14 アウレシア戦線:3

 機龍の整備を見守っていたトーマスを引っ張って、ハーレイの言う所のプレゼントを見に行くケビンとトーマスの二人。

 格納庫の一角へと案内された二人の前にあるのは――三機のデュコトムス。

 

「デュコトムスじゃんかよアストナードせんせー」

「ふっふふ。期待通りの反応ありがとう」

「……いや、待てトーマス。良く見ろ。装甲が薄い」

「んあ? ほんとだ」


 他にも細部があちこち違う様にケビンには見えた。隣に見比べる対象があればもっと差異に気付けるのかもしれないが、記憶を頼りにするだけではそれが限界だった。

 

「アストナード卿。この機体は?」

「覚えていないかな。アルニカ殿が多分話していたと思うのだけど」

「カルロスが……?」


 何時頃の話だろうかと記憶を探り当てようとするケビンよりも先に、トーマスが思い出したようだった。

 

「あれじゃないか? デュコトムスをケルベインの技術で強化するって奴」

「そう。それだよ」

「それではこれが」

「そう。デュコトムスの強化試作機……まあ僕らはデュコトムスプラスとか呼んでいるけどね。正式な名付けはアルニカ殿に任せるさ」

「いえ、それは止めた方が良いかと」

「そうなのかい?」

「はい。絶対に」


 超デュコトムスとか名付けられてはたまらないケビンは強硬にそう主張した。別にハーレイとしても拘るポイントでは無かったのか。あっさりとそれを認めて話を先に進めた。

 

「大体今の話から予想が着いているとは思うけど、ケルベインと同じように機動力と運動性能に機能を割り当てた機体だよ。見ての通り、装甲は大分薄くなっているからデュコトムスと同じ感覚で操縦すると痛い目を見るかもね」

「ケルベインと同じ感覚で良いって事か?」

「うちの試験操縦者が言うにはまた違う機体だとの事だよ。ベースがデュコトムスだからね。パワーは圧倒的にこっちが上。そこに高機動を実現するパーツを組み込んで、機体重量を軽減させて……まあ苦労したよ。大型機の理解から始めないといけないからね」

「はあ」

「むう。つまらないな。アルニカ殿なら乗ってきてくれるのに」

「いえ、その……あいつほど魔導機士の愛に溢れている奴はログニスにも中々いないので……」


 ついでに言うのならば、多分ハルスにもそうはいない。だからこそこの二人は仲良くしているのだろうという気もするが。

 

「まあ次にあった時にたっぷりと彼に語らせてもらうさ」

「それはそうとさ。何で三機なんだ?」

「それは元々君達の為に用意していたからさ。アルニカ殿との約束でね」

「……ああ。そうか」


 何故この場呼ばれたのが二人で三機あるのかと思っていたらそう言う事かとケビンは納得する。本当は、ここにいるはずだったもう一人の為に用意されていた機体だったのだ。

 

「……まあ最後の一機は予備機だと思っていればいいよ。どうせハルスでは使わないだろうしね」

「そうなんですか?」

「大型機に余程慣れていないと乗るのは厳しいね。ここのデュコトムス部隊の面々の中でも乗れるのは何人いるか……」


 どうも今回も難儀な機体らしいと知ったケビンは口元に控えめな笑みを浮かべた。そう言う無茶振りはカルロス相手で慣れていた。

 

「乗りこなせれば通常のデュコトムス以上の性能は約束するよ」


 その挑戦的な言葉に、トーマスも強気で答える。

 

「任せろって。ばっちり戦果を挙げてアストナード先生がまたやらかしたって宣伝してきてやるよ」

「まあ宣伝何てしなくても僕がやらかしたって事はばれているけどね!」


 声に出して笑い合う二人にケビンは今の何処が笑うポイントだったのだろうと真剣に考え込んでいた。

 

 ハーレイからのプレゼントに満足した二人は格納庫の外に出て、未だにマンウォッチング中の二人を見つけた。カルラは若干頬を上気させているし、ネリンに至っては美人が台無しになる様な表情を作っていた。あれでは百年の恋も冷めるだろう。

 

「はあはあ……良いですわ……偶にはマッチョと言うのも悪くないですわね……」

「鍛え上げられた肉体……なんだかよさが分かってきた気がします」

「やはり貴女は筋が良いですわカルラ……」


 順調に、カルラは堕ちていた。頭が痛いやら悲しいやら。複雑な気持ちになったケビンは余り近付きたくないと思いながらもネリンに背後から声をかける。

 

「シュトライン卿」

「うへへ……あら、クローネン様。どうされたのですか?」


 だらしのない顔が一転、誰が見ても清楚な令嬢の物に切り替わった事にケビンは女って怖いと思う事しか出来ない。その見事な二面性にトラウマを刺激されたのかトーマスの顔色が若干悪くなっていた。

 

「もしかして……一緒に殿方を観察したい?」

「え。もしかしてケビン君って……」

「もしかしては無いので……。貴女の、というよりオルクスの方針を聞きたい」

「ああ、その事ですの」


 相手が大罪となれば、それは神権機が出張る口実になる。その助力が有れば相当に楽が出来るという目算が有ったのだが、ネリンの言葉は否定の物だった。

 

「申し訳ありませんが、私今回は傍観者とさせて頂きますわ」

「……理由をお聞きしても?」

「もったいぶった理由なんてありませんわよ。ただ、今回のケースは誓約に反する。それだけですわ」

「例の人同士の争いには介入しないという?」

「ええ。今はまだハルスとアルバトロスの戦い。そこに私たちが割り込むことはできません」

「アルバトロスがオルクスを攻めるとしてもか」

「その時はその時。私達は国を守るために戦いますわ。でもその時でもそれ以上はしません」


 断固としてそう告げるネリンに、トーマスがどこか白けた様な表情で毒を吐く。

 

「随分と融通が利かねえのな」

「そう邪険にしないで下さいまし。この誓いこそが私たちをまだ人の側に留めている証なのですから」

「人の側に?」

「神権機の力は絶大。その力を思うままにふるまえばそれだけで大陸の情勢は変えられる。だからこそ、私たちは自粛するのです。人の手に余る時だけその力を振るうべきだと。そうでなければ私たちは――」


 言葉の終わりは音に成らなかった。だが唇の動きからケビンは何を言いたいのか分かってしまった。神に堕ちてしまう、と。ネリンはそう言おうとしていたのだった。

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