Little Lady

砂月慧

Prologue

私という人格を失った日


それは随分とさかのぼることになる

あのことはよく覚えている




その日の夜、素晴らしい見世物を見せてくれた手品師は

止まる家がなかったので私たちの家に泊めていた。

深夜のことだった。

ベットから起き上がると窓の外にはいつもとは違う景色が広がっていた


照りつける火花、バチリバチリと空を仰ぐ火焔

ブルーベリー畑は実も葉も焼け付けて家でさえも燃えてつきてしまいそうだった

中世のお伽噺に出てきそうな小さな家とブルーベリー畑で私は育った

哀れにもそれはただの灰と化していく


「おかあさん!おとうさん!ルカ!」

階段を全速力でくだり下りる

扉を開きその目に映る先は鮮血を浴びた両親だった

リビングで横たわり仰向けになって死んでいた


「そんな…どうして!」

泣きじゃくる私は弟のルカがいないことに気が付いた

「ルカ!ルカはどこ?どこにいるの?」

「助けて!誰か!」

私は叫ぶことしかできなかった

直感で気づく今日泊まっていた手品師の仕業ではないかと。

直後玄関が開く

ふいに私はハッとして振り向いた


「なんだまだここにいたのか」

怪しい声で虚ろげな目を手で伏せながら男は言った

道化のような格好で笑みの仮面をかぶった格好だった

今にして思えば薄気味が悪く鳥肌が立つ



「君の弟はもういない」

「私の仲間が連れて行った、彼を必要としているんだ」

私は泣いていて何も言うことができなかった

道化師はやれやれといった態度をとり続けた



「かわいそうなお嬢さんだ、家族を失い

そして今運命を変える力もなく立ちつくしている」

さて、といってしゃがんで私の前に立った道化が言った


「魔法をかけてあげるよ」


直後、暗闇が襲う、漆黒の闇、そして沈黙

疑問を感じて数秒で気が付く

目が見えない、私は両目を潰された

直後、ひどく後から痛みが襲ってきた


そのあとのことは覚えていない



その日は人生における平穏な日々を殺された

今までの私は死んでしまった

新しい感情が産声を上げたのだ


”復讐”という感情



なにものもたった一つで変わる瞬間を与えられることもある

生きるすべも人も関係でさえ


私はこの日私が変わる瞬間に出会った

ロレンヌの農村の平穏な暮らしの私から殺し屋の冷酷な俺へと姿を変えた


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レンガ造りの家の中、怪しげな雰囲気を醸し出す部屋だった



「以上が俺の過去の話だ」

目に包帯を巻いた椅子に座るロングヘアの少女が語り掛けていた

「両目がほしいか?」

淡々とした口調で聞いてきた低い男の声

だがそれくらいのものを与えられるなら

対価は計り知れないものを要求してくるだろうと思った

しかし今を逃せば次はない、言わずともそう感じ取った


「そいつをくれればなんだってして見せるさ、あいつを殺る為ならな」

なるほどと言って、男は続けた

私は体を前に倒し、うつぶせになった

彼は焼けた鉄を私の背中に押し付けて私は痛みを知る

十字架の烙印、契約者の証だ



「契約完了だよろしく、今日から君は”リトルレディ”だ」


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