08 選考予備会

 その後もトライアルは続いた。機動力、近接戦闘力、遠距離戦闘力。装甲材を使用した防御力測定など多岐に渡る項目を様々なシチュエーションで性能を評価していく。

 

 ゴールデンマキシマムは別格として、アルバトロスの主力機であるエルヴァリオンの性能を丸裸にしながら、ケルベインとデュコトムスの苛烈な競争は続いて行く。

 

 デュコトムスは流石の性能バランスを見せている。元々あらゆるシチュエーションに対応できるように設計していたのだから想定通りとも言える。総合力ではデュコトムスが圧倒的優勢。しかしながら得意分野ではケルベインはデュコトムスを上回る性能を発揮していた。特に平地などで足を使う戦場ではケルベインのスコアは突出している。

 

「さて……一先ず選考会も二週間が終わった訳だけど」


 そう口火を切ったのはツェーン王家の配下である侯爵家のロバートだ。今この場にはハルス四王家の代表格が集っている。それぞれオブザーバーとして一人ずつ後ろに控えさせている。そこにログニス代表としてラズルと、オブザーバーとしてのカルロスが居た。

 

 今から始まるのは選考会の中間審査とでも呼ぶべき物だ。アルバトロスの侵攻がいつ始まるのか分からない為――実際には、この時点で既にメルエスへと侵攻しているのだがその情報はまだここまで届いていない――早い段階で結論を出せるのならば出してしまえば良いという考えの元、タタン王家から提案された物だった。実際、ログニスもテジンもそんな一目で分かるようなお粗末な機体を作っているつもりはないのでその時点での評価を整理するという意味合いが強い。

 

 今回の次期主力機選定は中立であるツェーン王家が取り仕切る事になっている。テジン、タタンは当事者。テュールもログニスへの支援を行っているとなると順当な選択であった。

 

「どうかな。今までの段階で」


 そのロバート侯爵は温和な性格らしい。口調にもゆったりした物が出ていて、周囲の空気を和らげてくれる。が、そんな空間の中でも刺々しい気を発している者はいる。

 

「言うまでもありませんな。あの様な木偶の坊。居るだけ無駄です。我が! ケルベインで決定でしょう」


 我がを強調して宣言するのはタタン王家の代表者だ。我がの下りでテジン王家代表の後ろに控えていたハーレイが露骨に嫌そうな顔をした。間髪入れずにテジン代表が彼の腿に肘打ちを入れた。一瞬痛そうに顔をしかめてハーレイは表情を元に戻す。振り向きもせずにどうやって察したのだろうかとカルロスには不思議だった。そちらを見ているとハーレイがカルロスに向けて肩を竦めて来た。

 まあ気持ちは分かる、とカルロスは小さく頷き返す。ハーレイの話が正しければ、タタン王家はケルベイン開発に殆ど寄与していない筈だ。連中の言い分では新式は自分たちが作った物だという事なのだろうが……。

 

 そしてこの物言いである。スコア的にはまだ決定打となる物は存在しない。この無根拠な自信はもはや一種の才能だなとカルロスは思う。

 

「現状ではまだまだ両機共に見るべき物はあるでしょう。判断を下すにはまだ早いかと」


 武闘派であるテュール王家の代表者は全体のイメージに反して理知的な瞳を持った細身の男だった。背後に控えるレヴィルハイドとの対比が酷い。良くレヴィルハイドを背後に置けるなとカルロスは感心する。何だか無性に不安になってカルロスは前に立つことが出来ない。その視線に気付いたのか、レヴィルハイドがウィンクを飛ばしてきた。有り得ないのだが物理的な衝撃が伴っている様に感じてカルロスは思わず仰け反る。

 

「軍部としては次期主力機もそうですが、アルバトロスの主力機の性能が判明したのもありがたい。これだけでもログニスには感謝してもし足りない程だ」


 本来ならば多大な犠牲を払わなければ無傷の機体を確保など出来ないだろう。ログニスが鹵獲してきたアリッサのエルヴァリオンが存在しなければ、相手の情報も不明のまま開戦と言う事も考えられた。ちらりとテュール代表がカルロスに視線を向ける。その視線に険は無いが、只者では無い鋭さを感じる。ただのデスクワークと言うわけでもなさそうだった。

 

「テジン王家としても継続に賛成です。現時点でも、それぞれの機体で使用されている技術についての意見交換が行われています。今後の開発の事を考えると、技術交換の場としても機能させて頂きたい」


 確かにトライアル現場を見ながら雑談はしているが、あれを意見交換と呼んでいいのだろうかとカルロスは思う。酷い時など

 

「何か今の動きちょっと虫っぽかったですね」

「何かキモいですね」


 などと言う非常に頭の悪い会話をしていたのだが。だがその反面、互いの技術を自分達の機体に応用させるとなったらどうするかと言う話もしていた。例えば、ケルベインの駆動系技術をデュコトムスに転用したら燃費の改善と機体重量の低下が見込めるだとか。新型魔導炉をケルベインに搭載すれば内部機構を省スペース化しながら稼働時間を維持すると言った事が出来る。

 

 正直、カルロスは今の開発体系ではそんな事は不可能だと思っており、ラズルも同様の意見だったのだがテジン側ではそうでは無かったらしい。この場で口にするという事はそれなりに見込みがあるという事だろうか。

 テジン王家のその発言に一番驚いていたのはタタン王家だ。

 

「な! 何を勝手なことを! これは我々の技術を無断で流出させたという事ですぞ! 良くも堂々と……!」

「あはははは。面白い事を言うね。ケルベインの構成技術に君達が考案した物なんて一つも含まれていないじゃないか」


 乾いた笑い声と共に投げつけられたのはハーレイのそんな挑発するような言葉だった。彼にしては珍しい事に言葉に僅かな苛立ちが含まれている。ケルベインはハーレイが中心となって開発された機体だという事は分かっている。彼にとっては自分の子供の様に手塩にかけて来た機体だろう。何も関与していない相手がしゃしゃり出てくれば苛立つのも無理はない。

 

「き、きさ、貴様……!」

「失敬。私の部下が失礼をした」

「その様な謝罪で……」


 手短な謝罪に納得が行かなかったのか、タタン王家側は尚も言い募ろうとしたが断固としたテジン王家側の言葉に押し黙った。


「これ以上を望まれるのならば、正式なルートで申し込んで欲しい。第三者である王家の元で裁定が下されるだろう」

「その時はきっと僕らが呼ばれるのかな? ちゃんとお金を払ってくれれば公正な審判を約束するよ」


 気のせいだろうか。今このツェーンの代表は金を出さなければ不利にするぞと言った気がする。何とも、この四王家内でも確執があるらしい。そんな波乱含みで選考予備会は始まった。

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