歴史教師と時空の落とし穴(9)

千馬章吾

9

 大きな寺子屋の前にいる。公家や大納言のような平安時代の貴族…いや、ここは正真正銘の平安時代であると、すぐに分かったのだ。誰かが、木陰で本を読んでいる。何処かで見た事がある男性だ。あの凛々しくて、賢そうな顔付き。学問には勤勉そうだ。その時、別の男が彼の所にやって来て声を掛ける。もう一人の男は、木陰の男と比べれば、今一(いまいち)ぱっとしないような感が否めない、と暦は思う。

「道(みち)真(ざね)様あぁ~~っっ!矢張り、ここにおられたのですね!」

「ほう、そちか。何用じゃ?またいつもの、か?ん?」

「はい!そうです!よく御解りですねえ!流石は道真様で御座いますぅぅ!」

「本日は、何(いず)れのものか?」

「はい。ちょっと、算道の、この項でして…はい………。」

「うむ。ん。何じゃ、ここか。授業時、話をよく聞けば分かるところだろうて。仕様が無い。坊っちゃん団子三本程度で良いわ。教えてやろう……良く聞けよ。ええとだな…つまり…。」

「いつもすみません。後で必ず、坊っちゃん団子と御抹茶を、御用意致しますね。帰り時(し)にでも……。」

「仮にも貴族なんじゃから、そちもしっかりと頑張れよ。この大学はな、九年間で卒業出来なければ退学なんだから。」

 (菅原道真(すがわらのみちざね)様か。ああ、私、平安時代の人物では最も好きよ。)

 またポッと、暦は赤くなる。

(うふふ。あの頃、貴族はあれぐらいが当然の時代ね。凄いなあ。学者でもあり漢詩人であり、やがて政治家となって右大臣にまで昇進出来た道真様だけど、確か、その後(ご)間も無く、政争に敗れて大宰府に左遷されたんだっけ。可哀想………。そして説に寄れば雷神様に…??嗚呼、格好良いわ、道真様。)

 ふとその時、また突然にもこの場はフェイドアウト。また場面が切り替わる。そしてまた新たに、フェイドイン。

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歴史教師と時空の落とし穴(9) 千馬章吾 @shogo

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