145

 ロッカールームで着替えを済ませ、そのまま銀座に向かった。


 ――プレミアム・ゴールドホテル『胡蝶蘭』


 最上階にある中華料理店。店員に木崎の名を告げると、個室に案内された。


「木崎さん、こんばんは」


「雨宮さん、突然呼び出してすみません。どうぞ座って下さい。お料理はコースにしました。それで良かったでしょうか?」


「はい。お任せします」


「実は望月から結婚の話を聞いて、自分のことのように嬉しくて。雨宮さんと祝杯を上げたくなりました」


 いつもの落ち着いた雰囲気の木崎とは異なり、少し早口で興奮ぎみに話す木崎が、幼い子供のようで、また違う一面を垣間見た気がした。


 落ち着いた大人の顔。医師の顔。そして、友人を祝う無邪気な笑顔。


「しかもおめでただなんて。あの慎重な望月がスピード婚をするとは、本当に予想外でしたよ」


「望月さんって、女性には慎重なタイプなんですか?」


「結婚には慎重と言った方が正しいかな。だからなかなか縁談も纏まらなくて。きっと本平さんに一目惚れしたんでしょうね」


 あの望月が女性に慎重だったとは。望月も南原も木崎も、女性の憧れる医師という職業、自然と女性が群がるはず。


 しかも個人病院や総合病院の後継者達。私達を本気で結婚の対象として見ていたなんて、到底思えなかったから。


 食事をしながら、木崎は親しい仲間だけで、望月と留空の婚約パーティーを開きたいと提案した。


「婚約パーティーですか」


「はい。望月の学友には私から連絡します。花菜菱デパートのお仲間には雨宮さんが連絡していただけませんか?人数はそうだな。男女合わせて三十人ほどでどうでしょう」


「三十人……」


 半数としても十五人。

 留空はおとなしい性格だから、花菜菱デパートで親しい友人は、美空と陽乃と私くらいしか思い浮かばない。


「あの……。そんなには集まらないかも。もっと少人数でしませんか?合わせて十人か十五人くらいで」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る