第7話 告白

クリスマスがあっという間にやってきてクリスマスは親友の麻美達と大いに盛り上がって騒ぎきって青春を謳歌して。

お正月は毎年の様に小夜ちゃんが家に来て新年を迎えた。

いつもと変らない、変るなんて思ってもいなかった年末年始の行事が過ぎるとあっという間に卒業シーズンになっていた。

私立青城中学はエレベーター式でよほどの事が無い限り私立青城高等学校に進む事が出来る。

だからこそ私達は受験なんかと無縁で中学最後の冬を満喫する事が出来た。

パパと小夜ちゃんに卒業を祝ってもらって入学式までは麻美達と買い物をしたりして過ごしていた。


そして高校の入学式を数日後に控えていた。

その日も麻美達とショッピングしたりファーストフードを食べながらこれからの高校生活の事なんかを話して、夕方にマンションに帰るとリビングに小夜ちゃんとパパが居たの。

「ただいま」

「おかえりなさい、美奈」

「あれ? 小夜ちゃんだ。パパ、ただいま」

「ああ、おかえり」

なんだか普段のパパとは雰囲気が違うのに気が付いた。

凄く硬い表情をしていて、パパに落ち着きが無くって緊張しているのが直ぐに伝わってくる。

こんなパパの姿を私は生まれてから一度も見た事が無かったから不思議で、心の奥がザワザワし始める。

嫌な予感とでも言えば言いのだろうかパパから伝わってくる雰囲気に居心地が凄く悪い。

そんな空気が嫌で私から声を掛けた。

「今日はどうしたの? ああ、皆でご飯を食べに行くとか?」

「ミーナに大事な話があるんだ。そこに座ってくれないかな」

「え? 私に大事な話? なんだろう良い物でもくれるのかなぁ」

いつも以上に明るく振舞うけど空振りだったみたい。

パパの肩が大きく上下して深呼吸をしているのが判った。

そして真っ直ぐに私の瞳を見詰めながらパパが口を開いたの。

それはこれからの私の人生を大きく揺れ動かしてしまう言葉だった。

「ミーナはもうすぐ高校生だ。自分自身で考えてそれを自分自身の言葉で伝える事が出来る歳だよね。だからあえてこの時期に本当の事を話そうと思う」

「本当の事?」

「そう、多分。僕が言葉で言っても信じてもらえないだろうと思って公的な書類を役所から取り寄せたんだ」

そして一呼吸置いてパパは静かに私に告げた。

「ミーナは僕と美雪の子どもじゃないんだ」

「えっ? パパ、今なんて言ったの?」

「ミーナの母親は美雪だけど、僕とミーナには血の繋がりが無いんだ」

思わず自分の耳を疑い聞き返してしまう。信じられない言葉がパパの口から紡ぎ出されていた。

私がパパの子どもじゃない、そんな冗談みたいな事を信じられるわけでもなく。

悪い冗談を真面目な顔をして話しているパパが信じられなかった。

「そんな事を言う、パパなんか大嫌い!」

「今まで隠していてすまなかった」

思わず声を荒げてしまい、我に返るとパパがテーブルに頭がくっ付くんじゃないかって言うくらい頭を深く下げている。

小夜ちゃんの方を見ると哀しそうな瞳でテーブルの上に置かれている一枚の紙を見つめていた。

「これは何? 戸籍妙本? 私の戸籍だ……」

あまりにも突然の事で口に出して確認しながらじゃないと体が思うように動いてくれない。

パパが役所から取ってきた戸籍妙本を手にとって生まれて始めて見る。

本籍地は住んでいるマンションの住所と同じで筆頭者の欄には『神楽坂 優』とパパの名前が書いてある。

そして私の名前と生年月日、それに……母の欄にはママの名前があるのに父の欄はあるはずの名前が記載されてなく空白のままだった。

何度も何度も確認するけれど筆頭者以外の場所にパパの名前は書かれていなかった。

全身から力が抜けてソファーに体が沈み込んでいくのが判る。

「パパと私の関係って何?」

「法律上では妻の子と言うことかな」

「そんなのが聞きたいんじゃない!」

「僕は例え血が繋がっていなくてもミーナは僕の子どもだって思っているよ」

「それじゃ、何でこんな知らなくても良い事を曝け出すの? 酷いよ」

涙が止め処もなく溢れ出す。手で拭いもせずにパパに嘘だって言って欲しくってパパに詰め寄ると小夜ちゃんが静かに口を開いた。

「知らなくても良い事じゃないでしょ。美奈は知らないといけない事なのよ。これからの人生にはとても大切な事だから」

「これからの私の人生?」

「そう、戸籍を見る機会なんて一生の間でそんなに多くない事よ。高校入学の時でさえ昔は戸籍なんかが必要だって時もあるけれど今は違う。最初に目にするのは結婚する時かもしれないわね。大好きな人が出来て結婚しようとしたら父親が優じゃなかったなんて事が判ったら、美奈ならどうする?」

「結婚なんか出来ないかもしれない」

「それじゃ、もう一つ小学生の時にこの話を聞かされて美奈は理解できる?」

「それも無理だと思う」

小夜ちゃんに言い聞かすように言われて感情的になりそうだったのに少しずつクールダウンしていくのが自分自身でも良く判った。

それでも決して納得した訳じゃない、それじゃ私の本当の父親は誰なの? それを思いのまま言葉にした。

「私の本当の父親は誰?」

「ミーナの本当の父親は……」

パパが告げた事は本当なのだろう、私の本当の父親の事はパパにもママの親友だった小夜ちゃんにもママは決して話さなかったと言う事だった。

その理由すら今はもう判らない。

ママは私が幼い頃に永遠の別れをし、本当の父親の事も告げずに旅立ってしまったのだから。

パパは私が望むなら本当の父親の所在を探そうかと行ってくれるけど、それだけはしたくなかった。

何故って? ママが愛したパパにすらママは話せなかったと言う事だもん。

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