第九十七話:夫婦の連携と、まだ若い二人の

 時は再び戻り、盗賊村。


 サラが急いで連れてきたルークとエレナによって、新しく連れてこられたミラの村からの18人と、旅人だった2人の女性達はルークとエレナの完璧な連携・・・・・による速やかな処置によって事なきを得た。


 この辺りは人生経験の差らしく、サラではまだ綺麗な解除は難しいらしい。


 英雄の娘というある意味好奇の目に晒され続けたサラが普通の人生経験を送っている訳もなく、これから旅をすることでその経験の足しになるだろうとのこと。




 そんな20人は無事に保護出来たのだが、問題は元から村で暮らしていた女性達だった。


 彼女達の脳は完全に元の生活を忘れ村で暮らすことに適応してしまっており、いくらルークとサラであっても戻すことは不可能。


 これより先の処置をどうするかの判断は流石に国に掛け合ってみなければ分からないとのことで、「後は任せなさい。楽しい旅の途中だったのだろう?」というルークの英雄らしい言葉によって、全ての村男達と村で過ごしていた女性達は英雄夫婦に連れられていくこととなった。




「こんな時、私の両親が国を跨ぐ英雄で良かったよね」




 とは、転移の魔法で消えていった二人と村人達を見送った直後のサラの言葉。


 英雄に国境は無い。


 かつて魔王を共に倒した英雄達は、皆それを謳っている。


 表向きは、時にはいがみ合う国々であっても、災害レベルの魔物被害があった場合には互いに手を取り合おうという意味の言葉。


 裏には別の意味があるのだが、それは今は置いておいて、英雄達は基本的に何処にどう入国して何かを行ったとしても、国に報告さえすれば問題にならない。


 英雄には英雄のネットワークがあって、かつて魔王を倒した際にはそれを最大限に利用したことで民間への被害をゼロにすることに成功している。


 もちろん戦闘に関わった者達には被害者は出たが、それは彼らも覚悟の上だった。


 自らの身を犠牲にして国どころではなく世界を守ったのが、彼らだ。


 そんな実績に裏打ちされた正義の味方だからこその英雄。




「はあ、格好良いなあルークさんは。それに比べて僕は連携すらまともに取れなかったよ……」




 そんな風に若干の落ち込みを見せるクラウスはさておいて、サラは無事意識を戻した女性達を先導する。


 そんなこんなで行きは二人、帰りは旅女二人を含めた22人の大所帯でミラの村へと向かうことになった。




 しかしそんな帰り道も無事とはいかない。


 この大所帯には、そもそもの問題があった。




「ところでクラウス、こんなハーレムな状況はどうなの?」


「いや、どう見てもハーレムじゃなくて、僕が脅して連れてるみたいになってるんだけど……」




 周囲を見ると、泡を吹いて倒れた勇者達を中心にして、女性達がクラウスを見る目は畏怖の感情が多分に含まれている。


 クラウスを見てすらいない彼女達も、あの強烈な殺気が誰のものであってのか位は流石に分かるらしい。


 その上失禁してしまった者すらいるのだから、助けてくれた恩人とはいえ簡単に恐怖の感情は消えない。


 いくらサラが積極的に両者と交わってしこりを取り除こうとしても、本能レベルのものまで消そうと思えば再び村で行われた様に洗脳に頼ることになってしまう。


 その辺り、エリーさんの思考誘導は実は中々クリーンなんだなと妙な感心を抱きつつ、サラは冗談を続ける。




「あははは、もし他に援軍が来たらクラウスが討伐対象になっちゃうね」


「それは笑えないな……」


「大丈夫大丈夫。英雄の娘サラは、そんな時の為に大会で顔を売ったのだよ」




 自慢げに胸を張るサラに、そんな早く広まるものなのかと一瞬思う。


 しかしそんな疑問は直ぐさま消え去った。




「あ……あなたがサラ様ですか」




 そんな言葉を呟いたのは、旅人の一人だった。


 勇者ではなく魔法使いの女性だ。


 隣では勇者の女性も目を見開いており、驚きを顕にしている。




「あれ、今気づいたの? パパとママもさっきまで居たのに気づかなかっ――」




 そこまで言った所で、今度はサラがはっとした顔を見せる。


 二人は無事だった女性達の中では捕まった時期が早く、しばらくは意識が朦朧としていた様だったからだ。


 受け答えはしっかりと出来ているものの、周囲の状況までは把握しきれていなかった様子。


 道中も皆に従うようにしっかりと付いて来ていたので、サラはそれを皆の恐怖の視線への対処ですっかりと忘れていたのだった。




「ごめんね。あなた達、今の状況は分かってる?」


「え、ええ。なんとなくは……」


「確か、王都へと向かう旅の途中で男の人の話しかけられて……。そこからは余り覚えていませんが、何かとても怖かったのを覚えています。助けていただいた様でありがとうございました」




 それはきっとクラウスのせいだ。


 とはサラは言わなかった。


 村人達の魔法はよく出来たもので、まずは一切の不快感を排除する所から始まるらしい。


 つまり、それでも恐怖を覚えたということは、どうしても抗えない潜在的な恐怖心をクラウスから感じているということ。




「あはは、いえいえ。私達は英雄の子だから、人助けもたまにはね」




 そんな風にわざとらしく照れたフリをしながら、サラは20人の女性達と会話に花を咲かせ始めるのだった。


 当然の様に蚊帳の外にされて何も言えないクラウスに、いつしか女性達もあまり恐怖を感じなくなっていったのがサラの作戦なのかどうか、それはクラウスには分からなかった。

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