がここに」
「そんな事をしてもらっても何も嬉しくない。ハルを返してもらう」
「もう、遅いんだ。融資は決まった。その為にはこいつを」
「私に身内を手に掛けろと?」
すると霞が動こうとした。
「霞、動くなよ。人狼がどんなに速く動けてもディーノには適わない。こいつは金色の瞳から力を受け継いだ奴だ。それに目の前で女の子が殴られるのを見たくないからな」
「クソ! そんな手錠何とかならねえのか?」
「ご丁寧に純銀製だ。貴金属の買取商に持って行ったら案外いい金になるぞ」
「お前、本当に助かる気があるのか?」
「この状況でか? 難しいな」
「それなら俺が」
ミウがいつの間にか大太刀の紅雀を構えている。
するとミウの父親が重い口を開いた。
「この男は本当に助ける価値があるのか?」
「な、何を。ハルは私を」
「助けたか。でもこれだけは知っていてくれ。この男が生まれ育った家は、お前が幼い頃に拉致し消そうとした家の人間だぞ」
「でも、私はここに居る。その屋敷から私を助けてくれたのは」
「こいつかもしれないと?」
「そこまで判っていて何故?」
「お前を守る為だよ」
ミウの表情が強張り刀を持つ手が震えている。
そして瞳の輝きが怒りで増し始めている。
「娘を守る為に、娘が愛する男を殺すのか!」
「ミウ、止めておけ」
「は、ハル。貴様何と言った!」
「止めておけと言ったんだ。今のお前ならオルコだけなら問題ないだろう。だが二人相手じゃ無茶だ。出て来いよ、黒幕のレベッカ・ドラゴネッティ。いや竜ヶ崎霧華と言ったほうが良いかな」
俺の言葉にミウも霞さえも身動きすら出来ないくらいに驚いている。
窓に寄りかかっていたオルコを従えるように黒いスーツ姿の霧華が氷の様な表情で姿を表した。
そしてその瞳は金色の光を放っている。
「どうしてあなたが……」
「ディオだからと言えば判るかしら」
「まさかディオ・アソシエーション」
「知っているのね、なら話は早い。世界の秩序の為に大きな力を持ち覚醒してしまった亀梨には散ってもらう簡単な事でしょ」
「させるか!」
「動かないで。この銃の弾丸は闇の者を瞬時に灰にするウィルスが仕込んであるの。一溜まりも無いわよ」
霧華の手にはベレッタPx4 Stromが握られ銃口はミウに向けられている。
ミウの後ろにいる霞が僅かに体を動かし室内灯のスイッチに手を伸ばした。
室内灯が点き一瞬だけ目が眩む。
それをミウが見逃すはずもなく紅雀で霧華の手からベレッタPx4 Stromを弾き飛ばして俺に向かってきた。
「ミウ。来るな!」
「鳳条、危ない!」
俺と霞の声が重なりミウが殺気を感じて振り返った時には霧華が懐から別の銃を取り出している。
「チェックメイト!」
「させるか!」
腕時計に仕込んであった起爆ボタンを押すと手首から先が吹き飛び体が自由になる。
手首から先が瞬時に再生するが間に合いそうに無い。
ミウの体に体当たりして突き飛ばした瞬間に乾いた炸裂音が響いた。
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