きらきらのなかで笑っていてね

音海佐弥

 夢を見ているんだ、と思った。

 夢の世界は光に満ちあふれていた。それは万華鏡の内側のように光る世界だった。ぎらぎら!とか、びかびか!とかそんなふうに形容されるくらいのまぶしい光。

 夢のなかで彼女は俺を見つめている。びかびか!に飾りたてられた万華鏡の内側みたいな世界で、彼女は俺を見つめている。まばたきをするたびにびかびかはさらにびっかびかになっていく。この世界とおなじだ、と俺は思った。夜にたたずむ羽虫だらけの自販機。繁華街のネオン。家主が寝落ちした部屋で点けられたままのテレビ。電車の到着時刻を報せる電光掲示板。街ゆく人びとが夢中になって見つめるスマホの画面。サービス残業に奮闘するサラリーマンたちが働くビル群。そして東京タワー。そうだ、この世界は光に溢れている。この世界はびっかびかの光に満ちているんだ。

 光る東京タワーが一瞬にして粉々に砕け散り、その破片のすべてが降り注いだ。ビルが弾け飛び、窓ガラスの光は粒になって彼女のまわりを浮遊した。スマホは原子単位まで分解されて、この世界をぼんやりと照らし出す光の層になった。そのなかで、彼女は笑っていた。口角をつり上げて、整った顔をむりやりねじ曲げるように、彼女は笑っていた。

(……似合わねえな)

 びかびかに光る世界のなかで、むりやり口をひん曲げた彼女の笑顔を見て、俺はそう思った。うん、似合わねえ。彼女にはもっと、こう……なんて言うのかな、違う種類の光が似合うんだけどなあ。

 彼女の名前にふさわしい、そう……美しい夜に浮かぶ、星みたいな光が。

 そう思ったとき、だれかが俺を呼ぶ声が脳を刺激して、夢から醒めた。起き上がってあたりを見回し、大雨が地面をたたきつける音を認識したころには、見た夢の中身なんてすっかり忘れてしまった。

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