138

 珈琲を入れテーブルに戻ると、陽乃が私に視線を向けた。


 留空のことを悟られないようにと、思わず陽乃から視線を逸らす。


「留空、妊娠してるんでしょう」


 陽乃の言葉に動揺し、思わず珈琲を口に含む。


「……熱っ」


「柚葉はわかりやすいな。大丈夫だよ、美空には言わないから」


「留空の妊娠なんて、し、知らないよ。聞いてないし」


「そうなの?私も経験あるからわかるの。私はさ、産んであげることは出来なかったけど」


 陽乃にそんな経験が……?

 初めて……聞いた……。


「大学生の頃、流産したの。でも体より心に深い傷を負った。留空の性格なら、一生後悔するよ」


「陽乃……」


「お節介な柚葉は、留空をほっとけないんでしょう」


 陽乃は携帯電話を取り出し、を探している。何かを見つけると、私の目の前に携帯電話をスッと差し出した。


「望月さんのケータイの番号。自分のケータイに早く登録しなさい」


「陽乃……」


「留空に口止めされてるんでしょう。私が電話するわけにいかないじゃない。留空の妊娠を知っているのは、柚葉だけ。産むか産まないかは、望月さんと留空が決めること。留空だけが決めていいことじゃない。柚葉もそう思ってるんでしょう」


「陽乃ありがとう。私も望月さんに話すべきだと思ってる。今夜電話してみるよ」


 私は制服のポケットから携帯電話を取り出し、望月の電話番号を登録した。


「じゃあね、私は仕事に戻るから」


 陽乃は珈琲カップを手に、椅子から立ち上がる。


 陽乃は男女の関係には、とてもシビアだと思っていたけど、友達思いの優しいところもある。


 美空も留空も、そして私も、性格の異なる四人が、いつもこうして一緒にいるのは、互いを認め合っているから……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る