153

 日向は部屋に入ると私にキスをした。


 優しいキスが、痺れるような激しいキスへと変わる……。


 初体験の辛いトラウマが、一瞬脳裏を過ったが、日向のキスはそれを考える隙を与えないくらい、正常な思考回路を壊していく。


 逞しい手が洋服を脱がし、ベッドに身を沈める。日向は私の目の前でスーツの上着を脱ぎ、右手でネクタイを緩めシャツを脱ぎ捨てた。


 逞しい上半身が露になり、思わず視線を逸らした。


「目を逸らせないで。ちゃんと俺を見て下さい」


「……日向さん。私、やっぱり……帰」


 『……帰ります』その言葉を封じるように、日向は唇を塞いだ。太い指は私の頬、私の首筋、そして……胸の膨らみを滑るように下りていく。


 こんな感覚は初めてだった。恐怖心というよりは、日向に触れられると指先までもが敏感になっていく。キスの嵐にのみ込まれ上手く呼吸出来なくて、自然と吐息が漏れた。


 日向の指と舌に弄ばれ、体は大きくうねる。日向は私の掌を掴み、指を絡ませた。


 自分の声に耳を塞ぎたくなる。


 これはお酒のせいだ……。

 アルコールのせいにしなければ、今の自分を肯定出来ない。


 自分を閉じ込めていた固い殻が、日向の腕の中で砕け散った。日向は私を見つめたまま激しく体を揺らした。


 自分自身をコントロール出来なくなるほど上り詰め、目の前が白く霞む……。と、同時に、ほんの一瞬意識を手放した。


 ――ぐったりしている私に、日向は優しいキスを落とした。


「ごめん……。大丈夫ですか?」


「……意地悪ね」


 今まで経験したことのない余韻に体は火照る……。

 羞恥心から日向に背を向けた。


「先にシャワー使って下さい」


「……こっちを見ないで」


 日向よりも、私は年上だ……。

 こんなこと慣れていないのに、さも場慣れしているような態度で、平静を装いベッドから降りた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る