33 神の被造物

「行くぞ、神剣使い!」


 グラン・ラジアスが先陣を切った。大剣が真っ二つに分かれ、双剣へと姿を変える。イビルピースの光の剣。両手に携えたそれに対抗するために手数を増やす事が狙いだった。


 文字通り半減した質量の剣を自在に振るう。その姿はむしろ、こちらの方が慣れているのではないかと思える程だ。大剣の技も見事だったが、双剣は最早一つの芸術の様だった。斬るというよりも舞うと言った方が近い。


 イビルピースもその乱舞を受け流すのに手いっぱいになっている様だった。その対処能力が飽和したところに。


「隙だらけだな」


 ヴィラルド・ウィブルカーンが滑り込む。下段からの切り上げ。相手の脛を狙った一撃は跳躍することで回避された。その自由の利かない空中で。


「迂闊だな。十四年前から進歩が無い」


 双剣を指揮杖の様に掲げる。その頭上には機法によって生み出された魔力を侵食する剣が十六本。右手の剣を横に振るうのに合わせて十六本が一斉に射出される。

 その掃射をイビルピースは両腕の光の剣で弾いた。弾いて弾いて弾いて、十六本を凌ぎ切った所で。


「もう一度言うぞ。隙だらけにも程がある」


 高く跳躍したヴィラルド・ウィブルカーンの振り下ろしがイビルピースの背中に深い裂傷を刻みながら地面へと叩き落した。


「やるじゃないか」


 面白くなさそうにレグルスはそう称賛した。グランツの返答も鼻を鳴らしただけなのだからお互い様と言うべきか。


 二人の連携を見ていたカルロスは素直に戦慄する。とても即席とは思えない。長い戦闘経験が可能にしたアドリブでのチームプレイ。あれだけ相手に合わせられるという事は言い換えれば相手の動きが見えているという事だ。先ほどは短時間で終わったが、あれが長引いていたらどんな結末になったのか。


 そして自分が戦うのならばどう戦うべきなのか。


 砂煙の中からイビルピースが姿を現す。先ほど与えたはずのダメージは殆ど残っていない様だった。


「創法による高速再生か? どれだけの魔力があるんだ……」

「少なくともアルバトロスが数十年は採掘できるだけの量を取り込んだはずだ。とは言え……無限ではない。この調子で削れば問題ない」


 イビルピースが震えている様に見えた。そこでカルロスはある変化に気が付いた。


「……口がある?」


 先ほどまでは影も形も無かった口の存在。そこが開いた。漏れ出してくるのは聞いているだけで頭が痛くなる様な甲高い声。一瞬で莫大な音の塊を叩きつけてくる。


『 、「、「。「チヌタイ、鬢キ、、 』

「何だ?」

「まさか……」


 レグルスは十四年前にも見せなかった反応に戸惑い。逆にグランツは心当たりがあるのか語尾が震えていた。


『 チイ、ッイ讀ャハャ、アソネ、ヒーユシア、ミ、ケサャスミヘ隍ソ。」エカシユ、ケ、??????セ。」イ讀ャサメ、鬢??? 』


 朗々と謳い上げるように、それは声を発する。全く理解の出来ない音の羅列。だがそれはきっと言葉、なのだろう。


『 フオニネツミマテ、ォ。」チ熙簗ム、??????鬢コオョヘヘ、鬢マケァケヤハェ、隍ハ。」ニテ、ヒフオニ陦」オョヘヘ、ャオッ、ウ、キ、ニ、、、????????????ホ、ェア「、ヌイ讀ホハャ、アソネ。」、ス、ホヒィイ熙マウニテマ、ヌー鬢テ、ニ、、、??????セ 』

「何を言っているんだこいつは」

『 オョヘヘ、鬢隍?????????、皃ミ、ウ、ホハャ、アソネ、ホホマ、マイ讀ャコ皃蟯??????」、ス、ヲ、ハ、??????ミ、ウ、ホヒワツホ、ャクスタ、、ヒチノ、????????????箜ッ、ハ、、、タ、??????ヲ 』

「本当に……邪神なのか。何故だ……何故そこまで……」


 グランツは耐えかねたように言葉を切った。敵対者であるはずの邪神への反応にしては些か妙だった。だがそれを追及するには材料が不足していた。


 イビルピースの装甲表面が薄く輝く。


「光の鎧……気を付けろ! あれを展開されて以降は対龍魔法ドラグニティ以上でないとダメージが与えられなくなった」

「魔力障壁……やはりこれは邪神の力を分け与えられた存在か!」


 対龍魔法を以てして漸く破れる防御力。それは殆ど龍族と互角の防御力という事になる。神権機とて龍族に匹敵すると言われるが、それは攻撃力の話。防御力に関してはそこまででは無い。魔導機士と同サイズでそれだけの防御を実現するとなれば厄介だろう。


 ここにいる二機にとって、それは大した障害にならないのも事実であったが。


『 、ヲ、ト。ト。ゥ。。ツヤ、ニ。「、ェチー、マイソ、タ。」コ皃ヌ、篶オ、ッ。「ツミコ皃ヌ、筅ハ、、。」、タ、ャイ讀ャホマ、ホテヌハメ、カ、ク、??? 』

「全てを射抜け――」


 双剣を繋ぎ合わせ、弓に変化した状態から放つ大罪法グラニティ。その銘は変わらず、特性だけが変わる。範囲を犠牲にして、どんなものであろうと不活性化エーテライトへと変えてしまう極限の一矢へと。


「『大罪・無二グラン・ラジアス』!」


 極黒の矢がイビルピースを貫く。それを追うように。


「此処に天の理を示す」


 遥か太古の神意が姿を現す。


「代理人の名の元に神罰を執行する」


 神剣と言う枠に抑え込まれた神権。その一端が解放される。ヴィラルド・ウィブルカーンが守護する神権は――。


「我が銘、対話の神権よ。ここに在れ」


 ここで言う対話と言うのは人と人との意思疎通も含むが、今の世に置いて最も重要なのはそこでは無い。この神権が司っている本質は、魔力との対話。即ち、人へと魔法を与えた物がこの神権だ。

 この世界を支えている一要素。そこに込められた神意は他の神権と比しても特に強力な物だった。


 故に――単純な威力だけで言うのならば間違いなく大陸最強クラスの一撃がここに顕現する。


「『神意・対話ヴィラルド・ウィブルカーン』」


 イビルピースを貫き、その背後の城壁も粉砕して大地に爪痕を残してその一撃は止まった。派手に土煙を上げている爪痕を見てレグルスは露骨に顔を顰める。


「おい、人の城を余り壊すな」

「悪いな手加減出来る物では無かった」


 二人とも、その一撃で決着だったと認識していた。だからカルロスは叫ぶ。


「まだ生きている!」


 グラン・ラジアスもヴィラルド・ウィブルカーンも消耗しきっていた。そこに。


『 ノ。ケスウォハ??????」・マ。シ・筵ヒ・テ・ッ・??????、・カ。シオッニー 』


 全く理解の出来ない、異界の――或いは神界の言語。その言葉と同時にどこからともなく引き抜かれた長剣。それが周囲の空間諸共グラン・ラジアスとヴィラルド・ウィブルカーンを切り刻んだ。


 先ほどまで優勢だった形成を一瞬で逆転させる鬼手。装甲を刻まれながらも致命傷だけは避けたのか。両機とも機体中枢と骨格は護った様だったが先ほどまでの様な戦闘は不可能だろう。

 だがイビルピースもその一撃は捨て身の物だったのか。自分自身の技で傷を負いながらも――それでもまだ動き、両機に止めを刺すだけの余力は残っている様だった。


 ここに大勢は決した。

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