23 総攻撃
変化は地上で戦っているカルロス達にも感じ取れた。
目減りしていく一方であった魔力。魔導炉が生み出していたそれに加えて、流れ込んでくる物がある。その事に、地下の部隊が成功を収めた事を知る。
「これなら条件は五分五分! やってくれたぜあいつら!」
ある意味では魔力の流入を止めるよりも効果的である。ここまでの消耗を無かった事にしてくれるこの現象は今のカルロス達にとっては有難い。カルロス達は知る由も無い事だが、ライラの小細工は相手の魔法陣の性質も影響して阻止するためには地下の魔法陣そのものを停止しないと行けない。それ故にフィリウスも下手に手を出せない状況になっていた。
ただ機龍とトーマスのデュコトムスはその例外だ。機龍は単純に最大武装が魔力に依存しない一発限りの物。収束衝撃砲も人の作った魔法道具だ。過剰な魔力には耐えられない。デュコトムスはもっと単純だ。そんな魔力を注がれても爆発するだけである。それ故に、彼らは下がって影響範囲から逃れる。
「奴が次の手を打つ前に決めるぞ!」
グランツが己が神権の権能を開放する。対話。周囲の魔力に働きかけ更に収束する。集めた魔力を呼び水に更に広範囲から。魔力で出来た柱が天へと伸びていく。
「さあ行きますわよ後輩様!」
ネリンとグリーブル、カルロスの三人も動く。単独の神権としては、対話の全力には劣る飛翔と挑戦。その差を埋めるべく、カルロスが一案を考えた。それがこの陣形。エフェメロプテラ・セカンドとヴィラルド・シュトライン、ヴィラルド・キーンテイターの二機が向き合う。
「己が前に立ち塞がる壁を叩き潰せ、『|神意・挑戦(ヴィラルド・キーンテイター)』!」
「何よりも速く、遠くへ。『|神意・飛翔(ヴィラルド・シュトライン)』!」
両機の全力。巨大な鉄塊と、最速の一撃がエフェメロプテラ・セカンドへと叩き込まれていく。その二つをカルロスは全霊を以て受け止める。二機の神権を一度に受け止める。それだけの負荷に耐えられるかだけがネックだった。だがエフェメロプテラ・セカンドは耐えきった。或いは、グラン・トルリギオンの中に入った影響でまた大罪が成長したのかもしれない。だとしても今はそれがありがたい。
「写して真似て模倣し、己が物とす――『|大罪・模倣(グラン・テルミナス)』!」
その二つの神権を、模倣する。ただ真似るだけでは個別に撃ったのと変わらない。だから、カルロスはそれを一つにまとめる。理論上は出来る筈だった。模倣しているのは魔法の構成その物。ならば、複数受けた構成を組み替える事も可能な筈である。その目論み通り、跳ね返した攻撃は二つの性質を併せ持つ物。
「仮想複合神意(テルミナス・ヴィラルド)!」
巨大な鉄塊が大陸最高速度でグラン・トルリギオンへと突き刺さる。それは縮尺が狂ったかのような光景。恐らくは過去最高の運動エネルギー兵器と化したその一撃に、永劫の大罪を以てしても多大な傷を負わされたグラン・トルリギオンが反撃を放とうとする。狙うは今の攻撃を放った三機。隙を晒している今ならば、容易く当てる事が出来るだろう。そして何よりも障害と成っていたカルロスの模倣の大罪。それが即座には使えない状況。当然選ばれたのは永劫の大罪。ここで三機が離脱すれば五分になった形勢は再びグラン・トルリギオン側に傾く。
「永久の眠りよ――『|大罪・永劫(グラン・ベルバータ)』」
誰かの声が、戦場に響き渡った。それがグラン・トルリギオンからの物だと気付いた時にはもう遅い。永劫の大罪の最大発現。それは既に放たれた後だ。回避は不可能。大技を準備しているヴィラルド・ウィブルカーンが動けばトドメの一撃に支障が出る。
だが忘れてはいけない。ここにはもう一機の神権機がいる事を。
「何だい。あれだけこの前遊んであげたのに忘れたなんて寂しいね――『|神意・平等(ヴィラルド・カルベスト)』!」
大罪法が、魔力へと還っていく。生まれた莫大な魔力が再度この場にいる機体達へと配分された。非合理を相手に押し付ける平等の神権。それの最大展開は威力を落とし込むだけに留まらず、零に還す。そしてその結果生まれた魔力さえも己の物とする敵にとっては平等とは程遠い結果を産み出す物。
『やれやれ、こっちもこっちで苦戦しているな』
強力な攻撃を立て続けに叩き込まれ、更に反撃も防がれたグラン・トルリギオンを見て、地上へと移動して来たフィリウスは溜息を吐いた。
『本能だけじゃこれが限界か。九つの大罪全てを合わせ込もうと欲張るよりも、まずはあの三つで何とかするべきかな。……大体半分か。正直、あんまり楽しい気分じゃないが……仕方ない』
諦めたように再度溜息を一つ。そして合図をするように指を鳴らす。その仕草はカルロスの父であったフィリウスが好んでいた仕草。そうした端々に宿主の残滓が感じられる。カルロスが見ていたらまた動揺する要因だっただろう。
『目覚めの時だ。僕(・)』
その声に応えるように――グラン・トルリギオンの眼に知性が宿った。魔法は余程上手く使わないと平等で掻き消される。それを避けるためには――純然たる物量で攻めるべし。機龍を更に一回り巨大にしたサイズのグラン・トルリギオンは身体その物が既に強力な武器だ。トドメの一撃を放とうとするヴィラルド・ウィブルカーンへ体当たりを敢行する。身体の後ろ半分を滑らせながらのタックルはヴィラルド・ウィブルカーンも回避を選択せざるを得ない。今攻撃を放っても相打ち――それでは神権機に取って負けなのだから。
そのまま尾を交えた近接戦闘。その動きもこれまでとは違う。自身の死角を理解し、隙を潰す様に動いている様には明確な戦術が見える。その動きに戸惑いながらもグランツはヴィラルド・ウィブルカーンに最大の一撃を準備させた。
神剣に蓄えられた魔力は全て対話――グランツの指揮下にある魔力だ。それをグラン・トルリギオンへと叩き込む。その威力は無論の事、重要なのはその後である。切り付けられたグラン・トルリギオンは己の再生の為に直近の魔力を取り込む。グランツの指揮下にある魔力を、だ。
そうなれば如何に複合大神罪とて終わりである。グランツの色が付いた魔力は自由にはならない。魔力無しで出来る事など殆どない。極論その巨体を動かす事さえ不可能になるのだから。ただこれは本来、邪神が復活した時の切札の予定だった。神剣その物にも多大な負荷をかけ、神権機自体も数年単位の修復が必要になる奥の手。言ってしまえばリミッターの解除だ。現状それが出来る程に神権に同調しているのはグランツしかいない。故にこれが最初で最後の手だ。
大陸最大の魔力を宿した一撃が振るわれる。グラン・トルリギオンはそれを自らの尾で受けた。二股に分かたれているそれを鞭のようにしならせた一撃。そこにも大罪の権能が付与されている。さしもの平等であっても、外部に放出された物では無く内部で完結している物までには干渉できない。尾と刃がぶつかり合った接点。黒い不活性化エーテライトが大量に生み出されていく。無二の大罪による迎撃。
しかしそれも長くは続かない。徐々にその勢いが弱まって行き、尾に切れ込みが入り、両断した。二本ある尾が一本だけとなり、再生する気配が無い。グランツの目論み通り、グラン・トルリギオンは傷口からヴィラルド・ウィブルカーンの放つ魔力を取り込んでしまっていた。
「これで終わりだ。複合大神罪」
更に翻ってヴィラルド・ウィブルカーンはグラン・トルリギオンの首を狙う。そこを落としてしまえば後は再度分割された大罪機とイビルピース。苦戦する様な相手では無い。刃が首をも断ち切ろうとしたところで。
『止めを刺す瞬間こそが最も無防備――君の言葉だったね、グランツ』
狙っていた首が、ヴィラルド・ウィブルカーンを真正面から見つめてそう喋った。その事実に、内容にグランツは大きく動揺した。そしてその動揺に付け込むように先ほど切り落とした尾。それが最初の様な影となってヴィラルド・ウィブルカーンの脚部に巻きついた。
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